(4)

 ボクは頭をフル回転させる。

 他の連中を逃がすか?

 ボクが逃げるべきか?

 ダメだ。判断材料になる情報が圧倒的に足りない。

 いや、待て……「もう1人のボク」は、ボクを殺したがっていない筈……。

「お……おい、姉ちゃん、そっちに逃げても出口は無いなかぞ⁉」

 ボクは、元居た独房の方に向って走る。

「逃げたまえ」

「はっ?」

 背後うしろの方で「もう1人のボク」の声がする。

「君達に興味は無い。勝手にするがいい。……さて、何をするつもりだ?」

「こうするつもりだぁッ‼」

 助走の為の距離は取った。ボクは、ロボットに飛び蹴りを食らわせ……。あ……やっぱりダメか。

 ロボットは、蹴りでふっ飛んだ……。でも……。ほんの一瞬だけ、ボクに触れたロボットのてのひらから高圧電流が流れた。

 意識は有る……。体も何とか動く……。けど……あと数分は痺れが残り、動きが鈍くなるだろう。

「私が君を殺したがっていない、と云う判断は正しい。しかし……君を殺さずに捕虜にする方法など、いくらでも有る。君にロクな武器が無い状況では猶のこ……ん?」

「うがぁっ‼」

「おい、やめんか、馬鹿……」

 独房の中に居た巨体の男がロボットの胴体を締め上げる。独房に居た他の男達の悲鳴……。

 ……いや……でも……いける?

 ロボットの装甲が歪む。うまくいけば……内部の機器にもダメージが……。

「悪いが……これには、まだ予備が有ってな」

 えっ……?

 しまった……ロボットの片腕は自由に動かせる状態だ。

 ロボットは……手首から生えた刃を自分の胸に突き立てた。

「う……う……うが……」

 謎の大男の吐血で赤黒く染められたロボットは機能停止した。

「お……おいっ……大丈夫……」

「うがっ?」

「えっ?」

「ああ、そいつは……その……なんかの実験をされているちょるみたいでな……」

 ロボットから離れた大男の傷口がみるみる塞がっていく。傷口の位置からして……心臓はギリギリ外れてるようだけど……。

「ねぇ……医者に診せられるあてってない?」

「いや、見ての通り、傷は……」

「全然大丈夫じゃない……。この手の能力の持ち主でも……傷が内臓まで達していたら……無事じゃ済まない場合がほとんどだ」

「でも……大丈夫そうじゃが……」

「それと……こっちでも抗生物質って有るの?」

「何じゃそりゃ?」

「ええっと……古い薬だと……ペニシリンとかストレプトマイシンとか……その手の薬を……デカい手術をしたり、傷が膿む可能性が有る怪我をした時に投与する事って……」

「いや……待て……姉ちゃん……。そんなにそげん高価いたかか気軽に使える訳無かろう。中国や中ア連の都会ならともかく」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る