第28話 白ウサギの本気――天使の翼
白ウサギの蹴りを読み、黒竜の行った攻撃。
爆発を起こし、爆風で吹き飛ばす一撃。
その爆風のせいで、赤憑きたちの周りを取り囲む、ろうそくの灯りが吹き消された。
そして闇が広がる中、廃教会の崩れた屋根の隙間、雨雲の隙間から月の光りが差し込んで。
一人の女、一人の少年を照らし出した。
飛ばされた女と、それを受け止めた少年。
白ウサギと赤憑きを。
「これ、逆じゃないかい? 体格的に、普通はさ」
「うっさい。男が女を抱える。それが普通なんだ。こういうのはさ」
「……そっか」
頬を赤らめて、白ウサギが少年から顔を背ける。
いつもの気取った彼女はどこへやら。
白ウサギは、しおらしい態度で赤憑きの中着の
それを見て赤憑きは慌てた。
少年らしく慌てて、彼女から顔を背ける。
「えっと……そろそろ、ケリつけようぜ」
「だね。あたしも、泥試合はもう沢山だ」
「それもあるけど……ボクの腕、もう限界なんだ」
プルプルと震える赤憑きの両腕。
いくら右手の刻印で負荷を軽くしているとはいえ、赤憑きは少年だ。
それが八つも年の離れた女子を抱えるというのは、やはり無理があったようだ。
青い顔の赤憑きを見て、白ウサギがプッと吹き出す。
「だっさ」
「お前な……今すぐ落とすぞ」
その時、トットットッと軽い音――
――床を駆ける小さな足音が、二人の耳に届く。
刻印による、ほのかな赤い光の膜……
その外を、ゆっくりと進む影。
ボロい板を踏み、小さな敵がまたも向かってくる。
それを察知した白ウサギが、赤憑きの持つ長筒へと手を伸ばした。
銀の糸が切れて長針のない、その武器へと。
その糸を探り、目つきを鋭くする。
そんな彼女に、少年は優しく問いかける。
「準備は……?」
「いつだって。君が一緒なら」
二人に飛び掛かる、小さな敵。
黒竜が瞳を見開き、見えない刃で斬りかかる。
「さようならでござる」
自信満々で刃を振り抜く、黒竜。
だが、その場に二人の姿は既に無く――
「何ッ……どこだ?!」
瞬時に、白ウサギと赤憑きはお互いを突き飛ばしていた。いや、お互いを吹き飛ばした――というのが正しいか。
白ウサギは、自分の力を噴射し、赤憑きを吹き飛ばしていた。
赤憑きは、白ウサギを右手で押して、その運動力を
「お前の後ろ」
白ウサギの声がして、黒竜が振り返る。
そこには、白ウサギは既にいない。
「避けるな、今度こそ」
もう一度した声にまたも振り返る、黒竜。
その目の前に、声の主が現れた。
さっきは黒竜の背後に、そして今は正面に迫る女。
そいつは、とんでもない速さで空中を飛び回って、黒竜を
そいつは空中で足を振り上げる。
その背中からは“炎”が噴き出す。
そいつは青い炎を翼のように広げる――白ウサギ。
「焔の魔術ッ……?! いや……」
白ウサギの背中の
それは正確に言うならば、炎ではない。
それは、魔力そのものだ。
炎に見えるのは、瞬間的に噴射される魔力の濃度が高すぎるからだ。
魔力の濃度が高すぎて、空気中で魔術反応を次々と起こしまくっている。
その結果、燃えるように、青く輝いて見えたのだ。
白ウサギは魔力をそのまま噴射して、素早く飛び回っていた。
下水道の時も、今も。
心臓、肝臓から吐き出した魔力をそのままに……
脳によって魔術を編まず、純粋なエネルギーとして力を使う。吐き出す。
自分に内在する魔力そのものを自由自在に操る。
純粋な力として身体から放って、体術スキルとして活かす。
それが白ウサギの魔法――
「
白ウサギがそう告げ、空中で右の
その動き始めを3秒前に読んだ黒竜が、見えない何かでその蹴りを掴もうとする。
頭への蹴りと推測して、掴もうとする。
「
掴んで、そして、爆発させようと。
さっきのように、やり込めてやろうと。
そうやって、黒竜は前と同じ戦術を選択した。
――愚かにも。
「そう来ると思ったよ、バカ」
白ウサギは素早く
黒竜の見えないソレに、掴まれる前に。
そのブーツの靴底を黒竜の頭ではなく、その手前の地面に叩きつける。
すると、彼女のブーツの先からは隠しナイフが飛び出して。
そのナイフを右足で下へと蹴って、床に突き刺す。その後、白ウサギは左手を前へと突き出し、その手から魔力を噴き出す。
「……
黒竜の詠唱、その後に起こる爆発。
それにタイミングを合わせて魔力波を放ち、後ろへと飛ぶ、白ウサギ。
そうやって、黒竜の爆発力すらも利用し――
白ウサギは自分の右手を引っ張った。
赤憑きの切れた銀の糸――
その先を巻き付けた右腕を。思いっ切りに。
自分の身体が後ろへと向かう
その全てを乗せて、引っ張る。
「さよなら、クソトカゲ」
続いて、そう小さく、少年の声がして。
赤憑きが猛スピードでふっ飛んできた。
白ウサギに引っ張られた、銀の糸の先……
その長筒を持って。
そして赤憑きは、床に刺さったナイフを右足の踵で蹴り上げて左手に掴む。
これで武器を再び手に入れた。
まだ黒竜の注意はこちらにない。
赤憑きは床に左足を着地させ、黒竜の喉を狙う。
今度こそ、赤憑きの勝ち――
「ッ……!」
少年がそう思ったのも束の間、床がミシミシ――と音を立てる。
巨大化した黒竜がその上を走り、しきりに
赤憑きがボロ床に着地して、ついにその床板の一つが限界を迎えかけていた。
傷ませ、
ボロ床の板の上を走る、
「うわっ……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます