第2話 ママーッ!!

 俺の名前は小走託夜こばしり たくや、18歳。

 一度留年しているが、まだまだピチピチの男子高校生だ。

 昨晩も日課のえっちっちなサイト巡りにいそしんでいた結果、深夜四時まで起きていたせいで当たり前のように寝坊をしてしまい、現在学校へ向けて爆走中。

 遅刻は確定しているけど、進路はまだ決まっていないぞ!


「やべえ眠すぎて居酒屋の狸が美少女に見えるぞハハハハハッ!」


 しかも胸丸出しじゃねえかこのビッチ!!

 エッチ・スケッチ・ワンタッチのリズムに乗りながら、道中に設置されているマスコットキャラの胸を叩くように撫でて弾道を上げ、俺はさらに加速する。

 今なら力士の裸体で興奮出来る気がするけど、無理か?

 一度立ち止まってしまったら死んでしまうような錯覚さえ覚えている俺は、そんな益体のないことを思い浮かべながら全力で走る。マグロかな?


「Foooooooo!! ……むっ、停止!」


 だがタイミング悪く遮断機が降り、踏切で足止めを食らってしまった。


「カンカンカンカンカン」


 しかし立ち止まる事など許されない俺は、警報機のリズムを口ずさみながらそれに合わせて腰を振り、足首でビートを刻む。もちろんフィンガースナップも欠かさない。

 この踏切は上がるまで結構長いから、五分近くこのまま踊り続ける事になるだろう。

 持ってくれ、俺の身体!


「ムッ!」


 加速し続けるピストンが、あわや光速に達するかというところで、“それ”は唐突に舞い降りた。


「あれは……女神!?」


 遮断機の向こう側、つまりは線路上の中空———そこに裸の女性が、ひらりと天使のごとく現れた。

 舞い降りる、という言葉そのままにゆっくりと、彼女は空から降ってきたのだ。

 ―――だが、そこは線路上。つまりは電車あいつの進路上に他ならない。

 あの電車あの男が走る速度と、女神彼女の舞い降りる速度……俺の灰色の脳細胞がハジけ飛んだ計算によると、まず間違いなく彼女は電車あの男と衝突してしまうだろう。なんという事だ、それでは違法セックスではないか。天下の往来でそんな事が許されるのか? ―――否、許されるはずがない。俺以外による公然わいせつ罪は裁判を経ずに死刑と宇宙憲法によって定められていたはずだ。


「ドイツの科学は世界一ィィィィーーーー!」


 俺はいてもたってもいられず、遮断機を手刀でへし折り彼女の元へ駆け出した。


「ママーッ!!」



「えっ、なんすかこれ」


 そこには血走った目で線路に飛び出し、ダッチワイフに飛びつきながら快速特急に撥ねられる男の姿があった。

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