みことりびあ

傘音

傘音（かさね）

雨がざわめきを遮る傘の中に反響する声。雨に重ねて、肩寄せて、手を重ねて呟く愛の言（こと）。

雨降る傘の中が、世界で一番美しく声が聴こえる場所なんですって。

・雨音

　傘が鳴らす音は、何よりもまず雨がぶつかって跳ねる音です。鼓膜を直接叩くようにも聞こえるあの音を、傘音は纏っているのです。

・世界で一番美しく声が聞こえる場所

　雨の中、傘を差したその中は、周囲の雑音が雨音で消され、発した声は傘がパラボラアンテナの役割を果たして反響して、普段よりも声が美しく響くのだと言います。

　世界で一番美しく声が聞こえる場所は、とても身近にあるのです。

・音のある静寂

　傘の中は、雨音が雑音をかき消して、静寂を生み出します。

　無音による些細な物音で破られる静寂ではなく、音に守られるからこそ物音に敗れない強固な静寂がそこにあります。

・相合傘

　傘音は、傘の中での独り言か、もしくは相合傘をしている相手にしか伝えられないものです。だって、傘の中に入れるのは大抵、一人か二人で、二人ならその二人の間には、きっと愛があるでしょう。

・愛の告白

　相合傘の中で紡がれる言葉は、愛の睦言なんだと、わたしは思うのですよ。

・愛を護る聖域

　傘の下は狭くて、そこに余人どころか、本人達だってはみ出てしまうほどです。だから誰も二人に割って入れない聖域となります。

・小さな完成した世界

　そこは誰にも踏み込めず、ただ二人だけで簡潔した、小さな完成した世界で、あとはもうなにもいらないでしょう。

・秘密、秘匿

　古来、蛇の目傘の内側に目の張り紙をすることで、そこで話した内容が誰にも知られることはなくなるという言い伝えがありました。

　傘音はこの伝承を引き継ぎ、その言葉を秘密に守るのです。