第6話 助教さんと実験の顛末

 ナイト・スパイダーと僕の目が合った気がした。僕は息をのむ。

 ここまでは想定──内だ。

 僕は暗幕を引き、すぐに行動を起こしていた。アルカード君の魔法陣に、少し手を加えるだけ。成長速度だけじゃなく、サイズ成長を起こしている部分があるはず。演算を確認している時間はない。アタリをつけて、強引にペンで書き換える。

「これで……なんとかなってくれ……!」

 魔法陣がじわりと光る。その瞬間、ナイト・スパイダーは僕に向かって地面を蹴った。

──と、みるみるナイト・スパイダーは縮み、もとの大きさにもどった。

 僕はそこで再び、魔法陣に書き込みを行う。時間の経過を遅らせるのだ。

 後でアルカード君に停止措置をかけてもらおう。

「ふぅ──……」

「先生……!」

 二人が飛び込んでくる。

「ありがとう、ございます」

「とりあえず成長速度を反転させたよ」

「急速に若返って、さらに小さくなったんですね」

 ほっとした声をあげたのは青井さんだった。

「発動している魔法陣に手を加えることは危険だけど──……それなら僕にでもできるからね」

 僕はアルカード君にナイト・スパイダーを手渡す。ナイト・スパイダーは彼の袖にそっとおさまった。

「ああよかった……。また緊急事態になるところだった」

「この間も、よその研究室でドラゴンが過成長起こして、大学閉鎖措置になりましたもんね」

「ごめんなさい……先生」

「無事でよかったよ。またこういうことが起こったら、僕を呼んでもいいし、とにかく焦らないで対処してね」

「僕……ダメですね……」

 感情が出にくい彼でもそうとわかるほど、アルカード君は落ち込んでいた。僕はそんな彼を好もしく思った。こういう子は実のところ、火がつくと伸びることが多い。

「まずそんなことはないし、もしそうだと思っても、今の君に力がない分、君には周りに人がいるじゃないか。僕とかね。うまく使いなさい」

「いいこと言うね~」

 声をかけられ、振り返る。

「黄田先生」

 立っていたのはくしゃくしゃの白衣に、これまたくしゃくしゃの白髪をたくわえた、一人の男性だ。魔法生物研究室の黄田先生だった。緊急対策部の担当教授だ。武装した対策部隊を引き連れている。

「なんだ~、ちっちゃくなっちゃったのか~。大きくなったナイト・スパイダー、うちでもらい受けようと思ったのにぃ~」

 アルカード君の袖のナイト・スパイダーをつつく。

「大きいまま捕獲してよ~」

「無茶言わんでくださいよ。命がいくつあっても足りませんよ」

「確かに麻痺は残るかもしれないけどね」

「マジか。アルカード君、今度は人間基準で換算して毒性を教えてね!」

「ま、俺らの仕事は、そんなもんだからさ~」

 アルカード君の方を向いた。

「どんまいどんまい、がんばってね~」

 そういうと、彼は部隊を引き連れ、去っていった。後には三人と一匹が残された。

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