(3)

「えっ⁉」

 敵(?)のリーダー格らしい女性の背後に着地したボクは、ポンッと彼女の肩を叩く。その瞬間、彼女の体を高圧電流が走る。

 まず一人。彼女が意識を失うと同時に、炎の鳥も消えた。どうやら、一番厄介な「神の力」の使い手を最初に気絶させられたようだ。

「『らぷ太』『らぷたん』‼その女性ひとをロボットから護って‼」

 ボクは、「らぷ太」たちにチャユを護衛するように指示を出すが……。

「ふんぎゃっ‼」

「ふんぎゃっ‼」

「ちょっと待ってよ‼避難指示なんて出して無い‼」

 2人は、どたどたどたどたどたぁッ‼と派手な足音を立てて、ボクの背後に回り込むと、抱き合ってガタガタ震え出した。どうやら、ボクが時々やる悪ふざけを「学習」してしまったらしい。今のAIだと、例えばボクなんかが、こんな状況で、こんな事をする、ってのは学習するけど、「こんな状況」「こんな事」の意味付けみたいなモノを理解してる訳じゃないので、どうしても、時々、こんな馬鹿馬鹿しい誤作動が起きてしまう。人命への影響が少ないか、何か有っても挽回可能な用途に使うロボットなら、誤作動が起きてもまだマシだけど、残念ながら、ボクたちが今置かれているのは、人命に関わる状況だ。まぁ、これが有るから、「らぷ太」たちは自分の判断で誰かを攻撃する事が出来ず、誰かを攻撃させる場合、攻撃タイミングと攻撃目標は、ボクたち人間が決める仕様になってるんだけど。

「はぁっ?」(英語、男性)

「なんだ、こりゃ?」(韓国語、男性)

「どうなってる?」(ドイツ語、男性)

「次から次へと訳の判らん事が……」(日本語、男性)

 まだ倒してない敵4人から、様々な言語で、困惑の声が出た。

 続いて暗闇の中から、2体のロボットが姿を現わした。人型、二足歩行、手は2つで身長は一八〇㎝ぐらい。

「チャユ‼あの2人のそばに居て‼」

「2人って?」

「あの子たち……」

 ボクは、らぷ太たちを指差す。

「あの……これ、一体……」

 チャユは、らぷ太たちの様子を見て、完全に困惑している。

「ちょっと、あの子たちの教育を間違ったみたいで……詳しい事は後で説明する」

 教育とうより、正確には学習パラメータとか学習アルゴリズムそのものに問題が有るんだけど、それを説明するには、数時間はかかる。

 次の瞬間、ロボットの片方が、ボクに近付くと右フック。普通なら、スウェーで躱すところだが、何か違和感を感じ身を屈ませる。

 一瞬の後、ロボットの右手首の辺りに、腕の中に隠されていたらしい長いブレードが出現し、ボクの頭上を通り過ぎる。

 ボクは、「鎧」の両脛に取り付けられているブレードの鞘を除装。そのまま、1体目のロボットの足を脛でぐ。

「『らぷ太』‼軍刀を‼」

 1体目のロボットは足を破壊され倒れた。が、2体目のロボットは、既にボクの頭よりも高く飛び上がっている。狙いは、おそらく、ボクの脳天で、攻撃方法は肘撃。

「ふんぎゃっ‼」

 らぷ太は、大型斬超鋼刃「鬼哭」を2体目のロボットに向けてブン投げる。重量5㎏以上で結構なスピードの金属の塊と空中で激突したロボットはバランスを崩す。

「いや、そうぅ〜意味じゃない」

 ボクは、まだ空中に有るロボットの足を捕む。

 ロボットの肘には、ボクの予想通り、ブレードが出現している。1体目・2体目ともに、装備されていたブレードには、独特の虹色の光沢。そう、多分、ボクの「鎧」の装甲や武装の素材と同じ技術で作られたモノだ。ボクたちの世界においては、旧日本陸軍・大連高木機関と満洲鉄道大連工場の付属研究所が共同で再現した超古代の特殊な金属素材(言わば、非結晶合金と複合素材の中間みたいなモノ)を元に、二一世紀になって「鎧」の基礎技術を研究した高木製作所が製法を簡易化する事で生み出された素材だ。

 そして、ボクは、ロボットが使った技も知っている。ボクの恋人が現役だった頃によく使っていた技だ。とは言え、幸か不幸か、ボクたちの「鎧」の人工筋肉よりも反応速度や精密動作で劣る電動モーターで動いてるせいか、技の精度は低かった。

 ボクは、ロボットを右の方にブン投げる。次の瞬間、ロボットをブン投げた方向から、何かが壊れる音。

「後ろ‼8時の方向‼」

 チャユが、そう叫んだと同時に、その方向から衝撃波。ボクはギリギリで、それを避ける。

 だが、その直後……。

「おっと」

 ボクは、右手首の格闘用の棘で、ボクの喉元を狙った刀の突きをはじく。

 顔まで隠した防具付の黒装束に、柄まで含めた長さ1mぐらいの、片刃だけど反りが小さい刀を両手に持った相手。

 その黒装束に付いている防具プロテクターは、塗装はしてあるが金属製らしく、結構な重量が有りそうだ。だが、そいつは、身軽そうな感じで、しかも、もの凄いスピードで横に移動。ボクもそれを追う。

お仕置きの時間だッ‼It's clobberin' time!!

 この言葉は、過剰反応…日本の俗語で言うなら「火事場の馬鹿力」を出す自己暗示をボク自身にかけるキーワードと、「鎧」のリミッター解除の命令を兼ねている。ボクが叫んだ直後、「鎧」のモニタに「リミッター解除:残り時間99・9秒」の表示が出る。これで、時間制限付きだけど、ボク自身の体は通常の約1・5倍、「鎧」の人工筋肉は約2倍のパワーが出せるようになった。

 そして、「鎧」の各部の余剰エネルギー排出口が開き、排熱が始まる。

 ボクは両太股に装着されていたナイフを両手に持ち、刀と斬り合う。ボクと相手の移動スピードが、どんどん上がる。

 ほんの十数秒後には、相手もボクも時速七〇㎞台の速度で辺りを動き回っていた。数字だけ聞けば、大した事は無さそうだろうけど、一〇〇m走のオリンピック級の選手の全力疾走の約2倍のスピードだ。

 車両ヴィークルを運転した事が有るなら判るだろうが、通常は、この速度でも、急に止まったりは無理だ。相手は、刀を地面に突き刺し、ボクは「鎧」の各部から余剰エネルギーを排出したり、足首の辺りに装着された「杭」を地面に撃ち込む事で、停止や方向転換を行なう。

「ほんの数秒でいい‼そいつの動きを止めろ‼これじゃ、そいつを狙えん‼」

「無理だ‼」

 別の誰かと、今、ボクが戦ってる相手が、英語で会話を交すが、どっちもネイティブの英語じゃないみたいだ。

「どけ‼俺に任せな‼」

 野太いドイツ語と共に、ロボットの残骸が飛んで来た。ボクは飛び上がると、背中の排気口から余剰エネルギーを放出。その勢いを利用して、脛のブレードで、元はロボット、今は鉄屑を両断する。

 運良く着地した辺りに、らぷ太が投げた軍刀が落ちていた。それを足で跳ね上げ、両手に握る。

 そして、咆哮と共に突撃してきた身長2m以上の金色の熊人間ワー・ベアーの左肩を大型斬超鋼刃「鬼哭」で斬り付け……あれっ?あ、しまった‼

 こっちの刀が当った箇所を中心に、巨大なプーさんの全身の体毛が波紋のように波打つ。続いて、刃の周囲の体毛が伸びて、刃に巻き付く。どうやら、刀が命中した時の衝撃は四方八方に分散し、更に、切ろうとしても、刃を押す事も引く事も出来なくなった。

 体毛の物理的特性を一時的に変える事で防御に利用する……ボクの仲間の「ハヌマン・シルバー」と似た能力らしい。打撃・銃撃・斬撃・刺突のどの攻撃をしても、不意打ちか、とんでもない威力のモノでなければ、マトモなダメージを与える事は出来ない。通常の装甲の防御力を無効化出来る「細波さざなみ」でも、効くかどうかはやって見ないと判らない。

 ボクは完全に動かせなくなった刀から手を放すと同時に、プーさんに向けて前蹴り。だが、やっぱり、当たった瞬間に射出した足首の少し上に仕込んだ杭は、あっさりはじかれる。打撃と見せ掛けて実は刺突、と云う攻撃なら、フェイントである「打撃」に最適化した防御を、杭をブッ刺す事で破れる可能性は有った。……ただし、見抜かれていなければだけど。つまり、プーさんが、この攻撃を知ってると云う事は、プーさんの仲間か戦った事が有る誰かの中に、多分……。

 そして、プーさんは体毛で搦め捕ったボクの刀の柄を右手で握る。次の瞬間、モノ凄い勢いの斬撃。避けるが、今度は斬り返し。

「らぷ太‼盾‼」

 すると、何故か、背後で激突音。振り向くと、地面にはボクのカイト・シールドと痛がってる様子の黒装束の高速移動能力者が地面に転がっている。

「……だから、そぅ〜ぅ〜意味じゃない」

 ボクは、プーさんが振う刀を転がりながら避けて、右手で盾を拾う。

「おい‼オレまで殺す気か⁉」

 プーさんの斬撃が地面に食い込む。よりにもよって、ダメージを受けて転がってる仲間の頭のすぐ前だ。

 プーさんは答えず、更に斬撃。ボクは、「鎧」の余剰エネルギーを放出し、その勢いを利用して距離を取る。

「左‼一〇時の方向‼」

 チャユの声とほぼ同時に、その方向から、緋桜を思わせる色の金属製の義手によるパンチ。

 ボクは、それを肘と膝による挟み受けで防ぐ。肘と膝の格闘用の棘のせいで、義手はひしゃげる。

「義手の修理代を請求したいんなら、後で連絡先を教えるよ、ウィンター・ソルジャー」

 義手の主は、胸に黒い桜の花のエンブレムが有る青黒いプロテクターを付けた、ロン毛の東洋系の男。

「気にするな、使い捨ての安物だ」

「あ、そ」

 ボクは、ロン毛男の胸に軽く掌底打ち。

「あれ?」

「残念だな。電撃は効かん」

 どうやら、こいつの戦闘服はスタンガンなどの電撃による攻撃を防ぐ事が出来る素材のようだ。

 ロン毛男は生身の方の左腕でバカデカい拳銃を抜く。……どうやら右の義手は、やはり、パワーは有っても精密動作に問題が有るようで、拳銃は右脇のホルスター…つまり左手で抜き易い場所に格納されている。どっちみち、右の義手は、さっきボクが壊した訳だが。

 一方、刀を振り上げたプーさんも迫る。

 ロン毛男が引き金に手をかけ、プーさんが刀を振り降した瞬間……銃声、男の苦鳴、金属が切り裂かれる嫌な音。

 ボクは、ロン毛男の腹に「細波さざなみ」を撃ち込むと同時に、カイト・シールドの下端で刃を受けていた。「細波さざなみ」を撃ち込むのが、引き金が引かれるより一瞬早かったおかげで、銃口はあらぬ方向を向いている。

 ロン毛男はゲロを吐きながら倒れ、カイト・シールドは半分ぐらいまで斬り裂かれていたが、「鎧」には届いていない。

「横には斬れても『たて』には斬れない、ってね」

 ボクは、バク転をしながら、プーさんの腕に蹴りを入れると同時に盾を手放す。思わず、刀を手放してしまうプーさん。

 しかし、ボクが着地し、構えを取ったと同時に、リミッター解除の時間切れ。「鎧」の各部の排出口が閉じる。

「時間切れみたいだな」

「そうかな?」

 そう言いながら、ボクは両手を相手に向けて、何かを握るような仕草をする。

「力比べをやるつもりか?」

 巨大プーさんは、そう言って、ボクと両手を合せようとする。まず右手……次の瞬間、ボクは飛び上がり、プーさんの腕にしがみ付くと、肘関節をめて、同時に両足で首を絞める。

「……テメェ……」

 今度は、プーさんが飛び上がる。められた腕ごと、ボクを地面に叩き付けるつもりらしい。ボクとプーさんと鎧を合わせて、最低でも二五〇㎏、下手したら三〇〇㎏超えててもおかしく無いのに、結構、高くまで飛び上がる。

『余剰エネルギー放出準備。背面右1・背面右2・右脛後部は強度最大。背面左1・背面左2・左脛後部は強度5。放出‼』

 ボクが命令すると同時に「鎧」の後面の排出口が開き、再び、モノ凄い勢いで排熱。ただし、排熱の勢いは、わざと、排出口ごとに違うように制御する。

「ナニっ⁉」

 余剰エネルギー放出の勢いで、空中でプーさんとボクの体は更に浮きあがりつつ半回転。プーさんは仰向けに地面に着地するつもりだったみたいだけど、逆にプーさんの前面が下になる。そして、ボクは技を解いて、脇固めに移行。プーさんとボクが地面に激突した衝撃で、プーさんの肘関節が外れる。

 その時、内燃機関タイプの車両ヴィークルの音。

「あっ……」

「ここに居たのね。えっ⁉いや、ちょっと待って……」

 モーターサイクルに乗って現われたのは、赤い「鎧」の戦士だった。

「どう云う事?貴方1人でやったの?」

 護国軍鬼デモニック・パトリオットを除く4人が、地面に転がっている様子を見て、赤い「鎧」の戦士は、そう言った。

「ところで、こいつらと、このミズ・レッドスカルの関係を聞いてなかったけどさ……」

「敵です」

「敵だ」

「敵よ」

 どうやら、色々と立場が違うらしい三者の意見が見事に一致した。

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