絵描き

 絵を始めるにあたって、まずグーグル先生に聞いてみた。「絵 始め方」「絵 入門 おすすめ」。そのころコミュニティーむらは抜けていたので、まず人に尋ねてみるという発想はなかったのだ。方法を知った私は、とりあえずA4の紙に描き始めた。お金も環境も無かった自分には、デジタルは無理だった。


 まっすぐな線を描く練習。三角や四角、円を描く練習。ただスマホ画面に適当な画像を映し出し、それを模写した。このころは結構熱意があった方で、ただただ線を描くだけで楽しかったり、出来栄えはともかく、自分が描けたという事実に対して満足できていた。


 どこかのサイトで知った、限られた時間内で人間を描いていく練習に手を出した。これは失敗だった。短い時間では思うように手が動かず、全く描けなかったのだ。100均で買ったスケッチブック上に、歪んだ人間が羅列された。「なぜ自分はこんな下手な絵を描いてるんだ?」とか、「見本と全然違う、どうなってるんだ?」とか、余計なことを考えていた。限界は突然やってきた。何か叫んで紙に鉛筆をガシガシ叩きつけて、クソとか何とかなぐり書きして、紙を破いて捨てて、それからしばらく絵を描くのを止めた。


 日時が過ぎて、再び鉛筆をとる自分がいた。諦めきれず、何か描こうとするも、何も描けるものがなく、飽きて止めるのを繰り返していた。ある時、もう一回きちんとやってみようと思って、入門書を買った。


 本は二冊買った。アマゾンのお墨付きのやつだ。本を読んで、指示に従って練習した。モチベーションはそこそこあって、課題にも苦労しながら取り組んでいた。新しく買ったスケッチブックに左手を描いたりした。しかし、これも長く続かなかった。ある課題がうまく出来なかったために萎えて放り投げてしまい、また描くことを諦めた。


 それ以来、私は絵を描くことをすっかり諦めてしまった。色々試したが、ほとんど上手くならない割に労力がかかり、何よりも例のゲームをだいぶ前に止めたので、絵を描く目的もなくなっていたことが大きかった。


 私は絵描きにはなれなかった。

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