瀾(七)

「おい、新米の『護国軍鬼』。お前、何をやった?」

 死神ヤマから音声通信が入る。

「佐伯の足を奪いましたが……」

「何かが、おかしい。佐伯は……水天ヴァルナの力の後継者じゃなくて、お前を追ってるぞ」

「えっ?」

 次の瞬間、死神ヤマの通信が個別通信ダイレクトモードに切り替わる。

「何故、俺がこの事を知ってるかは、後で話す……。お前……3号鬼と初代の水天ヴァルナの間の娘の片割れだな?」

 どう云う事だ? 「味方であっても、他のチームのメンバーの個人情報は知ってはならない」が「ルール」の筈。しかも……私達が双子である事まで知ってる。……どうなっている?

「佐伯の目的が判らんが……もし、ヤツの目的が、水天ヴァルナの後継者と後継者候補に成り得る者を皆殺しにする事なら……当然、お前も狙われる。逆に、水天ヴァルナの後継者を生きたまま確保する事が目的なら……お前を生け捕りにして、今の水天ヴァルナの後継者を殺せば……お前が次の後継者になる可能性が高い」

「仮に……その推測が正しかったとして……私が水天ヴァルナの後継者候補だと、どうやって判ったんですか?」

「もし、水天ヴァルナに力を与えていた『神』が……お前も後継者候補にしようとしていたなら……お前の脳内には、既にその『神』と交信する為の回路が出来てる」

「ちょっと待って下さい。いつ、誰が、私の脳をいじったんですか?」

「そりゃ……クソったれな『神』様が、お前の気付かない内にだよ。そして……佐伯に宿ってる神は……お前の脳をいじった『神』の姉妹……言うなれば同じ存在の別々の『かお』『分身』だ。当然、自分の姉妹がお前の脳をいじってる事を認識出来る」

 その時、少し離れた場所で爆発音がした。

 マズい……。そうか……さっきの爆発音も……佐伯が怒りで何かに当たり散らしたからじゃない。

 足を奪われたヤツが……私を追う為の「近道」を作る為に……私とヤツの間に有る建物や障害物を次々と破壊していたのだろう……。

 その時、私の目の前に、一台のバイクが姿を現わした。

 髑髏のペイントが有るヘルメット。胸に肋骨の意匠が有るプロテクター付のライダースーツ。だが……傷だらけでボロボロの状態だ。

「行け……。俺とヤツの力は相性が悪いが……時間稼ぎにぐらいはなる」

「でも……」

「話は後……いや……早く逃げろッ‼」

 次の瞬間、背後で大きな……しかし……さっきの爆発音とは違う音がした。……そう……何か岩のようなモノが割れる音。

「クソがっ‼」

 再び雪雲が割れ、そこから眩い光が漏れる。

 しかし、またしても……いや違う……。

 地を割って吹き出した膨大な量の水が霧と化して上空を覆い、天から降る熱線を散乱・減衰させた。

「威力は中々だけど……使い勝手は悪そうね」

 たしかに逃げた方が良さそうだ……。しかし……こんな無茶苦茶な状況でも通用するか判らないが……逃げるとすれば……。

「おい、待て、何を」

「えっ?」

 私はバイクで佐伯に向かって行った。

「恐いと思った時、逃げたいと思った時は……相手に向って行く癖を付けろ」

 それが、私の師匠の1人が教えてくれた事だった。

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