第13話 どこにいてもこいつはうるさい

辺りを見渡すと、昼時ということもあってか次々と席が埋まっていった。


現在6人がけテーブルに4人で座っている俺たちは混雑してきた店側としては早く出て行って欲しいと思われているに違いない。


もちろん俺だって早く出て行きたい。しかしこの異色なメンバーではそれが叶うことはなかった。




「先輩、あーんして下さい」


「やだよ、めんどくさい」


「えー、してくださいよ」


「やだ、絶対しないからな」


「酷いですよー」


「何が酷いんだよ。全く・・・」





サイセにきてからおよそ1時間。


こんな会話をさっきから続けているのだが、前の席から送られるオーラがとても怖い。それに綾瀬の声が大きいせいで周りの客もちょくちょくこっちを見て笑っている。


全くもって恥ずかしい。




「なぁ綾瀬」


「はい綾瀬です」


「うん知ってる」


「で何ですか?もしかして付き合ってくれるんですか?そうなんですか?そうなんですね。ありがとうございます!」


「おい、何勝手に付き合おうとしてんだよ。俺はお前と付き合う気はまだないからな」


「”まだ”ってことはやっぱり私は脈ありなんですね!?」


「さぁな、でも今のままだったら難しいかもな」


「え!?そうなんですか?ちなみにどこら辺がダメなんですか?」


「まぁ全体的にな・・・」





見ていて分かるように今日の綾瀬はいつもよりも積極的だ。


いつも凄いが、今日はもっと凄い。

こうゆう綾瀬の頑張り屋なとかは凄いと思うが、その対象となる俺的にはもう少し清楚でいて欲しい。


そう、俺は清楚で可愛くて・・・小鳥遊さんみたいな人が好きなのだから!否、小鳥遊さんが好きなのだから!





「先輩、聞いてます?」


「あぁ聞いてる聞いてる」


「もう、先輩ってばさっきからあの女の方ばっかり見てるんですから!私の彼氏としてどうかと思いますよ!」


「おいおい、だから俺はお前の彼氏じゃないからな」


「もうじきなるんですから、もう彼氏みたいなもんですよ」


「どう解釈したらそうなるんだよ」


「私流にですよ」


「はいはい分かったよ」





もう分かっている事だが綾瀬の考え方は人の常識を完全に超えている。


今の会話でも綾瀬の解釈は俺の想像を超えるものだった。いや、最近これに慣れすぎて、もはや俺の想像も当たっていたかもしれない。



なんてそんなことを考えて誤魔化しているがいま俺が一番気になるのは目の前にいるこの男だ。


性格も年齢も部活も、名前すら知らないこの男。



綾瀬のクラスメイトと言っていたが、果たしてそれも本当なのか。


それになんでこの男はこんな綾瀬に惚れたのか。色々疑問があるのだが、とりあえずは聞いてみよう。そう思って口を開いた。




「あのさ」


「なんでしょう工藤先輩」


「え、いやその・・・」


「何ですかね、工藤先輩・・・・」


「え、いや・・・」




なにこの子、怖いいんだけど。


俺より年下のはずなのに身長高いし、割とイケメンなのに凄いオーラ放ってるし。てか圧が凄い。まじで怖い。




「何もないなら話しかけないで下さいよ。・・・あっ、じゃあこちらから1つ聞きたいんですけど」


「な、なんでしょう?」


「工藤先輩って恵のこと好きなんですか?」


「え、いや好きではないけど」


「ではもう1つ。なのになぜ恵につきまとってるんですか?」


「いや、それは綾瀬が勝手に・・・」


「じゃあ逆に工藤先輩は綾瀬のことが嫌いなんですか?」


「いや嫌いってわけでも・・・」


「じゃあ工藤先輩は恵を弄んでるんですか」


「別に弄んでは・・・」


「結局はのところ・・・僕はあなたが羨ましいです!」


「えっ!?何言ってんの君」


「い、いえなんでもありません」




まさかまさかとは思っていたがやはりこの子もちょっと頭のおかしな人でした。まぁでなきゃ綾瀬なんかを好きになるわけないよな。




「あのさ君」


「はい、なんでしょう工藤先輩。ていうかその”君”っていう呼び方やめてもらえますか?なんか他人行儀っぽいので」


「は、はぁ」




いやいや他人行儀も何もついさっき知り合ったばっかだよね俺たち。それに俺、君の名前知らんから”君”って呼んでるんだけど!




「えっと、じゃあ名前教えてもらっていいかな?」


「いやそれはちょっと・・・個人情報なので」




何こいつ、まじ謎!!


まぁいいか。とりあえず俺は隣にいる綾瀬に顔を近づけ、それから耳元で尋ねた。





「なぁこいつの名前なんなんだ?」


「ヒャャヤ」


「おいおい、なんつう声だしてんだよ」


「そ、それは先輩がいきなり耳元で囁くからじゃないですか。しかも”俺と付き合ってくれ”なんて突然言うから」


「おい、へんな嘘つくなよ。誤解されるじゃねぇか。てか既に凄い剣幕でこっち見てるから。早く誤解を解け!」


「いやーでもワタシウソツイテナイデスシ」


「おまえな!」




あれっ?そういえば俺のツッコミ今日は少ないな。


なんて突然にそんなことを思ってしまった。

それもそのはずさっきまで男の隣にいたはずの京介の姿がなぜかない。




「おい、京介はどうした?」


「あれ、先輩気づきませんでした?京介さんならさっき席を立ってあっちに行きましたよ」


「え、どこだよ?」




そう言いながら綾瀬が指差す方を見ると、そっちはさっきまで俺がチラチラと見ていた小鳥遊さんがいる席だった。


てかなんかいる。ちゃっかり女子の中に1人男が混じってる!!


そして俺はすぐに立ち上がりその席へと足を動かした。




「あっ、工藤くん。どうしたの?もしかして工藤くんも私たちと食べるの?」


「あっ、いやそういうわけじゃなくてそいつを連れ戻そうとね」


「俺か?」


「お前だよ」


「俺かー」


「なんだお前、相変わらずだるいな」


「それが俺だからな」


「まぁいいや。それじゃあ小鳥遊さん、こいつは連れて行くね」


「え、うんまぁいいけど・・・もしよかったらさ工藤くんも一緒に食べない?」


「え?」




え、ちょっと待って。これってお誘いってやつ?まじか、まじなのか!!超嬉しいし、超可愛いし、なんか最高!




「なら私達もご一緒しますね?」


「は?」


「あぁ、綾瀬ちゃん。久しぶり。私はいいけど久美子は?」


「え、まぁ構わないけど」





本当に申し訳ない。俺が断っていればきっとこんな状況にはならなかったろうに・・・ごめん久美子って人。


そして結局、京介が店員を呼びつけ2人を先ほどまで俺たちが座っていた6人掛けテーブルに移動させた。


ってなんでそうなる!!



俺はただ小鳥遊さんと一緒に食べたかっただけなのに!!

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