第4話 カラオケに行くなら好きな人と
一体これからどうすれば良いのだろう。
先程席決めをしたのだが・・・最悪なことに右には小鳥遊さん、左には綾瀬さんという俺にとってストレスしかない組み合わせになった。
小鳥遊さんだけだったらなぁーーと右を、小鳥遊さんを見ながらそう思う。
なるべく左は見ないようにしよう。そうしよう!と心に決める俺だったが彼女はそんなに甘くはなかった。
「先輩、何か歌いますか?」
「え、えっとまだいいかな」
「そうですか・・・ではこれ飲みますか?」
「え、いやそれって綾瀬さんの飲み物でしょ?」
「はい、いわゆる間接キスってやつです」
「そ、そうですか。遠慮しておきます」
できるなら右を見ていたいのに、会話の相手の方に目がいってしまう。
残念なことに無意識にそうなってしまうので、俺にはどうすることもできなかった。
「ねぇ、もしかして工藤とその子付き合ってるの?」
二人のやり取りを見てか、向かいの席に座っていた女子がそう尋ずねてきた。
もちろん「それはない」と俺は否定するのだが.....
「はい、付き合ってますよ!」
彼女が否定するわけはなかった。
「えーやっぱりそうなんだ」
「付き合ってないっつうの!」
「えーでもこんなに仲良さ気なのに」
「別に良くもないわ」
「そうなのー?」
あぁこの女子しつこいな。
なんで女子は恋愛話にはこうも食いついてくるのだろう。
俺の隣にいる小鳥遊さんをもっと見習ってほしいものだ。と思いつつゆっくりと右を見た。
静かだったからそうだと思っていた。しかし実際は違った。言葉には出していないがこれはあれだ。興味津々というやつだ。
やっぱり女子は恋愛話には食いつくものだよな。と先程までの意見を一人の態度で変えてしまう俺を許してほしい。
別に他の女子がそうでも俺の意見は変わらないだろうが小鳥遊さんは別だ。
彼女がそうなのであればきっと全ての女子はそうなのだ。
彼女の意見は俺にとって絶対なのだから。
「ねぇ本当に付き合ってないの?」
「付き合ってないよ」
「なんだつまんない」
「悪かったな、つまんなくて」
さて、そろそろ小鳥遊さんとお話をしたいところなのだが・・・俺の左にいるこいつ、綾瀬 恵がそうさせてくれない。
彼女でもないのに俺の腕に抱きつきやがって。それに振り払おうとしても結構な力で握られていて全く離れる気がしない。
こいつのこの力はどっから出てきてんだ。そういや廊下で追われた時もめっちゃ足速かったよな。これは運動神経がいいだけなのかそれとも・・・
「ねぇ工藤くん」
「な、なんでしょう小鳥遊さん」
来たーー!チャンス到来。まさか小鳥遊さんから話しかけてくれるとは。
自分からじゃ気まずいが、これなら左のやつは気にせずに話ができる。
「そ、そのさ・・・工藤くんはその子とは付き合わないの?」
「えっ?」
想定外の質問に少し戸惑いを見せたが、俺はハッキリと答えた。
「もちろん付き合う気はないよ」
「それはどうして?」
「”どうして”って言われても、こいつのこと何にも知らないし、それに・・・」
「”それに”何?」
「いやーなんていうか」
どうする。ここで本当のことを言ってしまおうか。いや”好きな人がいるから”って抽象的な感じで言えばバレなくても済むのか?でもここで告白を・・・
「先輩は好きな人がいるらしいですよ」
そう迷っていた俺の隣から、彼女はそれを口にした。
おい!何を口走ってんだ!と言いたいところだが、よく考えれば相手の名前は言ってないし、てか俺が教えてないだけだけど・・・仕方ない今回は大目に見てやろう。
「ってことなんだよ」
「そ、そうなんだ。工藤くんには好きな人が・・・いるんだ」
なぜか目をそらし少し頬を赤く染めている。
それを見ているだけで今夜のおかずにできそうだ。
やばいまじ可愛い、まじで告白したい!
「あ、あのさ小鳥遊さん」
「どうしたの?」
「い、いやえっと・・・」
「あの、先輩って誰が好きなんですか?」
「え?」
「だって好きな人いるんですよね?」
「そりゃいるけど・・・今はいいだろ」
「すごい気になるんで今がいいです」
「いやでも」
「私も聞きたいな・・・」
「た、小鳥遊までそんなこと」
まずい、まずいぞこれは!
どうする。何かいい案は・・・何かないか!
「あー俺ちょっとトイレ行ってくるわ」
そう言って立ち上がったのは京介だった。
京介は左手で口を押さえ笑いをこらえている。そして逆の手でグットサインを出して”頑張れ!”という合図を出してきた。
このやろー!あいつ完全に俺をからかってやがる。あとで懲らしめてやろう。ってそんな場合じゃない。
とりあえず今はこの場をなんとかしなくては!
「あのさ小鳥遊さん、話があるんだけど」
「えっ?私?」
「うん」
「な、なんでしょう?」
「実は俺の好きな人、君なんだ!」
「え?」
「「「えぇぇええ!?」」」
そこにいる全員が声を合わせてそう叫んだ。
とうとうやってしまった。告白しちまった。まだするつもりはなかったのに俺は何を考えて・・・
「ぷっ、ふっふっふっ」
「え?」
なぜかは分からない。けれど小鳥遊さんは笑顔で笑った。
「嘘・・・だよね。この場を和ませるためにそんなこと言ったんでしょ?」
「え、いや・・・まぁね」
そんなつもりはなかった。
俺の気持ちは本物だ。
でも今はこれに乗っかっておこう。ちょっと悲しい気もするし、残念だけど、まだこれでいい。これが一番いい・・・と思う。
「ば、バレたかー」
「バレバレだよ」
「ふっふっふっ」
「はははっ」
そうしてその部屋は笑いに包まれた。
辺りを見渡すと皆んなが笑っていた。
皆んなが・・・あれ一人だけ笑ってない?
「先輩、今の本当ですか?」
「本当って?」
「冗談で言ったんですか?」
「え、まぁそうだね」
「そうですか・・・すみませんが私先に帰りますね」
「えっ?ちょっと!」
止める間もなく彼女は鞄を持って出て行った。
それを追って慌てて俺も部屋から飛び出す。
なぜ止めようとしたのかは分からない。”体が勝手に動いた”それしか言えない。
「ねぇ先輩」
「は、はい」
「先輩は彼女のことが好きなんですね?」
「え、いやそんなことは」
「好きですよね?」
「ど、どうしてそう思うんだよ」
「そんなの見てれば分かります」
「どうして・・・」
「私もしょっちゅう告白しているのでなんとなく分かるんです」
「しょっちゅう・・・ね」
「正直少し残念です。それに胸がこう、なんていうか詰まったような感じがして・・・これが失恋ってやつなのかもしれないです。で、でも先輩!これだけは覚えておいてください。私は、私は先輩のこと好きですから!」
「どうして俺のこと、そんなに・・・」
「そんなの決まってますよ。先輩は私の・・・」
「えっ?」
彼女はそれを告げたあと、笑顔を見せてから店を出て行った。
彼女がなんて言ったのか、最後のところだけは聞き取れなかった。けどそれはきっと彼女が俺を好きな理由なのだとそう思う。
「なぁ夢斗、どうやって今みたいな状況になったんだ?」
「うぉ、びっくりした。なんだ京介か」
背後から現れた京介に一瞬ドキッとしたが一度大きく息を吐き、それから事情を説明した。
「ほーなるほどなるほど」
「何を納得したんだよ」
「いやー綾瀬さんだっけ?めっちゃいい子だなーって」
「・・・」
「まぁそれで帰っちゃったわけか」
「あぁ」
「じゃあ彼女の分の金はお前のつけな」
「え、なんでそうなる?」
「そりゃそうだろ」
「やだよ」
「ダメだ、そんな嘘ついたんだからお前が払えよ」
「し、仕方ないか・・・分かったよ」
そして結局、俺は自分と綾瀬さんと何故かは知らんが京介の三人分を払う羽目になった。
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