瀾(八)

 佐伯は、私が乗ったバイクをギリギリで避けた。

 だが、その時、私は既にバイクを飛び降りていた。

「な……?」

 私は佐伯の背後に回り裸絞。

 普通の人間がやったなら、佐伯の能力によって、瞬時に絶命していただろう。しかし、「護国軍鬼」のエネルギー源である「幽明核」が持つ未知の力により、「神」の力であっても私の心身を直接操作するような攻撃や純粋に霊的な攻撃は無効化される。

 もちろん、佐伯の力なら「護国軍鬼」を一瞬で跡形もなく消し去るような物理攻撃も可能だ。しかし、佐伯に密接している私を、そんな方法で攻撃すれば……余程、巧くやらないと余波で佐伯自身も大怪我を負う。怪獣ゴジラ並の攻撃力を持っていたとしても、肉体は単なる人間に過ぎないのだから。

「お……おい……」

 佐伯を絞め落すまで約十数秒。私は気絶した佐伯を横たえる。

「右掌部および右手指のセンサで、対象の脈拍を確認」

 私は、佐伯の頚動脈に手を当て、制御AIに命令を下す。

『正常値内です。詳細な値を表示しますか?』

「一応、表示してくれ……。続いて、右掌部センサで、対象の呼吸を確認」

『対象の呼気を確認しました。正常値と判断します』

 更に瞼を開いて瞳孔を確認する。

「意識を失なわせただけです。行きましょう」

 私は、横転したバイクを引き起しながらそう言った。

「行きましょうって、お前……」

「いや、貴方の言う通り、佐伯が私を殺す気なら、どう転んでも殺される。逆に佐伯が私を生きたまま捕縛する気なら、手加減をしてくる筈。なら、私が佐伯を積極的に攻撃しようが、私が佐伯から逃げようが、結果は大して変らない。その条件の元では、佐伯を攻撃して意識を失なわせるのが、最も合理的な選択だと判断しました」

「助かったよ……」

「……ああ、どうも……」

「お前に礼を言ってるんじゃねぇ」

「は?」

「お前の家族や身内じゃなくて助かった、と言ってるんだ。……お前みたいなのが、家族や身内だったら心臓に悪い」

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