やつはどこにでも現れる

第6話 妹は可愛くない

一週間ぶりの休日がやって来た。


俺、工藤 夢斗が通っている学校は土日は完全に休み(部活は別)でその日は基本家でダラダラと過ごしている。


学生なんだから勉強しなくては!なんてのは優等生が言うことで、俺は勉強に対してそんなにプライオリティが高くない。


それに特に習い事をしているわけでもないし、運動が好きなわけでもない。


よって休日は外に出るどころか布団から出ようとも思わない。

とまぁこんな感じでダラダラとしていた訳だが、三週間前くらいからはそうもいかなくなった。



その原因は言うまでもなく奴だ。



ずっと言ってきたが俺は彼女から毎日告白をされている。


初めての告白から約三週間経った訳だが、既に回数は28回。”1日2回告白します!”宣言をしてから彼女はしっかりと1日2回告白をしている。


つまりはここ一週間で14回も告白されているのだ。と、まぁ前置きはこれくらいにして・・・


ここでみんなに考えて欲しいのは”毎日とは土日も入るのか?”


学校では当然のように毎日して来るわけだが、それ以外の日はどうなのか?疑問に思っている人も多いだろう。


先に答えを言っておく。


その答えはYESだ!



彼女は学校の日はもちろん土日、祝日も告白をして来る。


・・・でもどうやって?



それは簡単だ。


多分もうそろそろその疑問の答えが明らかになる。


もうそろそろ・・・



◇◆



ピンポーン


まだ夢の中にいる夢斗を引きずり出すかの様にチャイムが鳴り響く。


「誰だよ、こんな朝早くから・・・」


そう寝言の様に呟きもう一度目を閉じる。



ピンポーンピンポーンピンポーン!


「あぁもううるさいな!誰も居ないのか?」


仕方なく体を起こし、まだ覚めていない目を擦る。



ピンポーンピンポーン


「あぁ分かったから、もう鳴らすなよ!」



リビングに降りたが人の気配はない。今日は俺しかこの家には居ないようだ。


夢斗は一つため息をついてからインターホンを確認した。

うちのインターホンは外の人の姿が見えるカメラ付きだ。

そのカメラで今、外を確認したのだが・・・出なくてもいいかな?


俺がそう思ったのは今チャイムを鳴らしているのが綾瀬 恵だからである。

いいよな出なくて・・・居留守でいいよな


心にそう言い聞かせ、おれはそれを使うことにした。



ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン!


しかし綾瀬 恵はそれが分かっているかのようにチャイムを鳴らし続ける。


本当に面倒な奴だ。



そのうち諦めて帰るだろう。そう思ってインターホンを離れ自分の部屋に戻った。

リビングより部屋の方がチャイムの音が小さく聞こえる。当たり前だがチャイムの音はうるさいし、とてもずっとは聞いていられなかった。


そして予想通り、しばらくしてチャイムは収まった。




「はぁ、やっと帰ったか・・・」




それからもう一度眠りにつこうと横になる。

だんだんうとうとしてきて意識が遠く・・・



バタン!



「先輩!何時だと思ってるんですか!?」




ドアが開く音がしたと同時に聞きなれた声が鳴り響く。

そしてその声に反応してゆっくりと上体を起こした夢斗の目の前には綾瀬 恵の姿があった。




「おい、なんで部屋に入ってる?てかなんで家の中にいる?」


「先程家に入れてもらいました」


「誰に?」


「妹さんにですよ」


「あいつか・・・あのやろう」




言う機会がなかったので言っていなかったが、俺には妹がいる。

年は2つ下で名前は瑠夏



話を聞くにこいつを家にあげた犯人だ。


ここ最近毎週のように家に来る綾瀬を何故か気に入って”恵姉”なんて呼んでいる。


本当はその立ち位置は綾瀬ではなく小鳥遊さんのはずなのに・・・”翔子姉”か、聞いてみたい。

と、まぁ一番仲良くなって欲しくなかった奴が仲良くなってしまった。



全くもって最悪な状態である。




「んで、今日は何の用?」




もちろん何をしに来たかは理解している。でも一応確認しておく・・・一応ね




「告白に決まってるじゃないですか」


「ですよね」


「先輩、とりあえず身支度を済ませて来てください!」


「する必要あるか?」


「当然です」


「告白するだけだよな?」


「いいからして来て下さい!」


「はいはい、分かったよ」




夢斗は渋々布団から出て一階に降りた。

学校の時と同じように、顔を洗い、歯を磨き、今日は私服に着替えて・・・ん!??

身支度の最中、夢斗はあることに気づく。


そういやあいつは降りてこないけど俺の部屋で何してんだ?

嫌な予感しかしない。


念のためリビングに一度顔を出し降りて来ていないことを確認する。




「あ、お兄ちゃんおはよう」


「お、おう おはよう」




どうやらリビングには妹しかいないらしい。

やはりあいつは俺の部屋にいるようだ。

それを確信した夢斗は慌てて自分の部屋に戻る。




「おい、お前何して・・・んだよ、まじで」




残念ながら手遅れだった。

夢斗がそう言ってドアを開けた時には既に綾瀬 恵は先ほどまで夢斗が入っていた布団に潜り込んでいた。



「おい、そこの変態」


「せ、先輩・・・一緒に寝ます?」


「誰がお前と寝るか!さっさと出てけ!」


「酷いですよー、もう少しだけ」


「お前な、早くそこから出ろ!急いでその布団洗濯しなきゃいけなくなったんだから」


「私のせいみたいな言い方ですね?」


「あぁお前のせいだよ」


「そうなんですか?全く仕方ないですね」




そう言いながら布団を出る綾瀬 恵を”早く出てくれないか”と心の中で思いつつ眺めていた。




「先輩、そんなに見ないで下さい」


「大丈夫だよ」


「はい?」


「別にお前を見てもなんとも思わんから」


「ぶー、先輩酷いです」


「酷くていいからさっさと出ろ」




そう言われた綾瀬は少し残念そうに布団を出た。

と思ったらすぐに部屋を出て一階に降りていった。




「なんなんだあいつは・・・」





そして布団を洗濯機に入れた後、妹と綾瀬の声がするリビングに向かった。




「あ、やっと来た」



夢斗を待っていたのだろうか、妹の瑠夏はいつもなら絶対に言わないことを口にした。



「俺に何か?」


「お兄ちゃん聞いたよー、お兄ちゃんと恵姉付き合ってるんでしょ?」


「は?」




瑠夏の隣でニヤニヤしてる綾瀬を一度睨みつけ、それから



「付き合ってるわけないだろ」



と正しい情報を瑠夏に伝えた。




「え、付き合ってないの?」


「ああ、付き合ってないな」


「でもお兄ちゃん、恵姉に告白されたんだよね?」


「ああ、まぁ振ったけどな」


「えっ!なんでよ!」


「当然だろ、素性も知らないやつと誰が付き合うか!」


「何言ってんのお兄ちゃん!ちゃんと分かってるの?このチャンス逃したら一生告白なんてされないかもなんだよ!?」




おうおう随分と言ってくれるじゃないかこの小娘。

“お前はどうなんだよ!”と言ってやりたいのは山々だが、残念なことにこの妹、普通に可愛い。

それに成績もかなりいいらしい。

ついでについこの間の陸上部の大会で優勝したとか・・・もう俺にないものしかない。という訳で何も言い返せなかった。




「で、でもそいつはダメだ」


「どうしてよ!こんなに可愛いし、優しいし、お兄ちゃんにはもったいないくらいなのに」


「お前は何も分かってないぞ」


「何が分かってないのよ?」


「こいつの裏の顔だよ」


「そんなのあるわけないじゃん!恵姉はどこから見てもいい人だよ!・・・ねぇ恵姉?」




突然、自分に振られ少し焦った顔を見せるが、夢斗の顔を見るとすぐに立て直した。




「そうですよ先輩、私に裏の顔なんかありませんよ!」


「裏しかないだろ」


「その逆ですよ!」


「そうだよ兄ちゃん、恵姉には表しかないよ」




こいつらちょっとうるせーな!綾瀬はこういうやつだからもういいとして、瑠夏 お前はなんなんだ!

俺の妹だろうが、なら見知らぬこいつより俺を信用しやがれ!




「なら一つ聞いてもいいか?」


「え、えぇどうぞ」




急に真面目な顔になった夢斗を見て綾瀬は唾を飲み込んだ。




「お前はどうして、俺の家を知ってるんだ?」


「え?」


「どうして俺の家を知ってる?俺はお前に教えた覚えはないぞ」


「そ、それは・・・」




そうだ、よく考えればこいつは三週間前からずっと平然とした顔で俺の家に来ている。でもそれはおかしい。俺は家を教えた覚えもないし、綾瀬がこの近くに住んでいるとも思えない。

そして夢斗は一つの考えに至った。



つまりはストーカーをしている!



学校帰りにストーカーをしていれば俺の家を知っているのも納得できる。てかそれしか考えられん!




「えっとそれはですね・・・」




完全に言いたくないって感じだな。

俺から目をそらして瑠夏に助けを求めてやがる。


しかし瑠夏も興味があるのかその助け船は出なかった。


それを見て堪忍したのか、大きく息を吐いた。



「それはですね・・・」


「それは?」


「それは企業秘密です!」


「はぁ?なんだそれ」




こいつ、なんか笑顔と可愛さだけで誤魔化しやがった。ちょっと可愛いとか思ったけど俺はそんなに甘くないぞ!



「おい!」


「やっぱり恵姉可愛いー」


「お、おい・・・」


「ちょっと痛いですよー瑠夏ちゃん」




はぁ、もういいや・・・こいつらめんどくさい。


という訳で綾瀬 恵は色々とやばいことをしてそうな訳だが、それがはっきりと分からないので何も言えない。


でも分かった時は覚えておけよ!と心の中で闘志を燃やした。



なんの闘志かは自分でも分からんが・・・




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