瀾(一一)

「あ〜……とりあえず、前は隠してもらえないか? 男の裸を眺める趣味は無い」

 銀色の狼男の全身から毛が抜け始め……そして、体は段々と人間のものに戻っていく……。

 鋭く丈夫そうな爪は抜け、通常の人間の爪に生え変る。

「て……てめぇ……何をしやがった……? な……何だ……そりゃ?」

 私は、銃の薬莢を狼男に見せる。

「派手に暴れてくれてたようだな。そこら中に転がてたよ」

 狼男の表情が少しづつ変る。

「く……くそ……」

 狼男の胸を斬り裂いた時、周囲に落ちていた薬莢を傷口に入れていた。

 狼男の傷口は……異物を取り込んだまま塞がってしまったのだ。

 当然、傷の再生は阻害される。どれだけ高速治癒能力を使っても、完全再生出来ない傷……それは、ヤツの体に体力低下と激痛をもたらす事になった。

 私がやった事に気付いたらしい狼男は片手だけを変身させ、自らの胸に爪を突き刺そうとするが……。

「ぐはぁっ‼」

 私は狼男の手に思いっ切り蹴りを入れる。「鎧」ごしだが、手の甲の骨が折れる嫌な感覚が伝わる。

「医者に取り出してもらう事をオススメする。丁度いい。ウチの医療チームにやってもらったうってのはどうかな? 聞きたい事も有るしな」

『おい、6時の方向』

 後方支援要員サポートメンバーから警告。

 私は居合抜きの要領で、軍刀を抜き、背後から私を襲おうとした「青鬼もどき」の腹を斬り裂く。

「う……うげっ……?」

 青鬼もどきの拳に走っていた火花が少しづつ消え……そして、内臓をブチ撒けながら倒れていった。

「こいつらを……どうやって作った?」

『上だ‼』

 「鎧」のモニタに新手の敵の方向と距離が表示される。

 私は弓矢を取り、その方向に向けて射る。

 外れ。

 続いて、その方向から銃撃。

 おそらく軽機関銃。

 この「鎧」なら防げるだろうが、念の為に避ける。

 そして、その方向から、滑空して来たのは……。

「何だ……? あれは?」

 あれも「河童」なのか?

 降り立った「それ」は……言うなれば「河童」と「烏天狗」の合成物。

 河童と言われれば河童に、烏天狗と言われれば烏天狗に見えない事もない顔。

 体格は……成人男性の平均より少し上ぐらい。

 ダークグリーンのなめし革のような光沢の皮膚。

 甲羅は無し。

 背中からは奇妙な翼が生えていた。

 鳥。蝙蝠。古代の翼竜。それらの、どれとも違う「翼」。あえて似たものが有るとすれば……飛魚のむなビレだ。

「しゃ……社長?」

「あんたらしくもないな……。もうすぐ応援が来る」

 そうか……こいつが……久留米近辺で最大の暴力団「安徳ホールディングス」の殴り込み専門の二次団体「安徳セキュリティ」のトップである行徳清秀……。

 今の「安徳ホールディングス」の前身となった暴力団の先代のトップが行なった……「河童の原種」を再生するプロジェクトの産物の1つか……。

『「あれ」が来るまで……あと……どれくらい?』

『多分……1分以内に、そっちでも目視可能になる』

「余剰エネルギー放出」

 私は、奴らから距離を取る。

 狼男……久米銀河を捕虜にしたかったが……もう時間が無い。

「待……」

 私を追おうとした「空飛ぶ河童」は……すぐに、ある疑問に思い至ったらしかった。

 何故、私が逃げる必要が有るのか……と。

「あんた達も逃げろ」

「どう云う……おい……ありゃ……まさか……」

 JR久留米駅の前の道路。その片側から4m級の軍用パワーローダー「国防戦機」が……反対側から3台の武装ブルドーザーキルドーザー「ディマトリア」が姿を現わした。

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