第15話 助教さん最後の一手
扉の中の事態が変わった様子はない。
だめだ、発動しない……。
「だよな、そう都合よくはいかないよな!」
やっぱり僕には魔法が使えない……。
今日ほど、今日ほど魔法が使えないことを悔やんだことはない。本当に。
扉の中の音が大きくなる。今にも叫び出しそうだ。その声を聞いた瞬間、僕は石になってしまうだろう。
そのとき、僕の目に飛び込んできたのは──手紙鳥だった。
止まり木にとまった、墨田君宛の手紙鳥だ。
──いけるかもしれない。赤間君がくれたビスケットを手に取り、なんとか小袋を開ける。
「ほら、おいでおいで!」
手紙鳥はもちろんなにも食べないが、きわめて鳩によく似た習性を持つ。
これならばあるいは──。僕はビスケットを示す。
手紙鳥は首をかしげ、一瞬ののち、ふわり、と白く舞い上がった。
僕の手の前に降りる。くちばしをビスケットに近づけたところで……。
一気に足で捕まえる。あわてたようにばたつく手紙鳥に謝りつつ、背中で扉を押さえたまま、陣を探って書き換える。
魔法陣を書き換えることなら。
使われている魔法陣からなにがどう発動するかを把握することなら。
たとえ魔法が使えなくとも、僕は──プロだ。
魔法鳥は翼の中に陣を持っていた。急いで書き加える。
すでに発動している魔法の向きを変えることなら、僕にもできる。
その上で、翼に急いで一言だけ書き足す。
『耐石化の上、研究室へ』
「頼む、行ってくれ!」
手紙鳥は滑るように研究室のドアから出て行った。起きていてくれたら、なんとかなるかもしれない。
ただし彼女が寝ていたら……それまでだ。
そのうえで、僕が急いでやるべき仕事は後一つ。
あのドアまで走って、研究室に内側から鍵をかけること──。
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