第7話 長居とはなんなのか?

全く疲れた話だが綾瀬 恵が家に来てから三時間程過ぎ、それでも一向に帰る様子を見せない。


早く帰ってくれないかなぁ なんて絶対に叶わない夢を抱き、綾瀬と瑠夏の2人のやり取りを眺めていた。




「お兄ちゃん、さっきから何ぼーっとしてんの?」


「あぁ、いつまで居るのかなぁ〜って思って」


「恵姉のこと?」


「そうだよ」





会話中なのに俺とは全く目を合わせず、瑠夏は綾瀬の髪や顔をいじって可愛がっていた。

全くどっちが年下なのか分からんな・・・




「それで、いつまで居るつもりなの?」


「あ、長居してもあれなんであと二時間くらいしたら帰ります」


「はいはい・・・ってあと二時間!?」


「はい」


「それ結構長居じゃね?」


「そうなんですか?」


「そうだと思うぞ」


「そうなんですか・・・なら長居をさせてもらいます」


「結局長居するのかよ」


「はい!」




綾瀬の元気な声と力強い返事が部屋に響く。

もしかしたら今日一番の返事だったかもしれない。なんてのはどうでもいい。俺は早く部屋に戻りたいんだが・・・




「なぁ俺もう部屋戻っていいか?」


「いいよ!お兄ちゃんバイバイ!」




すげー嬉しそう。それに”バイバイ”ってちょっとなんかムカつく。


そんなことを思いながらも綾瀬 曰くところの”優しい”俺は何も言わずに、ため息だけついて席を立った。




「じゃあ恵姉は私の部屋いこ!」


「え、いやえっと・・・」




おっ!珍しく綾瀬が押されてる。これは見ていて気分がいいな。瑠夏もっとやれ!

と心の中で全力で応援する俺だったが、すぐに

俺は何をしてるんだと思い我に返り、その場を離れようと歩き出した。




「あっ、ちょっと先輩待って下さい」


「なんだよ?」


「その・・・好きです!」


「はいはい、じゃあな」


「返事は?」


「いつも通りだよ」


「そ、そうですか・・・」




少し残念そうだがいつもの事なので気にしない。

俺は二人のやりとりに耳を傾けながら自分の部屋に戻った。


あぁやっと落ち着いてゆっくりできる。

そうだ、そういえばゲームをやろうと思ってたんだっけな・・・



◇◆



ゲームを開始して暫くすると、隣の部屋から声が聞こえた。


綾瀬と瑠夏の声だ。


隣は瑠夏の部屋なので声が聞こえてきてもおかしくはないのだが・・・流石に声がでかい。




「あぁん、ちょっと瑠夏ちゃんやめて下さい〜」


「ここだな恵姉の弱点」


「だ、ダメ〜!」




う、うるせー!これじゃ落ち着いてゲームもできやしない。

一体何してんだよあいつら。


女同士で・・・



ちょっと気になるので壁に耳を当てて聞くことにした。盗み聞きをしているという罪悪感はあったが、まぁ別にいいだろう!




「あ、そうそう恵姉に聞こうと思ってた事があるんだった」


「聞きたいことですか?」


「うん、恵姉ってお兄ちゃんのこと好きなんだよね?」


「え、えぇ先輩の事は大好きですよ」


「なんでそんなに恥ずかしそうなのよ」


「いや、なんていうか今更ですがいつも恥ずかしい事をしてるなぁと思い・・・」




本当に今更だな。


いつも”好きです”だの”彼氏になって下さい”だの色々言ってるくせに何が”恥ずかしい”だ。




「なるほどね、でさ恵姉」


「なんですか?」


「恵姉はどうしてあんな奴好きになったの?」




“あんな奴”とは失礼な!俺は一応お前の兄だぞ!お兄ちゃんだぞ!

と突っ込みどころ満載だがその質問は俺も少し興味がある。




「どうしてかと言いますと・・・」


「教えてよー」


「いやでも・・・」




いいぞ瑠夏、もっと押せ!

そして綾瀬は早く答えろ!




「誰にも言わないで下さいよ。特に先輩には秘密ですからね」


「分かってるって!」


「そ、その・・・や、やっぱり恥ずかしいです」




おい!早く言えよ!そろそろ俺のこの体勢も限界なんだが・・・




「お願い!教えてよ恵姉」


「じ、実はですね・・・先輩は私のヒーローなんです」


「え?ヒーロー?」




え!?俺が?なんのことだ?いっちょん分からん!




「そうなんです。先輩は私のヒーローなんです」


「えっと、それってどういう・・・」


「そのですね・・・私、入学式の時先輩に助けられたんです」


「お兄ちゃんに?」


「はい、私その日はすごい緊張してて、知り合いもいなくてかなり不安もあったんです。それで私、校門の前で一人おどおどしちゃって・・・そしたら一人の男子生徒が話しかけてくれて」


「それがお兄ちゃんだったと?」


「はい!そうなんです!」


「人違いじゃない?」


「いえ、先輩です!間違いありません」




そんなことあったか?やばいな俺全く覚えてない。確かに入学式の日はなんか委員会の仕事とかで学校に行った気はするが・・・覚えとらん




「それで一目惚れでもしたの?」


「はい!」


「どうしてあんな奴に一目惚れなんか・・・」




さっきからひどい言い様だな。お兄ちゃんをもう少しは敬ってほしいものだ。


でもまさかそんなエピソードがあったとは・・・自分でも驚きだ。




「恵姉それ本当の話なの?」


「疑ってます?」


「うん、だってお兄ちゃんがそんなことをするとは思えないし・・・それにアレに一目惚れなんてね」




そろそろ文句の一つでも言い返してやろうか!”あいつ”はまだ許せるが、”アレ”とはなんだ失礼な!俺は物じゃねぇえぞ!





「なんてエピソードがあったらいいなと思いまして!」


「え?恵姉、今の全部嘘?」


「はい、全部嘘です!」


「なんだ、やっぱ嘘か」


「はい」


「まぁそうだよね・・・お兄ちゃんがそんなことするわけないもんね」





なんだよ、嘘かよ。


聞いて損した。まぁ俺もそんなエピソードは覚えてないからな・・・





「でも、先輩だったらきっと声をかけてくれますよ」


「え、お兄ちゃんが?ないない」


「そんな事はないですよ。先輩は優しいですから」


「はぁ、恵姉はどうしてそんなにアレがいいのか・・・」




ちょっと色々ムカつくところもあったが、でもなんだかんだ綾瀬も・・・あれだな




「そうですよね先輩?」


「うぉ!!」




壁越しに俺のことを呼んだ綾瀬に驚いて大きな声が出てしまった。


なんだあいつ、俺が盗み聞きしてるの分かってたのかよ。


まるでエスパーだな・・・




「お兄ちゃん盗み聞きとかまじきもい」


「うるせー」




瑠夏に大きな声でそう返した後、ポリュームを下げたのか隣の部屋からは声が聞こえなくなった。


その代わりに時々クスクスと二人の笑い声が聞こえてきた。



何がそんなに面白いんだか・・・いっちょん分からん




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