第18話 双子の姉ですか?

その日、俺のクラスに転入生がやってきた。

名前は渚木 波香



俺の幼馴染的存在で双子である渚木 波美の妹



朝会ってからクラスに来るまでに何があったのか、俺が会った波香と今クラスにいる波香は全くの別人で正直こっちが波美なのではないかと思うほどであった。


そしてそれを聞こうと懸命に策を練っていたのだが、根本的なことは何も解決できないまま昼休みになってしまった。




「どうしたもんかな〜」




そう1人で嘆きながら手を伸ばし体を机に伏せる。





「そんなにあの転入生と話したいのか?」


「いや、そういうわけじゃないんだけど。ちょっと聞きたいことがあってな」


「ほうほう、それはズバリ彼氏がいるかとかだろ!?」


「んなわけないだろ。そんなこと初っ端から聞けんのは京介、お前くらいだよ」


「そ、そんな褒めるなよ」


「褒めてねぇよ」





この会話をしている際も、女子の群れは一向に渚木 波香から離れようとはしない。


まるで渚木という餌に食いついた魚のように、時間が経つにつれて距離が縮まっている。




「今日は諦めるか〜」


「なんだよ、諦めるのかよ。情けないな」


「いやだってな・・・しょうがないだろ」


「諦めんなよ」


「はいはい」





実際、あの女子の包囲網を突破して近づく勇気なんて俺にはない。それによくよく考えれば、そんなに慌てて聞くことでもないんじゃないのか?

という意見が俺の脳裏にあった。





「やっぱ放課後にするか〜」


「おぉ、放課後に告白するのか!」


「ちげーよバカ!」


「うっ、夢斗にバカって言われた〜。おいら泣いちゃうぞ」


「勝手に泣いてろ」





結局昼休みも進展はなく、京介とのくだらない会話でその時間を無駄にした。




◇◆




それから数時間後、多くの生徒にとって幸せを告げる6限終了を知らせるチャイムが鳴り、クラスの生徒たちは一斉に放課後について話し始めた。





「おーい夢斗、お前この後用事ある?」


「んー、あるっちゃあるな」


「曖昧だな」


「さっきも言ったろ、この後」


「渚木さんに告るんだっけか?」


「ちげーよ」





授業がすべて終わり、これからホームルームが初まる。その間のちょっとした時間でも渚木 波香の周りの包囲が解かれることはなかった。





「全く困ったな・・・」





それから数分後の放課後


ホームルームが終わり多くの生徒が下校する中、思わぬ人物が夢斗に話しかけた。




「おっ、びっくりした。どうしたの急に?波香さん」


「ちょっと聞きたいことがあるのだけど」


「えっ、あーうん。なにかな?」


「勘違いだったらごめんなさい。あなたが何度もいやらしい目で私のことを見ていたように感じたのだけど」


「ち、違いますよ。おれはただちょっと聞きたいことがあって・・・それで待ってたというか、なんというか」


「”待っていた”とは変な言い方ね。素直に私と話がしたかったと言えばいいんじゃないかしら?」


「いや、まぁそうなんだけどさ・・・周りの女子の威圧感がすごくて」


「あらそうかしら?ただ単に貴方の根性がないだけだと思うわよ」


「あっそうですか・・・てかさっきから思ってたけどその喋り方なんだよ。めっちゃ変だぞ」


「なっ! 変とは失礼な!これはキャラ作りとかそういうんじゃなくて、素がこうなのだから仕方ないのよ!それに貴方の方こそ、用がないのにジロジロと私を見て、本当になんのつもりなの!?」


「いやだからさ、要はあったんだよちゃんと!でも・・・もういいや。 解決したから」


「なにを解決したのか教えてはくれないのね?」


「え?知りたいの?」


「いえ、別に必要ないわ」


「そう、じゃあいいや」





夢斗がそう言い放つと、波香は少しそわそわしているのか何度も視線をこちらに送ってきた。


これはあれだ、多分知りたいのだ。

俺が何を解決したのか、教えて欲しいのだ。




「なぁ教えてやろうか?」


「大丈夫よ!その必要はないと今言ったはずよ」


「そ、そうか」




あぁよく分かった。この子は俗に言うツンデレって奴だ。


いつもツンツンしてるのにたまにデレるとかいうよく分からん生物だ。





「それで、貴方この後何か用事はあるの?」


「な、何ですか急に?」


「べ、別に私が一緒にどっか行きたいとかじゃなくて、波美が貴方を誘ってどっか行こうってさっき言ってたから・・・」


「言ってたから?」


「だからその・・・用事はあるの?それともないの?」


「な、ないですけど」


「そう、それは良かった。きっと波美も喜ぶと思うわ。えぇ本当に」




何をそんなに動揺することがあるのか、言動に落ち着きが見られない。

それに何故かは分からないが少し恥ずかしそうだ。




「さ、さぁ行きましょう!」


「行くってどこに?」


「それは・・・波美のクラスに決まってるじゃない!」


「あーなるほど」


「さぁ早く!」


「はいはい」




波香にそう言われた俺は仕方なく席を立った。



話に夢中で気がつかなかったが、辺りを見渡すとクラスには俺と波香の2人きりだった。


これが付き合っているカップルなら最高のシチュエーションだろう。


しかし俺とこいつは付き合ってはいないし、幼馴染とはいえ、こいつのことは覚えていない。



あぁ、もしここにいたのが小鳥遊さんだったら・・・


そう考えただけで俺が小鳥遊さんと距離があることを感じてしまう。




「じゃあ行くか」


「そ、そうね」




そして俺と波香は教室を出ようとドアを開けた。

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