第5話 知られてしまった好きな人


さて、あれから(カラオケ屋の件から)もう一週間経ったわけだが、彼女 綾瀬 恵の告白は止むところを知らなかった。


ああいうことがあったというのに、次の日から平然と告白してくるのだから彼女はやはりどこかおかしい。


そして今日も目の前には彼女の姿がある。

これからまた告白される訳だが、もう答えは決まっている。それでもカラオケ屋での罪悪感が残っていた俺は告白だけはさせてあげようと思うのであった。




「先輩、まだ付き合う気にはならないですか?」


「ならないな」


「やっぱり彼女ですか?」




綾瀬 恵がいう彼女とはおそらく、いや間違いなく小鳥遊 翔子を指している。



「あぁそうだよ」


「やっぱりそうなんですか」


「・・・」


「先輩は彼女のどこが好きなんですか?」


「どこ・・・か」




彼女のことは好きだ。でも”どこが?”と聞かれると正直困る。

気づいた時には俺は彼女、小鳥遊 翔子のことが好きだった。

よく考えてみれば俺は彼女のどこに惚れたのか・・・顔なのか、性格なのか、正直なところよく分からない。




「全部かな」


「なんですか、その低レベルな回答は」


「低レベルで悪かったな」


「顔とか、性格とか、なんかないんですか?」


「だから全部なんだよ。小鳥遊さんの全部が好きだ」


「ヘーソウナンデスカ」


「なんだよ急に棒読みになりやがって」


「いえ、ちょっと失望しただけです」


「別にお前に失望されても何とも思わん・・・じゃあ逆に聞くが、お前は俺のどこが好きなんだ?」


「そ、それは・・・」




さて、彼女はなんて答えるのか。”全部”という回答は使えないだろう。なにせ今さっき”低レベルな回答だ”と自分で言ったのだから、それ以外のことでなければおかしい。だが彼女と出会ってからまだ二週間ちょい。そんな彼女が俺のことをよく知るはずもない。

よってこの勝負は俺がもらった。と心の中で勝利を確信した。※工藤夢斗の勝手な意見であり勝負はしてません。




「”どこが?”と聞かれると困りますね」


「だろ?」


「はい・・・でもそうですね、やっぱり優しいところですかね」


「優しい?俺が?」


「はい、先輩は優しいです」




顔を赤らめ、少しうつむいたままその台詞を吐く。

それが普通に可愛くて、正直なところもう付き合ってもいいんじゃないかと思えてくる。ってダメダメ!流されんな俺!




「ち、ちなみにどこらへんが優しいと思うの?」


「どこらへん.....ですか」


「うん、だって俺は君の告白を毎回振ってるし、それに割と冷たくしてるところもあって・・・」


「そういうところですよ」


「え?」


「そういう意外と責任を感じてるところとか、嫌がりながらもちゃんと私に告白をさせてくれるところとか」


「そ、それはちょっとした罪悪感で・・・」


「あとそうですね、そういうちょっと素直じゃなくて可愛いところとか・・・好きです」


「か、可愛いって・・・」




あれ、ちょっと待て。綾瀬 恵ってこんなに可愛かったか?

俺の知ってるこいつはいつも告白してきて、訳も分からんことを言って、勝手に嫉妬して、それでも諦めずに告白を続けて、意外と健気で、俺に対してすごい一途で諦めが悪くて。ってあれやばい、俺って割と彼女のこと・・・ちゃんと見てる。




「あと他にもありますよ」


「ま、まだあるんですか?」


「はい!」




彼女の元気のいい返事と可愛らしい笑顔は俺の心情に変化をもたらす。

もしかしたら俺って彼女のこと・・・




「・・・なところが好きです」


「え?」


「”え?”って先輩ちゃんと聞いてました?」


「あ、あぁ聞いてたよ」




正直、色々考えすぎてなにを言っていたのか聞いていなかった。

でも、もし聞いてたら俺の小鳥遊さんに傾いてる天秤はもしかしたら綾瀬 恵に傾いていたかもしれない。

そう思うとホッとするような残念なような、複雑な気持ちだ。




「一応もう一回言っておきますね!」


「お、おう」


「なんだかんだで優しいところです」


「”優しい”ねってさっきと同じだろ」


「あっバレました?」


「バレバレだ」




結局のところ彼女は俺のその”優しい”というところに惚れたらしい。そんなに優しくした覚えはないし、執着されるようなこともしてないと思うのだが・・・




「それで先輩の今日の返事は?」


「あ、あぁ返事ね」




“返事”か・・・正直今日告白される前は決めていた。でも今はその答えが合っているのか不安になる。けれど小鳥遊さんへの想いはきっと、多分本物だろうし、そう思いたい。だから今は・・・




「まぁ考えておくよ」


「え?えぇええ!?」


「なんだよ急に」


「い、いえ先輩が曖昧な回答をしたので」


「え、あぁまぁな」


「もしかして心情の変化ってやつですか?」


「知らん」


「私も脈ありですか?」


「知らん」


「全く先輩ったら可愛いですね」


「うっ、やっぱり・・・やっぱりお前はダメだ!」


「え?なんでそうなるんですか!?」


「なんでもだよ!」


「ひどいですよー」


「知らんわ」




そんなこんなで今日の告白は終了した。確かに少しは変化があったかもしれない。でも俺は、俺の好きな人は誰がなんと言おうと小鳥遊さんだ!

それだけは忘れてはいけない。


告白されて今日で28回目。あと何回続くかは分からないが、とりあえず俺も一途でいよう。小鳥遊さん一途で。


そう心に言い聞かせ俺はその日の眠りについた。



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