(9)

 続いて、「もう1人のボク」が腕の隠しブレードで攻撃。

 ボクは「レッドスカル」の斧で、それを防ぐが……。

「何だよ、この安物ッ‼」

 一気に両断とまではいかないが、「レッドスカル」の斧の刃は、「もう1人のボク」のブレードにより、あっさり切り裂かれ削られていく。

「お前達は何者じゃッ⁉」

 後方で中高年の男の声。どうやら、この料亭の客らしい。続いて、何故かその声の方向に走っていく「レッドスカル」のモノらしき足音。

 そして、「もう1人のボク」の「鎧」もリミッター解除の時間切れになったが……。

「ちょっと野暮用が出来た」

 そう言うと、「もう1人のボク」は後方に飛び、そして、塀の穴から出て行く。

「どうしたの?」

「そっちのそれもどうしたの?」

 走り寄って来た「レッドスカル」の手には日本刀が握られていた。

「あの軍人から借りて来た」

 「レッドスカル」の指差した先には、この料亭に客として来ていたらしい軍服を着た爺さんが1人。

「誰?」

「日本陸軍の久留米師団の……師団長だって……」

 そしてボクは塀の穴から外を覗き……。

「ねぇ、師団長さんだっけ? アレの出動許可出したのあんた?」

「何を言うて……何じゃ⁉ どうなっとる⁉」

 遠くから響くのは、内燃機関型のエンジンと無限軌道キャラピラの音。

「おい、誰が戦車隊の出動許可を出した⁉」

「誰が出したの……?」

「多分……その……所属は日本陸軍でも……日本に駐留してる世界政府軍の判断で動かせる筈なので……」

 そして、「もう1人のボク」は支援用のロボットから、あるモノを受け取っていた。

 折り畳まれていた「それ」が展開される。そして弾倉マガジンを装着。続いて、バカ太い電源ケーブルを「鎧」の端子に接続。

「な……何じゃこりゃ?」

「死霊だよ……」

 地面のあちこちから「鎧」の動力源である「幽明核」の力で召喚された「死霊」が現われ……そして、「もう1人のボク」の「鎧」の背中に有る6つの「幽明核」に吸い込まれていく。

 やがて、「死霊」達は「幽明核」に溜め込まれた「太陽の光に含まれる霊力」で浄化され……相反する2種類の「力」が互いを打ち消し合う際に副次的に生まれる膨大な霊力は電力に変換される……そして……。

 「もう1人のボク」が手にしたの電力ランプが点灯。そして、秒速数㎞の徹甲弾が毎分一〇〇発単位で発射される。

「う……うそ……」

 「レッドスカル」の呆然とした声。

 この騒ぎを鎮める為に出動した戦車隊は、一瞬にして、更なる騒ぎの原因と化した。

「ねぇ、あの戦車の燃料って何? ガソリン? 軽油? 液化天然ガス?」

「……ガ……ガソリンだが……」

 久留米師団の師団長の爺さんが、悪い夢でも見てるような口調でそう行った。

「電話とかが、まだ通じるなら……消防隊呼んでもらえる? 出来れば化学消防車をありったけ」

 戦車隊だったモノは……炎に包まれ……時折爆発音が響いていた。どうやら、レールガンの弾は、装甲を貫くどころか、エンジンや燃料タンクにも損傷を与えたらしかった。

 乗員がどうなったかは……深く考えたくは無い。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る