第3話 今までのは本気じゃない!


小鳥遊さんとのまさかの遭遇から2日後、あれっきり小鳥遊さんとは話をしていない。


もともとそんなに話はしないのだが、何故か距離が遠くなったように感じる。



「最悪だな・・・」



今日は来ないでほしいな、なんて全く希望のないことを考えてため息をこぼした。



「おいおい、朝っぱらからため息とかお前はどこぞの親父だよ」


「俺もいろいろ大変なんだよ」


「大変ってな、まだまだ人生は長いぞ少年!」


「あぁそうだな」


「悲しいことも、辛いこともある。でもそれを乗り越えた先に見えてくるものもあるんだ。だから頑張りたまえ少年」


「はいはい、頑張るよ」




今、俺が話しているこの男。俺のことを下の名前で呼ぶ数少ない友人の一人、三好 京介である。




「なぁ夢斗」


「なんだよ?」


「お前って彼女いんの?」


「えっ、いねーよ」


「そうなのか?」


「当然だ」




それを聞き、少しホッとした様子を見せる京介に何か言ってやろうと口を開いたが、それは途中で音のない吐く息へと変わった。



「それで、なんで俺に彼女がいると思ったんだ?」


「いやそれがさ・・・」




◇◆



放課後、昨日までは訳あって教室に残っていたのだが今日からは残る必要もない。

故に告白をされる前に帰宅できる!



「なぁ夢斗、この後暇か?」


「あぁ暇だけど」


「ならカラオケ屋いこーぜ!」


「まぁいいけど」




京介の誘いに迷う事なくOKを出す。誰かと遊ぶのも久しぶりだし、今の俺にはこういうのもちょうどいい。



「他は誰か来るの?」


「もちろんとっておきの人を誘ってるよ」


「とっておき?・・・誰だそれ?」


「まぁまぁ行ってからのお楽しみって事で」


「はぁ」




京介の意味深なニヤつきは気になるところだが行ってからのお楽しみなら、後のことは後で考えよう。

そう思って鞄を手に取った。



「じゃあ行くか」


「おう」



今日は告白されずに済む。あいつが来る前に教室を出れる。そう思っていた矢先だった。


教室を出るためドアを開けた途端、先程まで聞こえなかった早い足音が鳴り響いた。


その足音は後ろからすごいスピードでこちらに迫ってくる。




「なぁ京介、俺ちょっとトイレ行ってくる」


「なんだよ急に・・・早くしろよ」


「あ、あぁ」




そして夢斗はその足音から逃げるようにして走り出す。




「どんだけトイレ行きたかったんだよ」




そう呟いた京介の隣を何かがすごいスピードで追い抜いた。




「あれは・・・あぁそういうことか」




それを見た京介は何か思いついたのかニヤリと笑い、ゆっくりと後を追った。


一方、夢斗の方は勢いよく走り出したのは良かったのだが後ろから追ってくる足音が速すぎて、その距離はみるみる縮まっていった。


そしてその足音は夢斗の足音と重なり同じスピードになると、すぐ後ろを走りだした。



もう振り向かなくても誰かは分かる。

分かるのだが・・・振り向いたら負けな気がする。





「先輩どこまで行くんですか?」





走りながらなのによくそんな普通の声が出せる・・・と感心している場合ではない。


もし今振り返ったとして、なんて言ってここを乗り切るか。

それを必死に試行錯誤する。

それから限界に来ていた足を止めて振り向いた。




「今日は時間がないから・・・そのまた明日」




やっちまった。”また明日”なんて言ったらこいつはいつまでも告白してくるのに、俺はそんな安易な言葉を選択してしまった。




「先輩、私これからは本気でアプローチしようと思うんです」


「はい?」




綾瀬が口にしたそれを聞き俺はかなり動揺した。

告白を繰り返すこと13回。

これが本気のアプローチじゃくなくてなんなんだ?



「というと?」


「私気づいたんです、先輩は私のこと好きじゃないんだなって」


「えっ、あぁまぁね」




えっ!?もしかして気づいてなかったの?何度も振ってきたのに気づかなかったの!?やばすぎでしょ!



「だからこれからは1日2回、いやそれ以上やろうと思います!」


「”やるって”、それってもしかして・・・」




夢斗の中で嫌な予感がした。

多分あのことを言っているのではないかという一つの予想が




「はい、これからは1日2回以上告白するのでよろしくお願いします!」


「いや、よろしくされてもね....」


「話は聞かせてもらったぞ!」




突如二人の会話に入り、影から出てきたのは京介だった。



「お前いつから!」




夢斗の問いに、ピースサインを出して返事をする。

こいつ、いつの間につけて来やがった。




「なぁ夢斗、俺達これからカラオケ屋行くよな?」


「あぁその予定だけど・・・まさかお前!」


「そう、そのまさかだよ」




俺の予想が正しければこいつは綾瀬さんをカラオケ屋に誘う気だ。それだけはなんとしても阻止せねば・・・って言っても何にもいい案が浮かばない。



「えっと君は?」


「私ですか?私は綾瀬 恵と言います。工藤 夢斗先輩の彼女などをしています」


「へー彼女ねー」




そう言いながらこっちを見てくる京介に首を横に振って全力で否定した。



「まぁいいや、とりあえず綾瀬さん」


「はい綾瀬です」


「あっはい、で綾瀬さん 俺らこれからカラオケ屋に行くんだけどもし良かったら一緒に来る?」


「私は・・・」




京介の誘いに迷った表情を見せる。




「ほら京介、いきなりは迷惑だって」


「でもお前はいきなりでも来るんだろ?」


「それは・・・そうだけど」


「先輩も行くんですか!?」




うわっ、この顔嫌な予感しかしない。

目をこんなに輝かせて、まるで小学生だな。



「おうとも、なぁ夢斗?」


「え、えっと・・・」


「なぁ来るよな?」


「分かったよ、行くよ」


「みたいだけど、綾瀬さんはどうする?」


「行きます!先輩が行くなら私も!」


「よしっ決まり!じゃあ早くいこーぜ!」




そう言って歩き出した京介はなぜか嬉しそうだった。



それから歩くこと約10分。


カラオケ屋に着いた夢斗達を待っていたのはクラスの男女四人。その中には小鳥遊さんの姿もあった。



「お前な!」




夢斗が京介の方を見ると目をそらし口笛を吹いている。

何にも誤魔化せてないっつうの!




「京介ちょっとこっち来い」




そう言って一度京介を店の外に連れ出す。



「どういうことだよ!」


「いやーまぁなんというか」


「聞いてないぞ!」


「それは嘘だよ。ちゃんと言ったろ、スペシャルゲストを連れてくるって」


「俺の記憶だと、”とっておきの人”だった気がするが?」


「まぁまぁ、同じようなもんでしょ」


「それに誰が小鳥遊さんを誘ってると思うんだよ!」


「悪かったって、そんなに怒んなよ」




くそっ、はめられた。しかもよりにもよって綾瀬さん連れだなんて・・・

そうか、さっきのニヤつきはこういうことだったのか!こいつ!


「まぁいいじゃないか、お前にアプローチの場を設けてやったんだから。それになんか面白そうだし」


「お前の本音は後半の方だろ!」


「まぁそうだけど、せっかくなんだから・・・な!」




何が”な!”だこんチクショー

こんなのやってられるか!




「悪いけどやっぱり俺は帰る」


「おいおい、そんなこと言うなよ。今日は小鳥遊さんも楽しみにしてるんだから」


「えっ?小鳥遊さんが?」


「そうだよ、夢斗が来るって言ったら喜んでたんだから」


「本当?マジか?」


「本当、マジだ」


「それは行くしかねーな」


「だよな」




やらかした。ついつい乗ってしまった。

小鳥遊さんが喜んでたなんてそんなの嘘に決まってるのに・・・流れってのは怖いもんだ。


結局京介に色々とはめられ、俺は渋々店に戻った。


全く、この後どうなるんだか・・・



想像するだけで胃が痛い。

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