瀾(一〇)

「おい……レンジャー隊、すぐに駅構内に退避しろっ‼」

 「おっちゃん」が大声を上げる。

「えっ?」

「何?」

「どう言う事?」

「説明は後だ……早く……」

 その時、たまたま、銀色の狼男と戦っている鬼子母神ハーリティが目に入った。

 送信された、あの映像に気を取られた隙を突かれて押されているようだ。

「余剰エネルギー放出。背中・脚背面。出力最大」

 間に居る河童や鬼もどきを蹴散らしながら、鬼子母神ハーリティの応援に向か……いや、良い手が有った。

 手にした軍刀を地面に突き刺し、近くに居る仲で一番小柄な河童の首を掴む。

「えっ? うぎゃああああっ‼」

「左足パイル射出。余剰エネルギー放出準備。背中右・右脚背面、出力最大。背中左・左脚背面、出力1。十秒間だけ放出」

 私の体は回転し……河童の体が宙に浮く。

「お……おい……て……てめぇ……何する気……うぎゃああ……」

 私は円盤投げの要領で、河童の体を狼男目掛けて投げ付ける。

 河童は狼男と激突。

 狼男は、一瞬だけよろめくが……。

 私は片手で軍刀を抜き、もう片手で、私の方を見ている狼男に向かって「来てみろ」とジェスチャー。

 飛びかかる狼男。

 その爪を避け、腹に斬撃を入れる……が……はじき返される。

 更に狼男は鋭い爪による突き。

 私は肘と膝の棘で狼男の腕を挟む。

 狼男の攻撃を止める事は出来たが……私の「鎧」の格闘用の棘も狼男の「毛皮」を貫通出来ない。

「『正義の味方』の新顔か? パイセンから俺の能力ちからを聞いてないようだな」

 下から狼男の蹴り。もちろん、爪先から鋭い……この「鎧」なら何とか防げるが、「レンジャー隊」の強化服パワードスーツの装甲は余裕で貫通出来る「爪」が延びている。

 私は蹴りを下って躱し……バランスを崩したフリをして倒れ込む。

『ちょっと待って……何やってんの?』

 鬼子母神ハーリティから無線通信。

『今の内に、駅構内に退避して下さい』

『いや……退避って……』

『同じ退避が遅れるなら……「鎧」を着装してる私の方が……ダメージを受けても軽症で済む確率が高い筈です』

『あ……あんた……。まったく「お上人さん」の姪っ子だけはあるわ……』

 狼男は足を上げて、倒れた私を踏み付けようとするが……。

「がぁっ⁈」

 狼男の足裏と……私の足裏が激突……いや、わざと少しズラしている。

 そして、狼男の足を、私の「鎧」の脚部のパイルが貫いた。

「相手の攻撃に応じて……『毛皮』の防御特性を変えられる……んだったかな? つまり、あんたが予想してなかった攻撃は通る。この手は……何点だ?」

 狼男はパイルから足を抜いて下る。

「百点はやれねえな……」

「そうか? あんたの再生能力でも、その大穴が塞がるには時間がかかるぞ」

 私は駄目押しの一手の為に、わざと奴を煽る。

「どうかなぁッ⁉」

 奴は突撃。

 それに対して、私は右フック。

 奴の胸から血が飛び散る。

「あっ?」

 私の右手首には隠し武器のブレードが出現していた。

 殴ると見せ掛けて、斬撃。

 予想される攻撃に合わせて、自分の「毛皮」の防御特性を最適化出来るなら……その予想を裏切ればいい。

 とは言え、奴は更に攻撃。

 私は後に下って躱す。

「こ……この程度の傷……」

 骨や内臓まで到達していない傷だ。

 高速治癒能力を持っている奴なら、瞬時に塞ぐ事が出来る。

 予定通りだ。

 傷が塞がった瞬間……ヤツの絶叫が轟いた。

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