俺以外の男が奴隷を持つとか許せないので奴隷商とか全員ぶっ殺します
インドカレー味のドラえもん
第1話 腋の香りを嗅がせて頂いてもよろしいでしょうか?
「ようこそ、いらっしゃいませ」
それまでの記憶を失っているかのような唐突さで、眼を開いた自覚すらなく。
気が付けば、俺は白い空間に立っていた。
いつからそこに居たのだろう。目の前でスカートの裾をひらりと持ち上げた少女が、俺に向けて口を開く。
カテーテルだったかそんな名称の、どこか外国の畏まった挨拶の作法だ。
「あ、どうもご丁寧に」
なんかすげえ可愛い女の子に丁寧な挨拶をされたので、状況もわからないけどこちらも腰を曲げて挨拶を返し、右手を差し出す。
「あの……この手は?」
少女は首を傾け、口元に指をあてる。あざとい。
日本人離れした白い肌に、日本人離れ……どころか非現実的な、けれどウィッグや染料による不自然な物ではなく、それが自然なのだと感じさせる青紫の髪。
纏う服装はやや露出が多いもののドレスじみた豪奢な物で、けれどコスプレのように下品な感じはなく。この少女のために仕立てられたのだろうと思わせる
「いえ、丁寧な挨拶を頂きましたので握手もかと」
「ああ、なるほど。人間の間の作法ですね、こちらこそご丁寧にどうも……」
「いえいえ。にぎにぎ」
可愛いという言葉の前では多少の違和感など存在しないに等しいのだという事をエロゲから学んでいる俺は、“人間の間の挨拶”などと言う電波な表現には眼を瞑り、少女の掌を堪能する。
「ところであの、ひとつお聞きしたい事があるんですが」
「はい。あなたの聞きたい事はわかっています」
「腋の香りを嗅がせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「何故あなたがここに居るの…………んんん?」
「ええと……すみません、どうやら言語の最適化がうまくいっていないみたいなので、もう1度お願いできますか?」
言語の最適化? なに言ってんだこいつ。頭おかしいんじゃねえか?
よく聴き取れなかったのでもう1度お願いします的な意味だろうか。
だが安心して欲しい。俺は空気の読めない男でもなければ、ラノベでよくある難聴系主人公でもないので、言外に含まれた意味を察する事は苦手ではない。
この場合はそう、つまり……
「鎖骨に溜まった汗を舐め取らせて頂いてもよろしいでしょうか?」
うん。初対面で腋の臭いなんて嗅がれるのは恥ずかしい人も居るだろうし、いきなりはまずかったか。
臭いではなく香りと形容した俺の気遣いも、ささやか過ぎて伝わらなかったという事だろう。
即ち―――“聴こえていたけど、そうだと思いたくない”。
おそらく、そういう事だ。
俺はそう解釈し、次の提案を示した。
いやでも顔が固まっているし不穏なオーラが出ている。どうやらこの答えも不味かったらしい。なれば、
「美しいセニョリータ、僕と踊って頂けますか?」
◇
「す゛み゛ま゛せ゛ん゛で゛し゛た゛」
「いえ、突然の事で混乱されていたのでしょうし、気にする事はありませんよ」
その割には顔の原型が残らないくらいにボコられたんだが? 前が見えねえ。
「え゛え゛と゛、゛ど゛う゛し゛て゛俺゛が゛こ゛こ゛に゛居゛る゛の゛か゛、゛で゛し゛た゛っ゛け゛」
「そうですが、その前に。―――。」
少女がなにかを呟いた瞬間、身体中(主に顔面)から痛みが消え、視界が鮮明になっていくのが感じられた。
「うおっ、普通に見える、普通に喋れる、痛くねぇ!」
「こほんっ、そのままではこちらも聴き取りにくいので、治療させて頂きました」
「うひょおおおおスゲェェエ!! なんやこれ魔法!? ヒールって奴? えっなにそれ、いやそんなもんあるわけないんだよなぁ!」
「続きよろしいでしょうか?」
「アッハイ」
少女の手にがぴくりと動くのが見えた。暴力反対。
◇
「では三度改めまして……貴方は貴方の居た世界で死を迎え、この空間に送られてきました。ここは貴方がたの世界で言うところの天国と称される場所。俗っぽく言うとすれば“あの世”と呼ばれる場所の、その入り口です」
「はぇ~、すっごい」
「……あまり驚いていないようですね?」
「いやぁそれなりには驚いてますよ。見覚えのない場所に突然ポツンだし、直近の記憶はなにもないしで」
「その割には、冷静なようですが」
「まぁ、アレでしょ。俺は死んじゃったけど、そのままにしておくには惜しいくらい清らかな魂を持ってるから転生とかさせてくれるって事でしょ? そういう漫画いっぱい持ってるからわかりますわかります。たぶん死因もトラックに轢かれそうになった子供を助けて代わりに轢かれたとか、そんなカッケェやつなんでしょうなぁ……」
「いえ、その、非常に申し訳ないんですが……」
「ん? ……あぁアレっすかね、俺が助けなくてもその子は無傷で助かってたとかそういうの。それも古い漫画で見た事ありますけど、重要なのは俺が子供を助けるために動いたって事だからね多少はね?」
「……子供のために死んだっていうのは自分の中で決まっていんですね、これめんどくさい人だ」
「なんか言いました?」
「いえ」
「まぁ、死因は実際に見ていただいた方が早いでしょう……」
◇
少女がそう言い手を振ると、空中に黒い空間が現れ、促されるままにそれに意識をやると、古い映画じみた演出のカウントダウンの後、疾走している
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