第3話 遠雷

「バカっ」

 電話の向こうに向かって、愛は思いっきり怒鳴った。

 四階のアパートの窓の遠くに稲妻が走る。


「俺たち、やっぱり別れようか」

 愛は、自分から別れを言いだしたことなのに、相手から言われると受け入れられない自分がいた。スマホを耳に当てて、思わず窓から下を覗く。

 彼は愛のアパートの下に立っていた。

「鍵、ポストに入れておいたから。」

「うん」

「今までありがとな」

「…うん」

 別れなんてこんなものか。受け入れようとした、その瞬間、涙が一筋流れた。

 愛は思わず立ち上がり、玄関から飛び出して、階段を駆け下り、荒い息のまま道路に飛び出した。


 雨が強くなっていた。雷の音も近い。しかし、彼の姿は見えなかった。

 力が抜けて、思わず座り込みたくなったその時、後ろでチャリっと鍵の音がした。

「帰ろうと思ったら、雷がな。苦手なんだ、雷」

 ニヤッと笑いながら、ポストの壁に寄りかかって、彼が立っていた。

 ぐちゃぐちゃに泣きながら、愛が言う。

「じゃあ、雷が行くまで上がってったら?」

 遠雷のよう不穏な空気だけが流れた雨の夜だった。

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