治水(1)
「高木‼ 何やってんだよ⁉」
「見て判らんか? 着替えてんだ」
「でも、それ下着……」
「ああ、安心しろ。ここには、私の恋愛感情や性欲の対象になる可能性が誤差レベル以上の人間は1人も居ないから、恥かしがる必要など無い。まさか、甲高い声で『きゃあ、エッチ』とか言うのを期待したのか? なら、お前は底抜けの阿呆だ」
瀾ちゃんの感動の大演説が終った途端に、例によって、瀾ちゃんと望月君の漫才が始まった。
「あのさぁ……望月君……。下着って言っても、スポーツジムに行けば、あんな格好してる人、いくらでも居るよ。あれで興奮してたら、海水浴にさえ行けないよ」
「まぁ、そうですけど……」
「ところで、そのカッコイイ下着、どこで買ったの? あたしも欲しいんだけど」
「後で教える」
瀾ちゃんが着てるのは、迷彩模様のスポーツブラに、同じ柄のスパッツに見えない事も無いショーツだ。
そして、瀾ちゃんは、「鎧」のインナーらしき黒っぽい服を着る。続いて、苹采さんと、もう1人の男の人が装甲を装着していく。
「漠然とした質問だけど……これで……3号鬼に勝てると思う?」
「漠然とし過ぎた質問だな……。4号鬼を着装したお前が……3号鬼に勝てるか、と云う意味なら……判ってるだろ。無理だ。基本性能は4号鬼が上でも、お前とお前の親父では腕が違い過ぎる」
私と……瀾ちゃんのお父さん……。その「お父さん」が満姉さんを殺して……そして、瀾ちゃんは、満姉さんの
「そうだな……。お前も理解出来てると思うが、例えば、もし……お前が十分に腕を上げて、4号鬼の制御AIの学習データが十分に蓄積された、と云う条件の元でなら、3号鬼と4号鬼がヨーイドンで拳を撃ち合ったなら……ほんのわずかだが……4号鬼の方が先に動き出せるだろう。でも、どっちの拳が先に届くかは……正直、判らん」
「苹采姉さん、正直に言ってくれ。私が、父さんより強くなれる可能性は有ると思う?」
「無い。お前の父親は……高木一族の歴史の中でも最強の男だ。……高木一族の歴史の中で、戦いにおける最高の天才か否かは別にしてな。お前の伯父貴も十分な化物だが、それでも『並の横綱』だ。対して、親父の方は『歴史に名を残す相撲ファンじゃなくても名前ぐらいは知ってる級の横綱』。で、お前は平幕まで行ければ御の字だろうな」
「言ってくれるね。でも、諦めが付いた」
「ね……ねぇ、私達のお父さんって……?」
「行方不明だ」
そう苹采さんが答える。
「どっちみち、護国軍鬼は定期的なメンテナンスをしないとマトモに動かなくなるように、わざと設計されてる。1人の人間の好きに使わせるにはマズい戦力の装備なんでな。だから、父さんが『非特異能力者としては地上最強』だとしても、出来る事は限られてる。もう、父さんが使ってる『護国軍鬼・3号鬼』は、制御AIを書き換えない限り起動すら出来ないし、それが出来ても遅かれ早かれ動かなくなる筈だ」
「え?」
「治水に取り憑いてる『神様』から聞いてるんだろ? 満さんを殺したのが、父さんだって。でも、殺した理由は判らない」
「あ……あ……ええっと……」
その時、トラックが止まった。続いて、コンテナ後部のドアが開く。
「持って来たぞ……。けど、後は知らんぞ」
「伯父さんは?」
「後で、しっかり絞られろ」
外に居た男の人は段ボール箱を置く。
中には……ヘルメットに、VRのヘッドマウント・ディスプレイに似たゴーグル、ガスマスクらしきもの……そして、瀾ちゃんが使っている眼鏡型の端末の本体に似たモノが入っている。
ヘルメットはバイザーが無く、ほぼ全面が金属で覆われている代りに、目の部分に小型カメラが付いている。そして……。
「満さんのヘルメットの予備か?」
その黒いヘルメットには、青い竜が描かれていた。両手・両足に各7つの爪が有る青い竜。
「五本爪の竜は人間の皇帝の象徴。六本爪の竜は……単なる竜を超えた『竜神』。そして……七本の爪の竜は『竜神の中の竜神』『竜神の王』だ」
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