ちょっとヤバめの後輩は好きですか？

第17話 ヒロインはやはり強い

朝、登校している俺を見る生徒の視線がいつもよりも多いことに気がついた。

それもそのはずで、俺の隣に美女が2人も並んでいるのだ。いつもならあり得ない事で正直俺もかなり動揺している。

それでも一応幼馴染ということで笑顔で振舞っていた。

しかし小鳥遊さんやあいつへの罪悪感がほんの少しだけあるのを感じてしまう。

「ねぇねぇ夢くん」

「な、何？波美さん」

「もう、なんで”さん”付なのよ！昨日の電話では呼び捨てだったじゃん」

「い、いやーなんていいますか、直接あったら気まずくなったといいますか、人見知りが発揮したといいますか・・・」

「何よそれ、クスッ・・・まぁでも良かったよ本当に。また夢くんと会えて、それにまたこうやって一緒に学校に通えて私は幸せ者だよ〜」

「は、はぁ」

「ちょっと波美、あんまりこいつと喋らない方が良いわよ」

「どうしたの波香？急にそんなこと言って」

「いや、なんかそいつの学校のやつに聞いた話だと、そいつのあんまりいい噂聞かなかったから」

「へ〜、どんな噂だったの？」

「えっと、確か女たらしとか浮気者とか、変態とか、露出狂とか・・・かな」

「え？夢くんそうなの？」

「そんなわけないだろ」

そう答えながら俺は波香という人物の方に目をやった。

外見は波美そっくりで、さっき聞いた話だと波美と波香は双子らしい。

小学生の時から俺と一緒だったみたいだが、波香のことは全然覚えていない。

ただ昨日見たアルバムに載っていたのが、もしかしたらこいつなのかもしれない。

っと紹介はこれくらいにして、誰だよそんなほら吹き込んだやつ！

全くそいつはろくな奴じゃないな。きっと京介みたいな・・・ん？ まさかな

「おーい夢斗〜」

そんなことを考えていると後ろからよく聞く声の持ち主が俺の背中を軽く押した。

これが世間でいう、”噂をすれば影がさす”というやつだろう。

いや、噂はしてないからちょっと違うのか・・・？

「おはよう夢斗、綾瀬さんと小鳥遊の2人以外を連れてるなんて珍しいな」

「そんな珍しくもないだろ。いつもは1人で登校してんだし、今日だってたまたま・・・」

「たまたま何だよ？まぁそんなことはいいとして、そこの2人俺に紹介してくれよ」

「は？やだよめんどくさい。知りたいなら自分で聞けばいいだろ」

「なんだなんだツンツンしちゃって、夢斗くんは可愛いでしゅね〜」

「お前殴っていいか？」

「嘘嘘冗談です」

「あっ！！」

すると波香が突然驚いたように声をあげた。

「どうしたの波香？」

「ほらほら、さっき言ってたこいつの噂。それこの人から聞いたんだよ」

「えっ！そうなの？」

「ん？なんの話？」

「夢くんの噂の話なんだけど、あなたが夢くんの噂を流したの？」

「え、えっと・・・俺じゃないかな」

よし、間違いなくこいつだ。後で2人がいない時にしばいてやろう。

「おい夢斗、目が怖いぞ」

「はぁ何のことでしょう？」

「い、いやなんでもない」

「そうか」

波美と波香、そして俺の3人の会話中に入ってきた邪魔者によりその後の登校中は結局波美と波香、俺と京介で別れて話をしながら学校までの道を歩いていた。

キーンコーンカーンコーン

チャイムが鳴り響く午前8時40分。

席にはきちんと全員が揃い、教卓には先生が立っている。

「それじゃホームルームを始める前に１つみんなに大事なお知らせがあります。渚木 さん入っていいですよ」

「はい」

大きな返事とともにドアが開き、肩まで伸びた茶色の髪が風になびいている。

入って来たのはもちろん昔から知っている彼女で、さっきまで一緒にいた彼女。

名前は・・・

「それじゃあ渚木さん自己紹介お願いします」

「はい、この度 西峰学園に転入することになりました 渚木 波香です。これからよろしくお願いします」

「えっ！？」

「工藤くんどうかしましたか？」

思っていたのと違う名前が彼女から発せられ俺は無意識に立ち上がり声を上げていた。

「い、いえ・・・なんでもありません」

それを見たクラスメイトがクスクスと笑いだす。

前に立っている彼女、渚木 波香も朝とは全くの別人のように優しく微笑んでいた。

一体何がどうなってんだ？

それを確かめるべくホームルームが終わってすぐ俺は 渚木 波香の席へと足を運んだ。

がすでに周りには多くの女子が固まり男子は一歩も近づくことができない。

というより近づけない雰囲気が漂っていた。

それを見て諦めていつものように友達と会話を始める生徒、めげずに足を進めるものの、直前で引き返す生徒。

クラスの男子のほとんどは渚木 波香に興味を示しているようだった。

くそっ、何かいい手はないのか！

「困っているようだね夢斗くん」

「誰だお前？」

「おいおいそれは酷いじゃないか、君の親友の三好 京介様だぞ！」

「で、なにかいい案でもあるのか？」

「ふっふっふっ」

「なんだよ、あるなら早く言えよ」

「ふっふっふっ残念ながらなにも思いついていない！」

なぜかそれを自慢げに言い放った京介を俺は完全に無視して、一度廊下へ出た。

なぜ教室を出たのかというと、いわゆる視点を変えてみたというやつだ。

波香がこのクラスにいるということは波美が違うクラスに必ずいる。それを確かめた方が早いと判断したのだ。

俺結構天才じゃね！！とかこの時は思っていたのだが・・・

実際隣のクラスに波美はいた。

しかし夢斗のクラスと同じように波美はすでに女子に包囲されておりとても近づける様子ではなかった。

俺はバカだぁ・・・そりゃそうだよなこいつら双子なんだもんな

「せーんぱい！」

困った様子を体全身で表現し、廊下をうろちょろしていた俺を、聞きなれた声が呼び止めた。

「なんだ綾瀬か」

「なんだとはなんですか！先輩の大好きな綾瀬 恵ですよ！」

「はいはい、間違いなく”先輩が”大好きな だと思うけどな」

「はぁ、まぁそういうことにしておきますけど、それで先輩は廊下でなにをしてるんです？」

「ん？あぁ実はさ・・・」

俺は渚木 波美と波香の事情を説明した。

「なるほど」

「お、なんかいい案でも思いついたか？」

「いえ、全く」

「なんだよ使えないな」

「使えないとは失礼な！っていうか先輩はまた浮気ですか！？」

「は？”また”とはなんだ、俺は一度も浮気した覚えはないぞ！それに浮気って、俺はお前と付き合ってる覚えもないからな！」

「分かってますよ・・・そんなにきつく言わなくてもいいじゃないですか」

「あっ、悪い。確かにちょっときつく当たったかも」

「って事で私ちょっぴり傷ついたのでその分の癒しのちゅーをして下さい！」

「誰がするか！」

「じゃあハグでもいいですよ」

「しねぇよ」

「はぁ、ならいいです。頭・・・撫でてください」

「うっ」

ずるい。こいつは本当にずるい奴だ。

いつも強気なお前がそんな弱い顔見せたら、そりゃいくら俺でも放っておけないだろ。

本当にこいつは男の落とし方を分かってやがる。

「まぁそれぐらいならしてやるよ」

俺がそう言うと、綾瀬は嬉しそうに一歩近づき顎を少しだけ引いた。

「はぁ」

俺はため息をつきながらもその差し出させた頭に手を軽く乗せ優しく撫でてやった。

「先輩」

「なんだよ？」

「大好きです」

「なっ・・・そんな恥ずかしい事今言うなよ」

「ふふっ、いくらでも言いますよ」

頭に乗っていた俺の手をそっと下ろすと綾瀬は一歩下がってから満面の笑みで微笑んで見せた。

チクショー、ほんと可愛いなこいつ！