男性の家のご飯(1)

 私は、嶋田さんが用意してくれた服に着替えた。水色のワンピースだった。いつもなら絶対着ないスカートに少しドキドキしながら、袖を通した。

 背中のチャックをしたあと鏡に映った私を見ると、酷く醜い顔をしていた。上品な服とはお世辞にも似合わない顔だった。

「これはだめだ・・・洗面所どこかな」

私はそう呟くと、部屋の奥にあるドアを開けた。案の定、洗面所だった。急いで水を出し、顔に叩きつけた。冷たい水が気持ちよい。

「っぷっは!」

私はそう言って顔をあげた。鏡に映る水が滴れている顔が安定していて、安心した。・・・余談だが、私は結構モテる。この間も先輩に告白された。容姿に騙されてしまうのだ。きっと、私の本当の性格を知ったら皆んな嫌いになってしまう。だから私は常に『わたし』を隠している。みんなが『雪璃ゆりはこんな人だよね』と言うたび私はそのヒトになろうとする。気づけば私は、知らない人になっていた。それが成長と言うのであれば、今後ずっと私は無理しないといけないことになる。

 コンコンと乾いた音が響き、

「雪璃ちゃん?」

透羽とわさんの声が聞こえた。我にかえった私は、

「は〜い。ちょっと待ってください!」

と言った。私は急いで支度した。と言っても、髪の毛をブラシで整えるだけだが。私の髪はストレートだから、基本櫛でとかすだけで真っ直ぐになる。

 私はパタパタと扉の前まで近づいた。すると、

「雪璃ちゃん、ごめんね。」

と透羽さんが呟いた。私は謝る対象が分からなくて黙ってると、

「僕が勝手に、と言うかかなり強引に、家に泊まること決めちゃったから・・・怒ってるかなって思って」

そう言う彼の声は徐々に小さくなっていく。私は『いかにも怒っています』と言うふうにドアを開けた。驚いた彼は「うぉう!」と叫んだ。

「なんでそんなこと言うんですか?私、透羽さんがいなきゃ今頃どうなってたか・・・」

私の言葉に、彼は目を見開いた。

「だから・・・ありがとうございます」

私はそう言って頭を下げた。

「っ良かった〜」

そう言って彼は笑い出した。

「僕、後先考えずに動いちゃうから・・・。今考えればすごいことしたなって思って。見方によれば、誘拐でしょ」

「確かに」

と、私も苦笑した。すると『ぐりゅるぐりゅる』と腹の虫が鳴いた。頬が赤くなるのが分かった。私は慌てて、

「すみません!」

と頭を下げた。『夢ならばどれほど良かったでしょう』いつか聴いた曲のワンフレーズが木霊した。まさにこのことだ。そんな私を見て透羽さんは、微笑みながら

「さあ、ご飯食べようか」

と言った。

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