瀾(一四)

 銃弾を避けながら「鉄羅漢」が乗っている武装ブルドーザーキルドーザーに駆け寄る。

「お……おい……何をやってる?」

「ここは……私が何とかする。早く逃げて」

「逃げてって……お前……」

「私の『鎧』の方が装甲が頑丈です。私の方が生き残れる可能性が高い」

「……話してる時間は無さそうだな」

 「鉄羅漢」の代りに武装ブルドーザーキルドーザーの操縦席に入り……銃撃に構わず「国防戦機」に体当り。

 アームで「国防戦機」の右肩を掴もうとするが……。

 外れ……。だがセンサが集中している頭部を殴り付け……目を思わせる視覚センサは……片方だけしか潰せなかった。

 一方で、「国防戦機」も銃をほぼ零距離で武装ブルドーザーキルドーザーの操縦席に突き付ける。

 私が操縦席から退避するのと、「国防戦機」の銃が操縦席をブチ抜くのがほぼ同時。

 私は武装ブルドーザーキルドーザーのアームに飛び乗り……その上を走る。

 「国防戦機」が手にしている銃は近過ぎるので使えない。

 しかし、首の両脇の小型機銃が発射される。

 それを避けつつ、「国防戦機」の手の大型機銃に軍刀を突き刺す。

「余剰エネルギー放出」

 地面に着地する寸前に落下速度を緩和。

 私が着地したと同時にガトリング砲の射撃音。

 どうやら、遠隔操作用のアンテナは破壊されたらしく……「国防戦機」は動きを止める……。

 しかし……その時の……ほんのわずかな気の緩み……。

「制御AI。リミッターON。あと……鎮痛剤注射」

「お……おい……大丈夫か……」

 桜さんの声……。

「ま……まぁ……何とか……」

「つれないね……。私のプロポーズには聞く耳も持たず……他の女とイチャついてるなんて」

 その時……ある者の声がした。

「うわああああ……」

 桜さんは、そいつ目掛けてガトリング砲を撃つ。

 だが、そいつと桜さんの間の地面が割れ……そして……そこから吹き出した水が……氷の壁へと変る。

「な……何だ……こりゃ……?」

 桜さんの強化服パワードスーツの背面から延びる金属製の大型アーム。

 その「両腕」に、いつの間にか……「氷の輪」が出現していた。

 続いて轟音。

 「氷の輪」が瞬時に水蒸気に変り……その時の衝撃波で大型アームを千切り落した……。

 そして……いつの間にか……氷の壁は……水に変っていた……。

 私は……激痛を押して立上り……そして構える……。

 構えたとしても……どうにも成らない事は判っている……。

 相手は……私達を一瞬で皆殺しに出来るどころでは無い……本気を出せば、この辺りの地形すら変貌させる事が出来る化物の中の化物だ。

 でも……気付いた時には構えを取っていた。

「気に入ったわ……。貴方こそ……この体の……『佐伯漣』の後継者に相応わしい」

「あ……あんた……何者だ?」

「えっ……そいつは……広島の暴力団の女親分の……」

 桜さんが、戸惑ったように聞く。その声には……あるモノが含まれていた。恐怖の感情。

「気付いていたようね……」

「あんたは……自分を何者だと認識している? 佐伯漣と云う人間か? それとも『神』を名乗る化物の1人か? 今のあんたは……たまたま『神』の力を得た『自分を神だと思っている狂人』か………? それとも……?」

「そう……この体の本来の主……佐伯漣は……合意の上で……私に脳を明け渡した……。ある『神』と戦う為にね。けど……それをやると、一時的に力は強くなるけど……脳の方は十年持たない。だから……私は優秀な後継者を必要としている」

「ど……どうなってる?」

「私は……佐伯漣の体を借りた……娑伽羅竜王の娘。この世界の全ての水神・竜神の頂点に立つ5柱の姉妹神の一柱ひとり。人間が、この近くに有る神社で祀っているつもりになっている『青の竜神』瑠璃の姉。……『赤の竜神』珊瑚よ。そして……貴方は……私の新しい巫女」

「ふ……ふざけるな……。お前みたいな化物に……私の妹を渡すかぁっ‼」

 桜さんの……怒号。

「なに? この女から殺せば良いのかしら? それとも……最後にした方が良い? それ位の事は……貴方に決めさせてあげていいわよ」

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