第14話 誤解は解いておかなくちゃ

もう少し、もう少しだ。

俺はそう思いつつ、体を少しずつ隣の女の子に寄せる。


自分の鼓動が早くなっているのが手を当てなくても分かるくらい俺は緊張していた。




「先輩、何してるんです?」


「え、いやなんでもないよ」


「怪しいです」




席を移動し、6人掛けのテーブルにちょうど6人掛けたのだが、それが思ったよりも割と狭く隣との距離が異常に近い。


でも今日はその隣と近い環境がとても幸せだった。


なぜなら隣があの小鳥遊さんだからだ。


普段近くに行くことがあまりので分からなかったが、思っていた通りとてもいい匂いがする。香水とかではなく素のままの女の子って感じの匂い。それに触りたくなるような綺麗な肌、サラサラした綺麗な髪の毛。



あぁもうたまらない



小鳥遊さん最強!最高!まじ天使!!





「先輩目がキモいですよ」


「な、何言ってるんだよ、そんなわけないだろ」


「全く、私が隣にいないからって変なことしないでくださいよ。目の前でしっかり監視してますからね」


「そ、そんなことするわけないだろ。それに監視って、お前に監視される覚えはないぞ」


「先輩の好きな人はーー」


「分かった分かった、監視してくれて結構だから!」


「はい、そうします!」





この女、俺の好きな人を知ってるからってそれを脅しに使ってくるとはいい度胸してやがる。


あとで文句の一つも言ってやろう。




「ねぇねぇ工藤くん。その・・・その男の子は誰?」


「えっ、あーその子は綾瀬の同じクラスで名前はーー」


「名前は阪本 怜斗と言います」


「そうそう阪本君って言うんだよ」




ってなんでこいつ俺には自己紹介しなかったんだよ。プライバシーがどうとか言ってなかったか?




「そうなんだ・・・それでどういった関係なの?」


「あぁえっと」


「はい、工藤先輩は僕の恵の恋のライバルです」


「はい!?なんで俺が綾瀬のこと好き前提なんだよ、それに僕のってお前まだ綾瀬と付き合ってないだろ」


「それはそれこれはこれです」


「いやいや意味わからんから」


「フフッ、阪本くんと工藤くんは仲がいいんだね」


「そ、そんなこと絶対ないよ」


「そう?仲良さそうだけどなぁ」


「絶対ないって、こんな奴と・・・」


「はい、ありえません。僕と工藤先輩はライバルですから」




こいつ”ライバル”言いたいだけだろ!



まぁそんなのはどうでもいいんだけど、久美子さんって人がさっきからおどおどしてるのがすごい気になる!


やっぱり気を使わせちゃってるのかな?だとしたら悪いことしたな・・・




「あの・・・久美子さんってどこの学校なんですか?」


「ヒィエ」




ん?なんか今すごい悲鳴が聞こえたような・・・




「久美子さんでいいんですよね?」


「は、はいすみません」




あれっ、なんか入ってくるときに見た感じと違う気がするな・・・やっぱり気を使ってくれてるのかな?



そんなことを考えていると耳に息が当たるのと同時に可愛らしい声が聞こえた。




「ごめんね工藤くん。久美子って男性恐怖症なんだよ。だからそっとしておいてあげて」




そしてその顔を耳元から遠ざけると、小鳥遊さんはこちらに向かって微笑んだ。


あー本当可愛いなー


もうまじで・・・女神!!!



っていうのはひとまず置いておいて、だから久美子さんの席が一番男子から離れた角っこだったのかとそれだけは理解できた。


そうだよなこの席順だったら目の前に小鳥遊さんで隣が綾瀬だもんな。

けどまぁそういうことなら・・・



「ご、ごめんね久美子さん」


「えっ あっ いや・・・」




とりあえずは小鳥遊さんのいう通りそっとしておこう。


無理に話をする必要もないし、それに今話したい相手は別にいる。


そう、もっと小鳥遊さんと話さなくては!!




「先輩!私と付き合って下さい!」


「え?どうした急に?」


「いえ、なんとなく告白が足りていない気がしたので」


「いや十分だから、それにお前から告白されても嬉しくないし」


「何ですか、もしかしてツンデレですか?そうなんですか?」


「いや素で言ってるんだけど」


「なっ・・・」




言葉に詰まった綾瀬は小鳥遊さんの顔を一度見て、それから俺の顔を見てきた。




「なんだよ」


「いえ、何でもないですよ」


「あっそ」


「ちょっとやきもちを焼いただけです」


「はいはい」


「なんですか、そのめんどくさそうな態度は」


「実際結構めんどくさい」


「なっ、酷いですよ!」


「あーワルイワルイ」


「ムカー」




おー、声に出して”ムカー”っていう奴は初めて見たぞ。

それに相変わらずの食いつきだ。


だが、今俺が話をしたいのはお前じゃなくて小鳥遊さんなんだよ。気づけバカやろ!




「ねぇねぇ工藤くん」


「は、はいなんでしょう?」


「やっぱり2人は付き合ってるの?」


「いやいやまさか。付き合ってるわけないじゃない」


「先輩!!」


「付き合ってないぞ!」




いくら脅されてもそれは否定するからな。

それにこいつがそんな度胸のない奴だって事は知っているしな。


それに対し少しムッとした態度をとったが、案の定綾瀬がそれをばらすことはなかった。




「まぁいいです。そういうことにしてあげます」


「はいはい、ありがとよ」




結局のところこいつも綾瀬の言う”なんだかんだで優しい人間”なのだ。


それを知っているからこそ、こいつとはやはり一緒には居たくない。


ずっと一緒に居たりしたらもしかしたら・・・



だから俺は無理に意識してでも小鳥遊さんが好きだと言い張る。

これまでもこれからもーー



そうやってこの1ヶ月をそう言い聞かせながら過ごしてきたのだから。


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