治水(3)

「で、どうすんの?」

 あたし達は、4輪バギーに乗って走り出した。

「とりあえず国道3号線まで行く。応援は鳥栖方面と大牟田方面の両方から来るが、どっちも今居るのは3号線だ……そこで合流……」

 けど、次の瞬間、ゴーグル型のモニタの隅っこに変なアイコンが次々と表示され……。

『おい、待て、新しい2人は誰だ? しかも、内1人は「護国軍鬼」か?』

 デフォルメされた髑髏の下に「Yama」と云う文字。聞き覚えが有る声……さっきの髑髏のペイントのヘルメットをした人だ。

『ま……まさか……小僧か?』

 続いて梵字のアイコンの下に「Vayu」の文字。中高年の男の声。多分、これまたさっきの小柄なおじさんだ。

『こんなに早く「最後の手段」を使っちゃったのかよ』

 最後に中国の京劇か何かの孫悟空のようなアイコン。その下には「Hanuman」の文字。若い男の声だ。

「な……なに……これ?」

「仲間からの通話だ」

 そう説明した瀾ちゃんだったが、続いて誰かと話し始めた。「Confirm」「Affirm」「えっと」と云う返事ばっかりだけど……あれ? これって……「緊張」「動揺」……。

「ねぇ……瀾ちゃん、どうしたの? 話してた相手、誰?」

「誰って?」

「震えてなか……」

 その時、「もう1人の巫女」の存在を感じた。それと……。

「あ……マズい‼」

「今度は何だ⁉」

 次の瞬間、右後方で轟音。建物が消し飛ぶ。そして、瓦礫の中から一台のバイクが現われた。

「……ノーヘルは感心しないな……」

「そんな事言ってる場合?」

 一瞬だけバカ上がりした瀾ちゃんの心拍数が平常に戻る。

 なるほど、段々、判ってきた。瀾ちゃんの面白くない冗談は……気持ちを切り替えたり、あまりな事が起きた時に冷静になる為のモノだ。

 バイクに乗ってたのは、言うまでもなく……。

「驚かせてごめんなさい。あなた達の居場所は判るけど、この辺りの地理にはうといのでね」

「たしかに、それなら、建物を吹き飛ばして道を作るのも合理的な方法かもしれないな……」

「そんなのが『合理的』なら、今頃、人類は合理的な人達のせいで滅びてるよ」

「現にそうなりかけてる。環境問題なんかで……」

 あたし達の乗る4輪バギーは再び走り出す。それを追う「もう1人の巫女」のバイク。しかし……。

「うそ……」

「アレが私達の仲間を振り切れた理由か……」

 目の前に巨大な水の壁が出来ていた。多分、これも地下水を使ったモノだ。

「治水、あの水を何とかしてくれ‼」

「えっと……Affirm‼」

 そう言って、あたしは水の壁を消す。

 しかし、水の壁が有った所には大きな地割れが残っていた。

「どうすんの?」

「飛ぶ」

「えっ⁉」

 4輪バギーのスピードはどんどん上っていく。

「瀾ちゃん、何してんだよッ⁉」

「言っただろ、『飛ぶ』って」

 そして、轟音。光。煙。

 あたし達が乗った4輪バギーは、下と後に炎を吐き出しながら……地割れを飛び越えた。

「ええっと……『やった〜‼』とか言うべきかな? ……あ……」

「当然、こうなるか……」

 地割れからは水が溢れ、そして凍り付き、「氷の橋」が出来る。そして、「もう1人の巫女」は、その氷の橋を渡って、あたし達を追う。

 それに対して、瀾ちゃんは……。

「逃げるんじゃなかったのッ⁉ って、これ、バック出来るの?」

電動車EVなんで、イン・ホイール・モーターの回転を逆にすれば可能だ。技術的には簡単に実現出来る……。運転は少し難しいが……」

 4輪バギーは、一端止まると、突如バックし始めた。それも、凄いスピードで。

「あ……しまった……峰打ちになるな、これ……」

「えっ?」

 「もう1人の巫女」も流石に事態を把握出来ないみたいで、バイクを止め……そして。

 「もう1人の巫女」のバイクが再び動き出す。そして、あたし達の4輪バギーと「もう1人の巫女」がすれ違う直前、「もう1人の巫女」は、進路を大きく変えようとして失敗、そして横転。

 そうなった理由は……。

「ねぇ……瀾ちゃん……。あの人の顔に、それをブッ刺すつもりだったの?」

「黙秘権を行使していいか?」

 瀾ちゃんの片腕は「もう1人の巫女」の方向に延び……手首には……1本の刃が出現していた。

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