(11)

「気に食わないな……。キミが政治家なら、そう考えるのも有りだろ。でも、『正義の味方』が考えるべき事じゃない。やりたけりゃ、『正義の味方』をやめて選挙に立候補すべきだ。キャプテン・アメリカも言ってただろ。理想にのみ忠誠を誓い現実を変える者と、理想を持ちながらも現実と妥協する者、人々は両方を必要としてるが、1人が両方を兼ねる事は出来ない、って」

「待て、キャプテン・アメリカがそんな事を言ってたか?」

「言ってたよ」

「何年の何号のどのエピソードでだ?」

「細かい事は忘れたけど、電子書籍リーダーに全エピソード入れてるんで、後で調べる」

「こっちの世界で、君の世界の電子書籍リーダーは使えんぞ。ここでは君の世界のインターネットに接続出来ない以上な」

「私も気に食わないわね。あと、貴方達が同じ人間の平行世界版だ、ってのも本当みたいね」

「『もう1人の私』が『気に食わない』理由は理解出来ないでもない。だが、赤い『鎧』の戦士、君はどうして『気に食わない』のだ? 君達の上に居て、君達に命令を下す者がナチから我々に変るだけでは無いのか?」

「ふ……ふざけ……えっ⁉」

 次の瞬間、ボクは持っていた斧で「もう1人のボク」を攻撃。だが、「もう1人のボク」の左腕のブレードが斧の刃に食い込む。そして、ボクが斧を手放して飛び退いたのとほぼ同時に「もう1人のボク」の右腕のブレードがボクの腹部に迫っていたが、ほんの1〜2㎝で届かなかった。

「えっ……と……」

「何、ボケ〜っとしてんの? 交渉は決裂したんだから戦闘再開でしょッ‼」

「わかっ……あ〜っ‼ ちょっと待って、返してッ‼」

 既に「レッドスカル」が持っていた日本刀はボクの手の中に有り、「レッドスカル」の手に残っているのは、鞘だけだ。

 「もう1人のボク」は、斧に食い込んだままの左腕のブレードを除装。同時に、ボクの持ってる日本刀と「もう1人のボク」の右腕のブレードが交差し……。

「君の見解には、1つだけ賛同出来る事が有る。この世界に有るのは、我々からすれば安物ばかりだ」

 ボクが持っていた日本刀の長さは約半分になっていた。そして「もう1人のボク」は、再び斬撃。

「まぁ、安物でも使い道は有るけどね」

 ボクは、2本の刃を交差させて、「もう1人のボク」の斬撃を防ぐ。1本は右手に握られた長さが半分になった日本刀。もう1本は……左手の人差し指と中指の間に挟んだ……叩き斬られた日本刀の上半分。

「余剰エネルギー放出‼」

 ボクと「もう1人のボク」は同時に叫ぶ。そして、ボクと「もう1人のボク」の「鎧」の背面から吹き出る「炎に焼かれ消滅する死霊」。更に、ボクと「もう1人のボク」の間で交差した3本の刃からは火花が飛び散る。

 だが、やがて「もう1人のボク」の刃は、ボクが持っている2本の刃に食い込み……。

 ボクが持っていた2本の刃が断ち斬られると同時に、ボクは倒れ込みながら、「もう1人のボク」の足に蹴りを入れる。だが、ギリギリで躱される。そのままスライディングしながら、「もう1人のボク」から距離を取るボク。

「うわああああッ‼」

 続いて「レッドスカル」の叫び。しかし……。

「やはり、この世界の『鎧』の着装者は無能だ。学習能力が無い」

 「もう1人のボク」がそう言った時には、既に、「レッドスカル」は、あっさり投げ飛ばされていた。言うまでもないけど、「投げ飛ばされた」ってのは「レッドスカル」視点で、「もう1人のボク」からすれば、「相手の攻撃を受けた」だけなんだけど……。

「なに、やってんの……?」

「貴方や、そいつにとって……この世界で作られたモノが『安物』なら……他の世界で作られたモノは、どうかしら?」

 立ち上がった「レッドスカル」の右手には……「もう1人のボク」が除装したブレードが握られていた。

「良い考えだ。だが……1つ聞いていいかな? これで命中あてたつもりか?」

 「レッドスカル」は「もう1人のボク」の左腕の装甲を傷付ける事には成功したようだ。……ただし、言われねば気付かない程度の浅い傷だけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る