第4話 え? 夢オチ? 現実と交換出来ませんか?
お嬢様のしなやかな指が、私の身体を撫でまわしている。
男の身体など
お戯れが始まってから、もう一刻程にもなるだろうか。その間、お嬢様は飽きる事も無く私の身体を
悪戯な指先は私の反応を楽しむよう、身体中を触れるか触れないかという所で動き回り。時折立てられる爪の感触に、私は思わず嬌声をあげる。
お嬢様はその度に嬉しそうな嗤い声を漏らしていた。
「ふふっ、おかしいの。おにいさまったらわたしみたいに小さな子にいじめられて、よだれまでたらしてよろこんじゃうんだもの、へんたいさんね」
責める言葉は、けれども聖母のような優しさを以て吐き出され。見えないはずのその顔が、少女らしからぬ艶やかさを湛えて歪んでいる様が、なぜか容易に想像できた。
―――自分は玩具だ。
お嬢様の歪んだ加虐心を満たすためだけに、存在を許されている。
お嬢様は自分を兄と呼ぶ。
無論、この傾倒した関係性が本当の
お嬢様は自らに関心を持たない家族の代替品として私を選び、この屈折したごっこ遊びに傾倒しているに過ぎないのだ。
親が子を選べないように、子もまた親を選べない。
現当主であるお嬢様の御父上は、お嬢様が産まれた時酷く落胆したという。
だが、産まれたばかりの赤子に罪があるわけが無い。
では、それはなぜか。
―――女、である。ただその一点で、あの御方はお嬢様を見限ったのだ。
故に少女は親の愛を知らずに育ち。そして不幸な事に、お嬢様はそれを良しとする程強くも、そして弱くも無い人間だった。
愛されていないなら、愛されるようになろう。そう考え行動し、けれどその行為に結果は無く。
そんな状況で、小さな少女が無垢な蕾のままで居られる道理は無い。
貴族の家に産まれ、求めてやまない肉親は己の味方であらず。更には周りを偏屈な大人たちに囲まれて過ごしてきたお嬢様の心は、その重圧に耐え切れず、次第に歪められてしまったのだ。
……跡継ぎになれぬ子になど、用は無い。あのお方がいっその事、その残酷な胸の内を言葉にしてくださっていれば、お嬢様はどれだけ救われたのだろう。
とどめを刺される事も無く、だからこそありもしない希望を見ていたお嬢様。
後にはただ、
……私は、お嬢様に物心がつくずっと前から側に仕え、一緒に過ごしてきた。
だから、だろう。そんな風に彼女を憐れむような事を考えているのが伝わってしまったのか、お嬢様は途端に不機嫌になり、
「―――なまいきね」
這いまわる指先が、それまで敢えて避けられていた不浄へと矛先を変えた。
「―――おほっ、お嬢様いけません、そこは
◇
「アッー!! オォン! アォン!!……イキス……ん……んんっ?」
……。
………?
…………え。
あれ、俺のSロリお嬢様はどこ? ここ?
全ては泡沫の……夢?
「夢オチ……ですって……!?」
良い夢とは得てして肝心な場面で覚める物だ、とはどこかで見た事が有る。けれどもう少し浸らせてくれても良かったんじゃないか!? あんまりだぜ神様!!
突如俺を襲う、セルフ緊縛中唐突に賢者タイムに突入したかのような醒め具合。
「つーか俺は何でこんな森の中で爆睡決め込んでたんだ? M男向け同人音声でも聴きながら森林浴してて寝落ちしたのか? ならせめてあと五分眠らせてくれりゃ……」
覚えてる最後の記憶は……ええと、
「そういや扉かなんかを潜って……あれ、転生したんだっけ? うっそんマジで? 夢じゃなかったのかよ、ついに現実とゲームの境目がわからなくなって気でも狂ったのかと思ったけど。てか寒っ、とりあえず暖かそうな場所に避難しよう……っとその前に確認確認っと」
この状況が本当に転生したという事ならば、その直前に交わした願い事も叶えられているはずだ。
「ステータスはどうやっ、……おっ」
どうやって見るんだ、という疑問を口にする前に、視界にゲームでよく見るようなウィンドウが表示される。
「なるほど、ステータスと口にすればいいわけだ。シンプルだなああくそっ消えやがった、出てる時にもう一度言っちゃいけないのか、不便すぎんだろこれ」
再びステータスと呟いて、ウィンドウを表示させる。
「んでこれが俺のパーソナルデータか……なになに」
【名前:小走 託夜】【LV:最強】
【体力:最強】【魔力:最強】
【 力 :最強】【攻撃:最強】
【防御:最強】【魔防:最強】
【俊敏:最強】
「えっ、なにこれは」
いやこういうのって普通数字じゃねえの? 最強って何だよ哲学か? カチカチ山か?
「いや確かに言ったけどさ、転生した先の世界で、なんかこう良い感じで最強にしてくれって」
いや言ったけど、それは某オーガみたいに世界最強の存在にしてくれって意味であって、文字通りステータス表記を最強にしてくれなんて意味では無い。というか普通考えればわかるんじゃない? いや考えるまでもないですわ。
「ははーん。さてはあいつ、俺の事が嫌いだな?」
そりゃあ最後にパンティとか言ってちょっとふざけちゃったけどさ、そこは神様なら慈悲深く許しを与えるもんじゃないんか? えぇ? 下等な人間相手にムキになってどうすんの?
「あ、いや、やめておこう。こんなこと考えてて天罰とか下されたら洒落にならん」
もしこれが本当に嫌がらせだったとしたら、不敬すぎるとかいう理由で追撃される可能性も0じゃないだろうし、何よりあの女神ならマジでやりかねない気がする。実際顔の形が変わるまで殴られたし。
え、というか待って待ってちょうだい待ってくださいの三段活用ですよこれ、どうすんのマジで?
「とりあえず……実際の所どうなのか確かめてみるべきだよな」
とは言うものの、どうやって試すか。
体力……はウルトラは無理だけどフルマラソンくらいなら走り切れるくらいには元からあるし、判断しづらいから却下。
一説によると主砲一発100mダッシュ相当なんて話もあるみたいだし、変態行動は体力を使うからフィジカルお化けになるのも仕方ないよね。何より寝起きで走るのめんどいし。
とすると力とかか……その辺の木でも殴……るのはおてて痛めると嫌だし、引っこ抜けるか試してみるか?
「よし……んじゃあ、とりゃあああ!!」
「りゃああああああああ!!」
「とああああああああああああああ!!」
「はぁ……っ、はああっ……きょ、今日の所はこの辺で勘弁しといたらぁ……」
ダメだ、びくともしやがらねえ。
というかなんだ、本来俺が持つ力だと100%無理なのは当然として、この世界で一番の怪力になったとしても引き抜ける物なのかどうなのか、だ。そうで無かった場合、今の行動が徒労に終わった理由が“ステータスが変動していないから無理”なのか、“ステータスは上がっているものの、この世界で一番の怪力になったとしても無理”なのか判断が付かない。
「世界一の怪力でも木の一本や二本引き抜けない異世界っていうのも夢の無い話だけど……」
ファンタジーな世界でそれはどうなのよ、と内心でツッコミを入れる。
あ、待てよ、それなら魔法とかはどうだ?
ステータスに魔力なんて項目があるくらいなんだ、魔法は間違いなく存在すると思っていいだろう。
これなら比較対象も必要なく、我が身一つで検証する事が可能なはずだ。
となれば、よし……。
「ファイヤーボール! ……アイスボール! サンダーボルト! メテオ! ヒール! メドローア! ええいっ、メガンテ! 催眠アプリ!」
……。
ダメだ、何も出ない。そもそもメガンテはマズい。出なくて良かったまである。
……いや、そもそも魔法の名前が合ってるのかどうかがわからないから、これも判断材料にはならないんじゃないか?
「あれ、
こんな状況でモンスターなんかと遭遇したら詰むんじゃないか、いやマジで。
まあでも、そうタイミングよくモンスターなんて出るわけないよな。流石にスポーン場所は安地だろうし。
「きゅいきゅい」
「今ちょっと黙っててくれる? 考え事してるから」
「きゅい」
「何がきゅいだよクンニしろオラ……」
言って、声のした方へと振り返る。
「ワオ可愛い兎。え、兎? 兎だよね君? なんかあからさまに俺の数倍でけえけど」
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