喋る男性⑵

 螺旋階段をのぼったところにある部屋まで、透羽とわさんは案内してくれた。

「この部屋を使ってね、雪璃ゆりちゃん」

そう言ってドアを開ける彼を見つめる私の鼓動は、どんどん速くなっていく。

 部屋の中が見えた。わかっていたことだが、どう見ても豪華な部屋だった。大きいベッドに、見るからにそうな布団。綺麗な柄の絨毯にソファーにシャンデリア。なんと言っても部屋の大きさ!ここから見ても広いということは、中に入ったらもっと広いだろう。中世のヨーロッパにでも来たようだ。

 私がここに泊らせてもらってもいいのだろうか。

「本当にいいんですか?」

そう聞く私に

「当たり前だよ」

と、透羽さんはニッコリ笑って言った。『きゅん』と心臓がなった。平常心・平常心と自分に言い聞かせながら、

「でも、もっと質素な部屋でいいんです。こんな豪華な部屋だと、申し訳ないです」

と言った。

「雪璃ちゃんは女の子だからいいの」

“女の子”なのと豪華な部屋に泊まるのは違うだろう、と思いながらも“女の子”と言われたのを喜んだ。

 透羽さんは、部屋に入らない私の背中を押して部屋に入るよう、うながした。透羽さんが触れたところが、熱い。

 部屋に入る。案の定、広かった。20畳はあるだろう。

「うわぁ」

無意識のうちに感嘆の声が出た。

「僕の部屋は隣だから何かあったら来てね」

隣!?緊張してしまう。

「着替えは嶋田さんが今用意してるから、それに着替えてね」

「着替えまで・・・いいですよ」

「ないと雪璃ちゃん困るでしょう?」

「そうですけど・・・」

その時だった。

  コンコンコン

 ドアがノックされ、嶋田さんが入ってきた。

(お着替えをお持ちしました)

(あぁ、ありがとう。はやかったね。そこに置いといて)

そう言って透羽さんは微笑んだ。彼の笑顔が綺麗すぎて見惚れてしまった私は、何がなんだか分からなくなって

(ありがとうございます)

と小さく呟いた。

(透羽おぼっちゃま、雪璃さま。お食事の準備ができていますが・・・)

雪璃さま!?女性扱いといい、『さま』付けといい、嶋田さんと透羽さんは私を大切に扱ってくれる。

(あぁ、食べにいくよ)

(承知いたしました。では、失礼いたします)

そう言って、嶋田さんは去っていった。

「雪璃ちゃん、ご飯食べる?お腹空いてるでしょ」

確かにそうだ。この不思議な世界にきてから何も口にしていない。

「あっ、はい。いただきます」

顔をあげると、透羽さんと目があった。鼓動が速くなり、全身に痺れを感じた。いたたまれなくなり、と目線を下に逸らす。

「着替えたら、僕の部屋までおいで。食堂まで案内するよ」

そう言って、透羽さんは出て行った。

 ご飯か・・・どんなのだろう。美味しいことは確かだろう。


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