第3章「応戦」

瀾(一)

「マズい……。佐伯は……どこだ?」

 ドローンが撮影した映像のいずれにも佐伯漣は映っていない。

 そして、どのドローンが撮影とらえているのも、仲間とレコンキスタと河童を中心にした異能力者達の戦闘だ。しかも、どうやら、異能力者同士での戦いまで始まっているようだ。当然ながら、異能力者同士も1つに纏まっている訳ではない。むしろ、この状況では、因縁や遺恨が有る者同士が、偶然、鉢合わせなんて事も十分に起こり得る。

「判ってると思うけど、市内の防犯カメラの映像を横取りする事は出来ない。防犯カメラ網そのものが落ちてるからな」

 苹采姉さんが冷たく、そう言った。

「何で?」

 治水がそう聞いた。

「理由の1つは停電。もう1つの理由は、わざと落した……私達の仲間がな」

 苹采姉さんが、やれやれと言った感じで説明する。

「え? だから……何で?」

「瀾が大暴れしたからだよ。顔を隠してないヤツが大暴れしてる所を防犯カメラの映像に残す訳にはいかない。それも、大人の異能力者とマトモに戦える中学生の映像だぞ……そんなモノを警察や……事実上のヤクザである安徳グループの連中に渡す訳にはいかない」

「それと……あの……佐伯って、人の場所なら……何となく……」

「嫌な予感しかしないな。向こうも、この子の場所が判るんだったな」

「うん……追ってきてるみたい……あたし達を……」

「治水……今着てる……その革ジャンは……満さんのだったよな……見せてくれ」

「えっ?」

「おい……まさか……その……」

 私は、治水が着ていた革ジャンを調べた。

「間違い無いです。防弾・防刃仕様のヤツです。あと……久留米の『支部』に……予備のヘルメットが有る筈なんで……誰かに持って来てもらって下さい」

「だから……お前……何をする気だ?」

「『おっちゃん』に言われたんですよ。応援が来るまで、逃げて、逃げて、逃げまくれ、って……。そして、私は、こいつを運転出来る」

 そう言って、私は、父さんが使っていた四輪バギーATV「チタニウム・タイガー」の複製機を指差した。

「待て……おい……」

「治水と一緒だと、この車に乗ってる他の人も危険だ……。私が治水を護って逃げ続けます。それが……全員が助かる一番確実な手段です」

「まぁ……それしかないかな……」

 治水は、妙にサバサバした調子で言った。

「治水の力と、この『鎧』。どっちか1つなら……今は、佐伯に対抗するのは無理だろう。でも2つが合わされば……多少はマシになる」

「瀾……判って言ってるのか? そんな真似したら……羅刹天ラーヴァナは……絶対に、二度と、お前に、その『鎧』の着装を許す事は無いぞ。どう言い訳しようが、お前がやろうとしてるのは『子供が規格外の性能のパワードスーツを着て大暴れ』だ。そんな事態を、あの石頭が容認する筈が無い」

「丁度いい。私に才能が無いのは判ってました……少なくとも、2号鬼や3号鬼ほどの才能は……。伯父さんが、私が4号鬼を着装する事を二度と許さなくなるなら……4号鬼は……私より、これに相応しい誰かが使えばいい。私より強い人も、私より立派な人も、いくらでも居る。その誰かが使えばいい……。けど、今は……この4号鬼は……私用に調整されている。私にしか使えない」

「でもさぁ……お前……あの馬鹿親父の跡を継ぐ為に、今まで頑張ってきたんだろ?」

「けど……私の師匠は……父以外にも2人居る。その片方が言ってました。『悪を殺すだけなら、単なる殺し屋だ。人を救いたければ、他にも選択肢が有る。英雄ヒーローとは……例えば釈迦やキリストだ。釈迦は王座を捨て、キリストは命を捨てた。英雄ヒーローとは、誰かの為に、自分の大切なモノを捨てる事が出来る者だ』って」

 一生修行しても……父や伯父ほどの強さは得らえない。……父や伯父が「超一流の中の超一流」なら、私は「並の一流」がせいぜいだ。

 そう気付いた時から、私は、夢を捨てる理由を求め続けていたのかも知れない。「正義の味方」になる夢をあきらめる理由を……。そして、この「鎧」を、どこかに居るであろう、私より相応しい誰かに譲り渡す理由を……。

「私は……妹と……ここに居るみんなと……名も知らない無数の人達を護る為に……自分の夢を捨てる。『護国軍鬼・4号鬼』を名乗る夢を……」

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