第10話 誰がやるのか超レア不遇クエ
レナがクエストに立て続けに失敗した場所から、さほど離れていない木材収集ポイントが密集した密林の中。
赤毛の女戦士アイ・スクリームと、眼鏡っ娘神官ポニー・サラブは木材収集用アイテムの手斧を片手にポイントのポップした木を攻撃してアイテム収集に勤しんでいた。
レナ【周囲】:ソロ、無理だろコレーーーーー!!!!!
唐突に近くからチャットが入る。
ポニー【囁き】:んー? 誰か近くにいる?
アイ【囁き】:チャットダダ漏れ・・・
ポニー【囁き】:初心者さんかな?
【モーション、はてな?】
アイ【囁き】:どうかなー。チャットダダ漏れで遊ぶ人、一定数いるからね
視界の端に表示されたミニマップ・レーダーを見てみると、距離にして50メートルほど離れた先に件のキャラはいる様子だった。
しばらくして北へ立ち去ったかと思うと、緑のドットを三つ連れて再び南下してきて、その周囲に複数の赤いドットが出現。
赤いドットと白いドット、プレイヤーキャラクターが戦闘を始めるように激しく動き回り、赤いドットのいくつかは緑のドットに群がる。
あっという間に緑のドットが消滅して、赤いドットもポツポツと消えていく。
レナ【叫び】:うわー! やってられるかーーー!!!!!
アイ【囁き】:うわぁ・・・、叫んじゃったよ
【モーション、ガックシ】
ポニー【囁き】:何やってるんだろうね
【モーション、首を傾げる】
アイ【囁き】:見に行ってみる?
ポニー【囁き】:あんまり関わりたくない人かもー
アイ【囁き】:公式で発表しない小クエストかも
ポニー【囁き】:隠しクエスト?
【モーション、はてな?】
アイ【囁き】:べつに隠しちゃないだろうけど・・・
ポニー【囁き】:このゲームよくあるよねぇ。報酬の美味しくないくせに難易度の高い不遇クエスト
アイ【囁き】:マズすぎたり、不便な場所すぎて受けにいく人がいないクエね
【モーション、ガガックシ】
ポニー【囁き】:行ってみる?
【モーション、はてな?】
アイ【囁き】:みますかー
【モーション、やれやれ】
レナは再びクエストに失敗して、憂さ晴らしに周りの木や木に止まっている小さな虫のカブト虫に似たモンスター、ボールバグを乱獲して回る。
手斧を使っていない為、木からドロップするアイテムは低レベル素材の枯れ枝ばかり。
レベル1モンスターのボールバグ相手に、袈裟斬りから横一文字斬り、さらに刺突と三連撃を繰り出す片手剣スキル、ハイトリプルカッターを連発して乱獲を続けるレナ。
やや南西側の木の陰から、赤毛の女戦士と眼鏡っ娘の女神官が姿を現し、荒れるレナに話しかけてきた。
アイ【周囲】:もしもーし、低レベルモブ乱獲してると たまに通報されるから気をつけた方がいいですよー
レナ【周囲】:はっ!?
もの凄くビックリしたモーションで仰け反るレナ。
アイとポニーは、それを見てほぼ同時に首を傾げた。
アイ【囁き】:なんであんなに驚いてるの
ポニー【囁き】:この辺初期エリアで過疎ってるから、人がいると思ってなかったのかも
アイ【囁き】:あー・・・
そんな会話を内々でしているとはつゆ知らず、レナは二人に話しかけた。
レナ【周囲】:あー、貴女達も迷子のプチハーピークエ?
ポニー【周囲】:何ですか?それ
レナ【周囲】:北のほうにプチハーピー3体いて、そのうちの一匹がクエスト出してくるんだけど
アイ【周囲】:え、あの3匹ってただのモブじゃなかったの?
レナ【周囲】:緑ネームのいなかった?
ポニー【周囲】:そういえば、木材収集の邪魔するからよく見ないで倒してたかも
アイ【周囲】:うーん。今ネット攻略見てるけどそういうクエストの情報はないなぁ
【モーション、ノートを読む】
レナ【周囲】:じゃあ、やっぱりファストチャレンジかも? ひとりじゃクリア出来そうもないから、よかったら一緒にやらない?
アイ【周囲】:うーん、まぁ、いいけど
ポニー【周囲】:どんなクエなんです?
レナ【周囲】:多分、迷子のプチハーピーをママハーピーに届ける?
アイ【周囲】:よくわからないクエストね
レナ【周囲】:とりあえず、行ってみない?
ポニー【周囲】:いってみよー
三人で件のクエストに向かう。
森の少し開けた場所に、確かにプチハーピーが三体いた。
緑ネームの一体は、大きな木の近くで固定されており、広場を赤ネームの二体がうろついている。
レナ【周囲】:赤ネに絡まれるといきなり失敗するから裏から回って?
レナが先導して木の下にいるプチハーピーに向かって行く。
それに習って後をついていくアイとポニー。
プチハーピーA:だーれ? だーれ?
アイ【周囲】:あら、近付くだけで始まるって珍しい。
ポニー【周囲】:プチハーピーってキモかわいいよねー。
アイ【周囲】:いや、普通にキモいっしょ。
レナ【周囲】:ターゲットして話しかけると始まるけど、準備はいい?
アイ【周囲】:いいも悪いもわからないからお任せします。
ポニー【周囲】:その前にPT組まない?
レナ【周囲】:あ、そうね。組みましょ。
レナはメニューを開く。
淡く輝くノートがレナの前に浮遊して開かれる。ロストファンタジアオンラインでは、世界観を損ねないようにとメニューも魔法扱いでノートの形で展開されるのだ。
設定では、英雄足り得る冒険者専用の魔法という事になっている。
レナは、パーティ編成の項目を選ぶと、同じマップのプレイヤーキャラクターを選択し、アイ・スクリームとポニー・サラブを選択してパーティに誘うボタンを指でなぞる。
アイとポニーの頭上にパーティ要請のアイコンが点灯し、二人もメニューを開いて同意を選択。
お互いの視界の左端に、それぞれのキャラクターの名前とHP・MPが表示されてパーティ編成が完了した。
アイ【パーティ】:おー、レナさんレベル80かー。
レナ【パーティ】:アイさんが75戦士で、ポニーさんは79神官かー。行けるかも。
ポニー【パーティ】:敵は何が出るんです?
レナ【パーティ】:レベル50ゴブが30体。
アイ【パーティ】:単体では雑魚だけど、それだけいたらソロじゃやられるね。
レナ【パーティ】:そうなのよ・・・。プチハーピー守らないといけないし、プチハーピーのレベル10だから2〜3発食らうと死んじゃうし。
アイ【パーティ】:うへー、無理ゲー。
ポニー【パーティ】:じゃあ、私が結界魔法のエビルプロテクションでプチハーピー達を囲みながら進まないとね。
アイ【パーティ】:効果時間1分だっけ?
ポニー【パーティ】:超掛け直しファンタジーですー。
レナ【パーティ】:結構ウロウロするから回復魔法もお願いね。
ポニー【パーティ】:神官使いの荒いクエこわ。
アイ【パーティ】:さて、じゃあどんなクエストなのかやってみましょう!
レナ【パーティ】:オッケー、いくよー!
レナはプチハーピーAをターゲットして話しかけた。
レナ【周囲】:どうしたの?
プチハーピーA:ゴブリン? ゴブリン?
レナ【周囲】:違うよ、冒険者だよ。
二体の赤ネームプチハーピーが緑ネームに変わってレナの近くをウロウロし始める。
アイ【パーティ】:慣れてるわね。
ポニー【パーティ】:慣れてますね。
プチハーピーA:ママ、ママはどこ?
レナ【周囲】:君達はどこから来たの?
プチハーピーA:おうちー
レナ【周囲】:じゃあ、お家はどっちかな?
プチハーピーA:あっちー(南東を指す)
レナ【周囲】:じゃあ、お姉ちゃん達とお家探しに行こっか!
プチハーピーA:わーい
プチハーピーB:わーい
プチハーピーC:わーい
アイ【パーティ】:ぴょこぴょこ跳ねて喜ぶ3匹がシュールすぎる。
ポニー【パーティ】:キモかわいいよねー
レナ【パーティ】:ねー
アイ【パーティ】:普通にキモいわ!!
レナ【パーティ】:さあさあ、すぐゴブ出てくるからお願いね!
アイ【パーティ】:おkおk
ポニー【パーティ】:バフいれまー。
ポニーはパーティメンバーの防御を上げる魔法、マジックシールドを使用し、すぐに直径10メートルの敵を寄せ付けない結界、エビルプロテクションを展開してプチハーピー達の真中に移動する。
一行はプチハーピーの移動に合わせて南下を続け、やがて周囲に30の赤いドットが小マップに表示されたのを確認して、ゴブリンのポップ数が多い方にレナとアイが駆け出して攻撃スキルを問答無用で放った。
レナは、袈裟斬り・横一文字斬り・刺突と三連撃を一度に放つ片手剣スキル、ハイトリプルカッターを立て続けにお見舞いして2体を一気に倒す。
アイは両手剣スキルの範囲攻撃、ワイルドスイングで5体を一度に攻撃するが、一撃の威力はハイトリプルカッターより低めで仕留めきれない。
わらわらとゴブリン達がポニーのエビルプロテクションに群がり出した。
ポニー【パーティ】:ひゃー、多い多い多い! プロテ掛け直す前にやられちゃうよ!
アイ【パーティ】:3人でもきっつ! あたし暴れるからHP低めなのから仕留めて!
レナ【パーティ】:了解! いっくよー!
アイ【パーティ】:うらあーーーーー!
レナ【パーティ】:どおおりゃあああああ!
ソロで単体スキルだけ放っていたのに対して、両手剣の範囲攻撃が加わるだけで殲滅速度は三倍に上がっていた。
それでも、エビルプロテクションを掛け直す間にプチハーピーBが倒されてしまう。
プチハーピーB:うわーん
【プチハーピーBが倒された】
ポニー【パーティ】:あああ、びーちゃーーーーーん!
アイ【パーティ】:うおお、これ以上やらせるかー! ワイルドスイングー!!
レナ【パーティ】:ハイトリプルカッター! ハイトリプルカッター!! ハイトリプルカッター!!!
ほどなくして、ゴブリン達を殲滅すると、プチハーピー達が再び前進を始めた。
レナ【パーティ】:いやあ、一時はどうなるかと思ったけど、パーティなら結構楽勝なのねぇ
ポニー【パーティ】:でも、びーちゃんがやられちゃったよう。くすん。初めからやり直しちゃダメ?
アイ【パーティ】:とりあえず一回クリアしてからねー
ポニー【パーティ】:はーい
森をどんどん南下して行く一行。
小マップに再び反応があり、今度は漆黒の狼の姿のゾンビ系モンスター、ブラックドッグが30体ポップする。
レナ【パーティ】:足の速いのきた!
アイ【パーティ】:ゴブよりHP低いだけちょっとマシ!
颯爽と敵陣に飛び込むレナとアイ。
ポニーはプチハーピー達を守る為にエビルプロテクションを再度展開する。
数の暴力とは大したもので、無難に撃退出来たものの、レナもアイもHPを半分持っていかれていた。
アイ【パーティ】:あと、何回敵出るんだろう。
レナ【パーティ】:通常ならあと一回だけど。
ポニー【パーティ】:今回は守りきったよ!
アイ【パーティ】:えらいえらい
ポニー【パーティ】:へっへー
レナ【パーティ】:あれ、このコースって・・・
レナが神妙な顔で歩きながらマップを見る。
アイが首を傾げた。
アイ【パーティ】:どうしたの?
レナ【パーティ】:なんか、暗黒の隠者の家に向かってない?
アイ【パーティ】:あの、フルアラバトル?
ポニー【パーティ】:何かの伏線かな。
更に進んで行くと、案の定暗黒の隠者とのバトルフィールドである小屋が見えてきた。
レナ【パーティ】:この子達、隠者となんか関係してるのかな。
と、背後に赤いドットがポップしたのを見て一斉に振り返る。
アイ【パーティ】:一体だけか。
ポニー【パーティ】:って、北のほうのモンスターですぅー!
アイ【パーティ】:あちゃあ・・・。レベル85の熊さんだね。
レナ【パーティ】:キラーベアじゃん! 3人で行ける!?
アイ【パーティ】:無理かもー。まあ、やってみよー。
ドタドタと駆けてくる漆黒の巨大な熊、キラーベア。
レナとアイが横に並んで壁を形成すると、移動を妨げるように立ちはだかってスキルを連発した。
キラーベアのHPが数ミリ削られる。
その間にキラーベアの攻撃でレナ達もダメージを受けたのだが、みるみるHPが削られて行く。
ポニーが慌てて回復魔法、キュアウーンズをかけてくれるが、削られる速度の方がやや早い。
ポニー【パーティ】:MP切れ。ヒールしま
と言ってポニーが青い瓶のポーションをガブ飲みし始める。
一本あたり、30MPを回復するブルーポーションだ。
キュアウーンズの使用MPは、一回に15MP。
キラーベアの残りHPは、まだ三分の二残っている。
レナ【パーティ】:なんかゴメン、これはちょっとキツイかも。
アイ【パーティ】:やばいね、やられるね・・・。
レナ【パーティ】:くうー、ここで格上が出てくるとはー!
諦めずに攻撃を続けることおよそ1分。
勝手に進んでいたらしいプチハーピー達が、いつの間にか小屋に到達してメッセージが唐突に表示される。
【completed】
【congratulations】
苦労して戦っていたキラーベアがフェードアウトして消えて行く。
しばらく呆然とその場に佇む三人のプレイヤーキャラクター。
【報酬がもらえます】
【山小屋に行ってみましょう】
レナ【パーティ】:なんかびみょー・・・。
アイ【パーティ】:あんまりクリアした気分じゃないね・・・。
ポニー【パーティ】:報酬だって、報酬だって! もらってみましょー!
アイ【パーティ】:ああ、うん、そうね。
レナ【パーティ】いってみましょー。
釈然としない前衛二人をよそに、嬉々として小屋に向かって行くポニー。
レナとアイは腑に落ちない様子で歩いて、ポニーを追いかけた。
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