第8話 回数が大事みたい

月曜日になった。週の一番初めということでモチベーションは上がらない。

それに休みのための休日があんな風に潰れてしまうのだから、夢斗にとっては実質休みなんてないのと同じだ。



あぁ学校だりぃ・・・めんどくさすぎる。



登校中ずっとそれだけを思っていたわけだが、なんだかんだで来るのだから”俺偉いな”とか何気に思っていた。


まぁ実際のところは瑠夏に無理矢理追い出されたのち家の鍵を閉められ、入れなくなったので嫌々来た。というのが事実だ。


でもなんだかんだで学校に来たのだからやはり俺は偉いな。というか真面目だな。



教室の窓から眩しいくらいの太陽の光が直接夢斗の目に入る。



何で来てしまったんだか・・・




「おーい夢斗」




そんなことを考えていると誰かが夢斗の名前を呼んだ。いや、誰かではなくこの声は京介だ。


夢斗はあえてそれを無視する。




「おい夢斗、なんで無視んだよ」


「ん?あぁわるいわるい、聞こえなかったわ」


「絶対嘘だろ。まぁいいや、それで綾瀬さんとは進展あったの?」


「なんだよいきなり」


「いーや、なんか夢斗すげー疲れてるから女絡みかなぁと」


「どういう理屈だよ」


「じゃあ小鳥遊さんとなんかあった?」


「いいや残念ながらな」


「そうか」




モチベーションの下がった夢斗の精神は、今の会話で更に一段階下がった。


そうだよな・・・小鳥遊さんとなんの進展もないんだよな


それが少し残念で大きくため息をつく。




「おいおい、ため息とかやめてくれよ。こっちまで元気なくなっちまう」


「お前から少しくらい元気がなくなっても問題ねぇよ」


「まぁ確かにな・・・それで綾瀬さんとはどうなのよ?」


「お前しつこいな」


「おう!俺は恋愛話、失恋話は大好きだからな」


「後者の方は最低だな」


「そうか?」


「あぁ最低だよ」


「最低・・・か。それでどうなのよ?」


「まだ聞くか」


「おう!」


「そうだな・・・」




正直、”綾瀬とは何もない”とは言えない。


この土日で告白の回数が四回も増えたのだから、かなり進展している。いろんな意味で・・・

それに結局あの日、”二時間で帰る”とか言ってたにも関わらず、夕食まで食べていった。


両親がたまたま仕事で居なかったことをいいことに瑠夏が引き止めたのだ。全くあいつにも困ったものだ。


そして帰り際にはちゃっかり告白をしてきた。

まぁすげー軽かったけど・・・なんか二回がノルマみたいになってねぇーか?ってくらいに。




「おーい夢斗、しっかりしろー」


「あぁ悪い、えっと なんだっけ?」


「だから綾瀬さんの事だよ」


「あーはいはい」


「どうなんだよ?」


「別に、特に何もないよ」


「そうなのか?つまんねーな」


「悪かったな、つまんなくて」




とりあえずこいつには情報を与えないようにしよう。

何か握られたら色々とめんどくさそうだし。




◇◆




「先輩、好きです!」


「はいはい、それじゃまたな」


「返事は?」


「聞かなくても分かるだろ?」


「それじゃ、付き合えるんですね!」


「そんなわけないだろ」


「そんな・・・」




残念がっているこの光景も何度も見たな。てか見飽きたな。

そういや、今日はもう既に二回告白してきたが珍しく早いな。まだ昼休みだぞ・・・


そう、今は昼休み真っ最中。


いつもなら朝と放課後の二回の告白なのだが、今日は朝と昼休みで既に二回告白をしている。


ん?待てよ。ってことはまさかな・・・



その日の放課後。




「まだ付き合う気にはなりませんか?」


「悪いがならんな」


「そう・・・ですか」



夢斗の予想は的中した。

まさか本当に来るとは・・・だって今日だけで三回だぞ!二回でも十分すぎるほどやばいのに三回って何事!?




「あの綾瀬さん?」


「はい綾瀬です」


「うん、でさ今日の告白三回目だよね?」


「はいその通りですが何か?」


「いや、合ってるなら別にいいんだけど・・・」


「はぁそうですか」




あれっ思ったより反応薄い?まぁいいけど今日だけで三回か。

これからもっと増えたりしてな・・・ってやめておこう。そんなこと想像したら本当にそうなりそうだ。




「あの先輩!」


「どうした急に」


「その・・・元気出して下さい!」


「えっ?何?」


「いえ、なんとなく元気が無いように見えたので」


「そ、そうか?」


「はい」




こいつも意外と俺のことしっかり見てるっていうか、心配してくれてるというか・・・まぁ元気が無いのはお前のせいなんだけどな。


心配してくれたことに免じて、それは言わないでおこう。



「その、ありがとう」


「はい?」


「心配してくれて・・・」


「せ、先輩 可愛い〜」


「う、うるせー!」




ニヤつきを隠すために手で口を覆い隠す綾瀬を夢斗は睨みつけた。が夢斗も恥ずかしさのせいか、いつものような圧は全くなかった。




「先輩、可愛いですね・・・クスッ」


「うるさい、笑うな」


「写真に収めておきたいくらいです」


「それをしたら縁を切るからな」


「冗談ですよ」




“縁を切る”なんてな、切るほど深くは関わってないだろうに。俺は何を言ってるんだか・・・




「それじゃ私はそろそろ行きますね」


「おう、今日は早いんだな」


「えぇ、そろそろテストもあるので」


「あーなるほど」




やばい、完全に忘れてた。


こいつのことが色々ありすぎてテストのことすっかり頭から抜けてたわ。

テストは5月の終わり、新学年最初の中間テストだ。



「やばいな・・・」


「何か言いました?」


「いや、なんでもないよ」


「そうですか・・・ではさようなら」


「おう」




そして歩き出した綾瀬は何度も振り向いて手を振ってくる。


夢斗はそれに答えるように手を振っていたが三回目くらいから振るのをやめた。


俺、いつの間に綾瀬に手を振るようになったんだ?少し前までは絶対そんなことしなかったのに・・・



俺も優しくなったんだな、きっと・・・多分。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る