瀾(六)

 前方に、バイクに乗った佐伯が居た。

「ねぇ……あなた……」

「余剰エネルギー放出。背中・脚背面。出力最大」

 私は制御AIに命令を出すと同時に軍刀を抜く。

 余剰エネルギー放出口が開き、凄まじい勢いで、動力源である「幽明核」が生み出したエネルギーの一部が吹き出る。「護国軍鬼」を着装まとった私の体は、飛ぶような速さで佐伯に向い突進。

 だが、次の瞬間、地面に地割れ、続いて水が吹き出し、そして氷の壁が出来る。

 しかし、私は飛び上がり、氷の壁に靴底を向ける。

「両足パイル射出」

 曲げていた両足を思いっ切りのばす。

 パイルは氷の壁を貫き、氷の壁に無数のヒビが入る。

 そして、私の蹴りが氷の壁を砕いた。

 佐伯は、砕く事が出来る氷の壁ではなく、単なる水流の壁を自分の前に作り、飛び散った氷の破片を防いだ。

 私は、武器を弓矢に持ち替え、対装甲用の矢を撃つ。

 強化服パワードスーツでなければ引く事すら出来ない超強弓から放たれた矢は、水流の壁を貫くが……水流の勢いのせいで上に逸れ、佐伯の頭上を飛んで行った。

「あのねぇ……少しは、こっちの話も聞いてくれない?」

 私は佐伯の言葉を無視し、再度、矢を放つ。今度は、水流の影響も考慮して、やや下の方へ。そして、矢は水流の壁を突き破り、佐伯の頭の辺りに向って飛んで行く。

 佐伯はバイクから飛び降り矢を避ける。

 私は、更に矢を放つ。だが、わざと当てない。

 それが何度か繰り返された後、佐伯は、最初の場所から、私を中心に、時計回りに約九〇度、移動していた。

 そうだ……。佐伯には他人の心や次の動きを読める……。

 しかし、心を読めると言っても、良く知った相手でなければ……あくまで、感情レベルで、こちらがどんな作戦を立てているかなどまでは読む事が出来ない。

 そして、武術・格闘術・戦闘術に関しては素人である以上、どう動くかは読めても、その動きの結果、何が起きるかを推測出来るとは限らない。

 例えば、弓を射るタイミングまでは読めても、何を狙っているかまでは読めない筈だ。

 佐伯は、私との間に、氷の壁を作った。さっきのよりもブ厚い。

 私は、その氷の壁に向って突進し……そして……。

 私が氷の壁を蹴った瞬間、佐伯が「えっ?」っとでも言いたげな顔をする。

「余剰エネルギー放出」

 氷の壁を蹴った反動と、「護国軍鬼」の各部より放出されたエネルギーを使って、私が飛んだ先は……。

「佐伯が使っていたバイクを奪った。進路指示を頼む」

 自分が作った氷と水の壁のせいで、佐伯は、すぐに私の元には来れないようだ。私は悠々とバイクを起し、エンジンをかけた。

『次の交差点、左折して……あっちこっち道路がヒビ割れてるんで、迂回してくしか無い』

了解Confirm

 その時、後方から、凄まじい爆音が響いた。

 ……次に佐伯に会う事が有れば、ただでは済まない気がしてきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る