暮れ炉

暮れ炉(くれろ)〔暮れの炉〕

夕焼けが雲に映り、燃え盛る炉のように見える空の風景。

どこか幻想の中へ足を踏み入れた気分。


・郷愁

 暮れ炉が人に与える印象は、なんと言っても郷愁です。

 夕焼けはそれ自体が里の原風景になりますし、さらに暮れ炉には囲炉裏のような懐かしく暖かな緋色の景色が広がります。

 日本人の心に根付いたほっとする景色が暮れ炉なのです。

 だから、暮れ炉の未言巫女は、人に対してお婆ちゃんのように穏やかに気遣ってくれるのです。


・一日の終わり、終焉

 夕焼けは、太陽が沈んで一日を終える時刻です。それは太陽が最後に世界を燃やしているかのようでもあり、太陽の断末魔のようでもあります。

 また、太陽系の終焉は、太陽が膨張して全てを飲み込む形になると言われています。

 暮れ炉は、『暮れ』という終わりの意義を持つ言葉を内包していることからも、終焉の出来事としての概念を持ちます。


・終末の炎

 世界の神話を見ると、人類の滅亡や世界の崩壊として語られる内容は二つの形に分類されるそうです。即ち、大火災か大洪水です。

 ラグナロク、審判の日、暮れ炉はこれらの大火災として分類される世界の終末をイメージとして持っています。


・幻想

 黄昏とは、『誰そ彼』、つまり向こうに見える人の顔がよく見えなくて、誰かわからない頃です。暮れ炉もまた黄昏へと進んでいく時刻であり、その時間帯は人ならざるものがひっそりとこっそりと紛れ込んでいると語られます。

 暮れ炉は、それら幻想の住人を招く暖炉でもあるのです。


・海

 暮れ炉は、とある方をイメージして作られました。その方に対して未言屋店主が抱く印象は、妖精、神秘、そして海。

 暮れ炉が海を焼く景色は、想像するだけで美しいですし、目にすれば言葉をなくしてしまいます。暮れ炉はそんな緋色に燃え上がり、炎に満ちる海を生み出すのです。


・フェニックス

 暮れ炉は、炎による終焉を内包しますが、宇宙の終焉シナリオの一つには「振動宇宙論」という、膨張する宇宙がある時点で収縮を開始し、宇宙の全てが零次元に収縮した時に再びビッグバンが起こり、新しい宇宙が始まる、というものがあります。

 このシナリオでは、一つの宇宙の終焉にはビッグバンの爆発があり、それは暮れ炉の炎の終焉にも繋がるのです。

 その模様は、あたかも、死に際に自ら薪を組み、その中へ身を投じて燃え上がり、新しい卵となる不死鳥フェニックスと重なります。

 そのため、暮れ炉はフェニックスを化身とするのです。

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