勇者パーティから略奪をうけた村人Aは地道な暗殺者となってヤツを殺す ~転生チートvs6人の暗殺者

松葉たけのこ

チートを恨む男-1

第1話 くらやみの名の下に。


「おじさん。つかれてるみたい。可哀そう」



 小枝のように細い体つきの少年は、気球のように太っちょな大人をあわれんだ。

 普段から食事も満足にできていなそうな少年が、今まで食いぶちに困ったことの無さそうな、赤顔の太っちょを、なぜだか見下すように眺めていた。



「はは……27階の一番上だよ? そこまで私はこの足で登ったんだ。疲れて当然だろ」



 少年のコートはみすぼらしい布製で、太っちょのマントは希少なモンスターの革製。

 見下されるべき恰好の人間が、見下している。

 太っちょはそれに苛立ちを覚えてか、少年を真似して、見下すような視線を返す。



「お父上にも困ったものだ。僕はちょっと欲しがっただけなのに」

「欲しがった……?」

「ああ。精霊の起源オルダート・スピリッツまで見通せる、大きな塔が欲しいと言ってしまってね。それでこんな立派なモノをね。いやぁ~……」



 いい迷惑さ――と、わざとらしく太っちょは肩をすくめる。


 貧乏な人間には到底とうてい理解りかいできない話を、そうした人に直接ぶつける。

 明らかな少年への当てつけだ。



「なるほどね。この塔を作らせたのは、おじさんだったんだ」

「ああ、そうだよ……すごいだろ?」

「……うん。ねえ、おじさん。この塔を建てる時さ、何人の奴隷どれいが仕事していたか知ってる?」

「ぼっちゃん、ここで働いていた奴隷どれいなんていないよ。奴隷どれい制度せいどは過去の話だ」

「おいおい、過去の話なんかじゃないだろ。おっさん」

「何だと……?」

「7年前、確かに奴隷制は廃止された。でも、その時、おっさんは奴隷を手放させなかっただろ。こんなふざけた塔の為に」



 少年が袖をまくり上げると、その赤いあざだらけの左腕には、細長い筒状のモノがベルトで固定されている。



「奴隷は殺されたんだ。塔により高みの領域を侵されたドラゴンたちによって。塔の建設を命じた四大しだい貴族きぞくの息子によって」



 太っちょの顔色が、赤色から青色へとみるみる染まっていく。



「まさか……お前。あの時の奴隷か」

「もちろん違うよ。その“代行者”だ」

暗殺者アサシン……? それも赤の刻印……!? ままま、待ってくれ! 僕には何の責任も無いんだ!」

「へえ……?」

「ぼ、僕はただ塔をせがんだだけの子供だ。そ、そうだ……ドラゴンの事なんて知らなかった! 誓ってもいい!」



 少年は包帯を巻いた右手で、筒を持ち、太っちょの顎の下に当てる。

 ほどなくして、筒から針が素早く打ち出されて。

 太っちょは脳天を突き刺された。



「……知るか」



 少年はあかきと呼ばれ、畏怖いふされていた。

 わずか10歳の暗殺者である。

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