第14話 助教さんとマンドレイク
急いで実験室に駆け寄る。確かに中でごとごとと音がする。まさか魔法がとまっていない!? それどころか、明らかに中で動いている音がする。もう一度引き戸の取っ手に手をかけるが、変わらず扉は動かない。
……マンドレイクが異常増幅、中でパンパンになってしまい、互いにふれあって土の中と同じ状態を作りだし、覚醒してしまったということか……。
まずい、このまま増え続けると朝には……。
その瞬間、引き戸が一枚、ドアレールからはずれて倒れかかってきた。
僕は間一髪、体で扉を支えることに成功した。レールに戻そうと思ったが、外れた拍子にこまが曲がってしまったのか、すんなりとは戻ってくれない。それどころか、中の重量に扉を押えておくのが精いっぱいだ。
この間のナイト・スパイダーに引き続き、またしてもこんな状況に……研究室は危険がいっぱい……いやいや、本当はそんなことはないのだ。
実験の不備はすなわち準備不足といつも学生に口を酸っぱく──
ガタン!
再び中から圧力がかかった。だめだ、一瞬たりとも離れることはできなさそうだ。よけいなことを考えている暇さえない。
「誰かいませんかー!」
叫んでみたものの、むなしく声が響くだけ。今日に限ってフロアにはもう誰も残っていないようだ。
「今、中のマンドレイクは一体いくつになっているんだ? えーっと、実験を開始したのが六時、七時で二個……おそらく、百二十八匹以上がこの中に……」
引き戸になっているドアは今にもはじけそうだ。互いにぎゅうぎゅうに接触して「土に埋まっている」のと同じ状態から抜け出したマンドレイクは、自由になった瞬間、叫び声をあげるだろう。つまり扉が開いた瞬間、僕は石化してしまう……。
マンドレイクは土から抜けた瞬間に走って逃げようとする習性がある。だから抜く時にはしっかりと葉を掴んでおかなくてはいけないのだ。この状況で、全てのマンドレイクの葉を掴むなどできそうにない。
僕は研究室の入り口を見てぞっとした。研究室の入り口のドアが開いている。僕は一瞬立ち寄るだけのつもりだったから、無意識に研究室の入り口のドアを閉めなかったのだ。
つまり背中の扉が開いた瞬間に、マンドレイクが大学中に広まってしまう。
いったい何匹になっているのかわからないマンドレイクが学内に逃げ出したら……いや、そもそも覚醒したメデューサ・マンドレイクを放つなんて、学長による会見もの……いやいや、クビだな……いやいやいやいやいや、そんなことより人的被害が──。
考えろ、考えるんだ。ポケットを探る。
ジャケットのポケットから出てきたのは、油性ペンと、赤間君が昼にくれたビスケットだ。
扉の硬化、いやだめだ、硬くなると柔性がなくなる。よけいに扉の崩壊が速まるだけだ。
ドアの内側の物質をすべてちいさくする、のはどうだろう。ものの大きさを変えるのと理論的には同じだ。それならそんなに難しい魔法じゃない。
目下一番の問題は僕に魔法能力がないってことだ。
魔法能力が後天的に発現した、というケースがないわけじゃない。
それに──かけるしかない。
僕は急ぎ、油性ペンで扉に魔法陣を描く。
いちかばちか……! いけ────!!
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