(10)

「安心しろ。君達には、こんな野蛮な武器は使わん。『もう1人の私』は生きたまま捕虜にする必要が有り、この世界の『鎧』の戦士は……『鎧』ごと粉々にする訳にはいかないのでな」

 そう言って、「もう1人のボク」はレールガンを投げ捨てる。

「ねぇ、1つ聞いていい? 何で、ヤツは、あんな……強力な武器を……あんなに雑に扱うの?」

「あれは原理自体は簡単。多分、この世界の技術でも似たモノは作れる。ただし電力をバカ食いするから……使い物になるかは別問題だ」

「そこに居る御老人は……この世界の日本軍の将官のようだな……。たしか、この世界の『日本』はナチスの属国だったな。では、貴官は、この世界のナチスの軍部にコネは有るか?」

「ええ……ああ?」

「もしそうなら……SSの上層部に伝えてもらおう。この世界の残り九体の『対神鬼動外殻』の動力源、計二七個全てを我々『亡命者エグザイルズ』に引き渡せとな。我々の要求を飲まなければ……ナチスの勢力圏内でアレと同じ事が次々と起きる。民間人に危害を加える事は極力避ける事は約束しよう。だが、我々にとっては、この世界の軍事施設を壊滅させる事など容易いのは判った筈だ」

「やれやれ、どっちがワルモンだか……あ〜、1つ提案していいかな?」

「何だ?」

「そう云う話を、この爺さんにするのは別の機会がいいんじゃないかな?……とりあえず、小便漏らしながら腰ぬかしてない時にでも……」

「確かにその通りだな」

「ちょっと待って、九体ってどう云う事? この世界の『鎧』は十三体で、その内、貴方達が倒したのは三体だけの筈」

「今の時点で、キミの『鎧』を倒したも同じって事じゃないの?」

「今の時点で、君の『鎧』の『幽明核』は入手したも同じだ」

 ボクと「もう1人のボク」は、同時に「レッドスカル」の疑問に対して答を返した。

「ええっと……答てくれるとは思えないけど……じゃあ、そもそも、何で、カーネルを集めてるの?」

「君達、この世界の『対神鬼動外殻』の着装者が、あまりに愚かで無能で……そして、いささか以上の問題が有る思想の持ち主だからだ」

「はぁ?」

「なるほど、何となく判った。賛同出来るかは別にして」

「『なるほど』って、どう云う事?」

「知り合って、それほど経ってる訳じゃないけど、君が馬鹿でヘッポコでナチ野郎な事だけは十分に理解出来た」

「我々、『亡命者エグザイルズ』は様々な平行世界のはぐれ者達の集団だ……。ある者の生まれた世界では、世界そのものが消滅し……また、ある者の生まれた世界では、世界そのものは存続する代りに人類はほぼ滅亡し……別の者は自分が生まれた世界に居られなくなる理由が有り……そして、いつしか、そんな者達が1つの集団となり、自分達の世界で起きた悲劇から他の世界を護ろうとするようになった。……それが我々だ」

「そのお節介焼きが、たまたま行き着いた世界の1つが……この……ナチが支配する世界って訳か……」

「そうだ。そして……この世界では……世界と人類の両方を『神々の戦い』から護る為の『盾』である『対神鬼動外殻』を独占しているのが、よりにもよって、無能かつ邪悪なる者達だった」

「じゃあ、貴方達の……『この世界』での目的は……『世界政府』から『鎧』を奪い、他の勢力に与える事?」

「ただし、当初はな………」

「えっ?」

「状況が変った。この世界は近い将来、他の世界と戦わねばならぬ可能性が出てきた。不本意だが、その際の『武器』として『対神鬼動外殻』を使わざるを得なくなるだろう」

「ちょっと待って……話が判らなく……まさか……この世界で今起きてる事は……」

「何が起きてるの?」

「抽象的な言い方だが、この世界の存在基盤そのものが脆弱化している。その結果起きる現象としては……そうだな、この世界の一部が『消滅した平行世界』の『欠片』に置き換わりつつ有る筈だ。例えば、西暦二〇一一年に日本で『東日本大震災』と呼ばれる地震が起きた世界などに……」

「ボクの世界では……そんな地震は起きなかった……その代り……」

「私の世界でもそうだ……その代り、二〇一X年に富士山が噴火し、日本の首都圏が壊滅した」

「じゃあ、私達は、その『消滅した平行世界』から来た者達と戦う事になるの? でも、そんな者達は確かに、この世界に現われつつ有るけど、まだ、数は少ないし、しかも、元の世界と切り離されたせいで、大した事は出来なくなった者達ばかりよ……。確かに、この世界より進んだ技術で作られたモノを持っている者達も居たけど、この世界では、いずれ役に立たなくなる。……例えば、もし、他の世界の機械が故障すれば、この世界には修理する手段は無い」

「違う、今、起きている事は兆候に過ぎない……。言った筈だ。『この世界の存在基盤そのものが脆弱化している』と。この世界の人間は……近い将来、他の世界に平和的な手段で移住するか、他の世界を侵略するか……さもなくば滅ぶしか無い」

「ま……待って……どう云う事?」

「今まで私達が巡って来た平行世界のいくつかで、この世界で起きているのと似た事が起きた……。そして、この現象が起きた世界は……消滅した」

「う……嘘でしょう……」

「呑気なものだな、この世界の赤い『鎧』の戦士。全ての原因は君であり君が良く知っている者だ」

「えっ?」

「一度、私に倒された筈の君が蘇った……それが、この世界の『滅び』の始まりだ」

「ちょっと待って、どう云う事?」

「ある『神』の力の持ち主が、時間そのものを巻き戻し、死んだ筈の君を復活させた。そして……それが……この世界に大きな歪みをもたらしたのだ……。この世界を滅ぼすほどの『歪み』をな」

「じゃあ、ボクを呼んだのは……やっぱり、この世界を救えなんて安っぽいラノベみたいな理由じゃない訳か」

「そうだ……。君を人質にして、君の世界の君の仲間達に新たな『鎧』を作る手助けをしてもらう……」

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