第4話 助教さんとバイト先のニンフ

 翌日、手紙鳥を見たらしい赤間君は、おそるおそる研究室にやってきた。僕は彼の姿を見つけるとミーティングルームに呼び出すことにした。研究室で指摘してもよかったのだけれど、おそらく不名誉なことなので僕もちょっとだけ気が引けたのだ。

「君、このラテン語の論文、自分で翻訳した……?」

 僕が困った顔でそう訊くと、赤間君は一瞬目を泳がせてから答えた。

「えっと、えーっと……はい」

「ほんと? ほんとうに?」

 僕は再度尋ねる。生徒の語学力くらい、大体把握している。それにそぐわないから僕は彼をここに呼んだわけで。

「すみません、どっか間違ってました?」

 つじつまを合わせようとしたのか、彼はそう口にした。ため息をつく。

「間違ってたっていうか、ほぼデタラメだよ」

「え、ええ!?」

「君がラテン語を得意にしていないのは知ってるよ。でもいつもの君ならここまで酷いラテン語にはならないからね……だから訊いてるんだよ。君、これ本当に自分で書いた? 正直に言ってごらん?」

 少し逡巡した後口を開く。

「ば、バイト先にニンフ族のやつがいて、ラテン語得意っていうから……翻訳を手伝ってもらいました……」

「手伝って?」

「というか、ほぼやってもらいました、すいません」

 観念したのか、肩を落として彼は言った。

「だろうね。それ自体はかまわないんだけど……うーん、じゃ、君、彼へのお礼をケチったんだろう。きっといたずらされちゃったんだな。」

「そっすね〜。合コン開いたら翻訳してくれるって約束したんで、先払いで合コンしたんすけど、メンツが気に入らなかったのかなぁ。あーあ、結局自分でやりなおしかぁ」

「だね。まあ、がんばって」

 その時だった。ミーティングルームの扉が激しくたたかれた。

「先生ーーー!」

 驚いて扉を開ける。青井さんだった。

「どうした!?」

 走ってきたらしく、荒い息の下で彼女はやっと言った。

「アルカード君が……!」

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