第12話 後輩を好きな奴もいる

中間テストも終わり、5月ももうすぐ終わるこの時期。青春を謳歌している者は今頃呑気にイチャイチャしているところだ。


しかし俺こと工藤 夢斗にはそんな余裕はこれっぽっちもなかった。

その理由はいうまでもないだろう。



調子に乗って切り出した自分が悪いのだが・・・この状況をなんとかする方法が全く思いつかない。

相変わらずニヤついている京介に、すげー威圧でこっちを見てくる男の子。

いや睨まれてもね・・・俺が悪いわけじゃないと思うんだが




「いらっしゃいませ。お客様何名様でしょうか?」


「あ、あぁえっと・・・」




確認しようと振り返る。がすぐさまそれを後悔した。

いやいやなんでサイセに来ただけで3人とも全く違う顔してんだよ。

超嬉しそうな綾瀬、すごく不気味にニヤつく京介、そしてさっきよりも険しい顔でこちらを見てくる男の子。




「え、えっと4人です」


「・・・よ、4名様ですね。こちらへどうぞ」




おいおい、店員の子めっちゃひいてるじゃんか・・・ごめんなさい。俺のせいではないけど本当にごめんなさい。俺はそう心の中で誤った。




「ご、ごゆっくりどうぞ」


「ど、どうも・・・」




案内された席は6人がけのソファーテーブル。

とりあえず俺と京介、綾瀬と男の子で分けるのがセオリーなのだが・・・




「おい綾瀬」


「はい綾瀬です!」


「あぁ知ってる。でお前なんでこっちに座ってきた?」


「え?ダメですか?」


「いや、どう考えてもお前はあっちに座るべきだろ」


「いやだって隣の方が色々できるじゃないですか」


「いや、色々しないし飯食うだけだから」


「えーそうなんですか?・・・まぁ私の目的はさっきの話の続きですけど」


「あぁその話だけどな・・・」


「ご注文はお決まりでしょうか?」


「え!?」




そう言われ慌ててメニューを見る夢斗。


ちょっと待て、流石に早すぎじゃねぇか?てか誰かインターホン押したのか?いつのまに・・・。

と思いつつ顔を上げた夢斗の目の前に、口笛でも吹こうとしているのか、口を尖らせ目をそらす京介の姿があった。

こいつか!




「えっとじゃあ、このマルケリータピザとマラノ風ドリア一つで」


「じゃあ俺も同じのを」




なんだこいつ、自分では何も考えてなかったのかよ。




「じゃあ私も!」


「では僕もそれを」




おいおいみんな同じゃねぇか。

ったく食べたいものくらい自分で考えろっつうの。




「で先輩!さっきの続きですけど」


「あぁあれな、あれは嘘だぞ。そこにいる京介のホラ話だ」


「え!?そうなんですか?」


「おい夢斗、嘘つくなよ」


「嘘はついてねぇぞ、俺はこいつと付き合う気ないしな」


「うわっ夢斗、見損なったぞ」


「はいはい」


「せ、先輩・・・」


「な、なんだよそんな悲しい顔して」


「だって先輩が・・・」


「はいはい、そんな顔しても騙されないからな」


「チィ・・・くちしょー」





うわっ、こいつ舌打ちしたの無理やり誤魔化しやがった。しかも舌打ちしてんのに顔をめっちゃ笑顔だよ。怖っ!綾瀬怖っ!!




「大体な、何回そんな感じで迫られたと思ってる。告白してきて俺が振る度にそんな顔して・・・もう騙されるわけないだろ」


「まぁ、たしかに・・・先輩ならいけると思ったんですけどね」


「ふっふっふっ残念だったな」


「うわーその笑い方きもいです」


「なっ!お前」


「はいはい、夫婦喧嘩はそこまでにしてくれ。そっちの男の子なんか言いたそうだから」


「てめー京介、夫婦喧嘩ってな!」


「あの・・・」


「先輩、私達夫婦だそうですよ。夫婦!!」


「あの・・・」


「2回言わんでいい!」


「あの!すみませんけど少しいいですか!!」


「は、はい」




男の子はその辺一帯に聞こえるほどの大きな声で夫婦喧嘩に割り込んだ。


いや夫婦喧嘩じゃないから・・・って作者に突っ込み入れちまったよ。


まぁそんなことはいいとして、マジびっくりしたわ。

全然喋んねぇからそういうタイプなのかと思ってたけど、普通に声でるやんけ。

それにめっちゃ圧感じるし、京介とかびびって正座してるしてるし、マジでヤベェやつだわ。




「あ、あの・・・大声を出してすみません」


「あっ、いや別に」


「・・・」


「そ、それで何か言いたいことがあったみたいだけど・・・」


「あぁえっと その、先輩と恵ってどういった関係なのかなと思いまして」




いやいや俺的には綾瀬のことを名前で呼んでるお前のことの方が気になるわ!




「あ、あぁえっとね、綾瀬はなんか知らんけど俺につきまとってくるんだよ。で俺はそれを全力で引き離そうとしてる・・・的な関係かな」


「はぁなるほど、ってことは先輩は垂らしなんですね」


「いやいやどういう解釈でそうなったんだよ」


「先輩垂らしなんですか?」


「そんなわけないだろ、俺はいつだって一筋で生きてんだから」


「ちぇ、また彼女の話題ですか」


「彼女とは?」


「え、えっとそれは・・・」





いやこの子もなかなかすごいやつだな。遠慮なくずばずば聞いてくるよ。綾瀬もそうだが、近頃の子はプライバシーとかないのか?




「先輩の好きな人らしいですよ」


「おい綾瀬てめぇ」


「いいじゃないですか、言っても減るもんじゃないですし」


「減るんだよ、俺の心がすり減ってるんだよ」


「ヘーソウナンデスカ」


「いやいや、なんで棒読みなんだよ」


「えっとそれで好きな人というのは一体・・・」


「あ、あぁえっと・・・言ったまんまというかなんというか」


「いえいえ、そうではなくてその相手は誰なのかなぁと思いまして」


「はい!?」





うわっまじかよ。本当にプライバシーのかけらもないよ。

てかなんで今日初めてあったやつに俺の好きな人を教えなきゃいけないんだよ!そしてちゃっかり教えた綾瀬、お前はなんなんだよ!




「いや、それは流石に教えられないかな・・・」


「えーと名前は小鳥遊 翔子、2年Aクラス 出席番号23番、スリーサイズは」


「おい待て!!」


「え、スリーサイズ知りたくないのか?」


「いや、確かに興味はあるが・・・ってそうじゃねぇよ!なんでお前がスリーサイズ知ってんだよ!ってそれも違ーわ。えっと、なんでバラしたんだよ!普通言わんだろ」


「普通はな・・・なぁ夢斗、俺が普通に見えるか?」


「悪い、俺が間違ってた」


「だよな!」




あぁ本当に間違ったよ。最初に友達になったのがお前で。こんな奴だって知らなければ絶対友達になってねぇんだけどな。




「えっとそれで小鳥遊さんっていうのはどんな人なんですか?」




えっ、まだ聞くの?なんか一方的に質問されてるけど、俺はそろそろ君の名前が知りたいんだが・・・your name 的な




「あれっ?工藤くん?」


「はい、工藤です」




とっさに名前を呼ばれて、いつも綾瀬がやってるみたいな返事になってしまった。

って今の声もしかして・・・いやもしかしなくても


そして夢斗はゆっくりと声の聞こえた方を振り向いた。

まじか、やっぱりそうか!そこに立っていたのは紛れもなく小鳥遊 翔子だった。




「え、えっと小鳥遊さん・・・お久しぶり?」


「ふっふっ、なんで疑問形なの?それにお久しぶりって学校で会ったばっかじゃん」


「あ、うん そうだよね・・・」




おいおい、なんでこのタイミングで現れるんだよ。俺一人の時ならいつ現れてくれてもいいのに、まじタイミング悪すぎだわ。ほんと萎える・・・




「おーい翔子!ってあれ?知り合い?」


「うん、クラスの子がいて」


「へー翔子の知り合いかぁ・・・それに男か」


「なによ」


「いやー別に」


「もう、久美子ってば」


「ごめんごめん、ちょっとからかいたくなっただけ」


「もうほんとにやめてよー・・・あ、それじゃあね、私席あっちだから」


「う、うん」




そう言いつつ笑顔で手を振ってくれる小鳥遊さんを夢斗は笑顔で返し、綾瀬は睨みつけ、男の子は不思議そうに眺めていた。ついでに京介はいつも通り笑いを押さえていた。


って、さっきの俺の話聞かれてないよな!?

もし聞かれてたら俺もう生きていけないんだが・・・



というわけでまだまだサイセでは色々と起きそうなわけだが、もうほんとこれ以上は勘弁してくれ!と無理とわかっていても心の底からそう願う夢斗であった。

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