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薙刀部に入ろうと思ったのは、中学3年のオープンスクールの時だった。
一緒に回っていたはずの友達とはぐれ、探していた時、偶然武道場で練習する薙刀部を見た。剣道とよく似ていて、でも全然違うそのかっこよさに、たちまち俺は惹き込まれた。
見学したいと申し出ると、驚きながらも先輩たちは見学を許可してくれた。
俺が丁度見ていたのは試合練習の時で、あっという間に相手から面を取ってしまったり、様々な技で相手を翻弄したりしていて、とても輝いて見えたことを覚えている。はじける汗ほど、眩しくて。あの時の汗のきらめきほど、綺麗なものを俺は知らない。
その時の主将は黒髪の綺麗な女の人で、面を外した時のあまりの綺麗さに、俺はすっかり心を奪われてしまった。
この人のようになりたい、この人の横に立ちたい。そんな思いばかりが頭を駆け巡って、俺はその日、「絶対にここに入部します!」と断言して、帰った。その時、主将は俺の頭をぐしゃぐしゃにかき回して、「楽しみにしてる!」と言った。
その笑顔もまた眩しくて。その時俺は確かに一目ぼれしたのだ。その人に。
その後、俺は必死に勉強した。その学校はその時の俺の学力じゃ少し及ばないところにあって、スコアが伸びにくい時期に俺はもう勉強し、スコアを伸ばし、見事その学校に入部した。勿論、幼馴染の優も一緒に。
真っ先に担任に入部届けをもらい、名前を書いて武道場へと持っていった。
「入部希望です!」
声を張り上げると、先輩たちは一瞬キョトンとして
「ほ、本当に来たの!?」
と叫んだ。どうやら俺のことを覚えてくれていたらしい。覚えてくれていたんですねと言うと、
「あんなインパクトの強い子は中々いないから。」
と笑いながら返してくれた。
そうして、俺は入部した。
それから、数日して俺はあの時の憧れの彼女が部活にいないことに気づいた。一週間通い詰めて練習しても来ない。待ってみても来ない。
彼女ともう一度会いたかった俺は、先輩に先輩たちに聞いてみることにした。
その日は丁度、雨が降っていた。
「先輩、あの日の人は来ないんですか?」
「へ?」
俺の質問に先輩は首を傾げた。言葉が足りて無かったようで、俺はもう一度言葉を足しながら言った。
「オープンスクールの時、面を取っていた主将さんは、来ないんですか?」
俺のその言葉に、先輩の目は揺らいだ。多分、動揺したのだと思う。まさか入部したての後輩に、そんなことを聞かれるなんて思いもしなかったのだろう。
嫌、忘れたかったのかもしれない。忘れていたのかもしれない。その人の存在ごと。
「・・・ああ、愛美のこと・・・。」
その時の先輩は、いつものように明るい笑顔なんかじゃなくて、俺も初めて見る、感情の抜けた顔をしていた。
「愛美はね、死んだよ。君が来た数か月、交通事故に巻き込まれてね。」
雨の音だけが、やけに武道場に響いていた。俺は涙を流すことも、どうしてと問うことも、何もできなかった。
俺の初恋は無残にも、終わるようにできていた。
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