第2話 好きな人とは上手くいかない

彼女の名前は綾瀬 恵。


今こうして目の前にいる訳だが、正直早く帰りたい。


初めて告白されてから1週間と少し経ち、その間毎日のように彼女は告白をしてきた。


そろそろ諦めるんじゃないか?と思いつつも心のどこかでまた今日も来るんだろうなと思ってしまう自分が嫌になる。


そして今日も彼女は俺の元にやって来た。




「ごめんなさい」




先に謝った俺を見てキョトンとした顔を見せるが、すぐに理解したのだろう。彼女は一つため息をついた。



「先輩、今日何の日か分かりますか?」


「何の日って?」


「大事な日です。記念すべき日なんですよ」


「そうだっけ?」


「はい!」




色々考えたが思い当たる節がない。


今日は5月18日、なんかの記念日だったか?やはり考えてもその答えは出なかった。



「えっと今日って何の日でしたっけ?」


「先輩そんなことも分からないんですか?」


「ごめん、分からない」


「知りたいですか?」


「いや別に、俺もう帰りたいんだけど」




そう言って鞄を持つ。




「先輩ちょっと待って下さい!」


「まだ何かあるのか?」


「そ、その・・・これどうぞ」




少し顔を赤くさせ、鞄から取り出したのは小さな紙袋。その中には何やら四角いものが入っていた。



「えっ、これってクッキー?」


「はい・・・その、私の手作りです」


「ど、どうしてクッキー?」




何か色々抜けた質問をしてしまった気がするが彼女には伝わっているだろうか。彼女は目をそらしもじもじしながら呟いた。



「だって今日は10回目じゃないですか」


「えっ、なんて言った?10が何だって?」


「だからその、今日は私の告白が10回目で・・・」


「あぁもうそんなにしてたのか」


「はい」




1週間ちょいで10回か、そう思うと彼女のメンタルは鉄でできてるな。1日1回ね・・・半端ねぇな




「それで先輩、記念日のことなんですけど」


「あぁ記念日ね。でその記念日って何の記念なの?」


「えっ!?」




俺の疑問に対し驚いた顔を見せた彼女は一つ間を置いてから俺が持っている紙袋を指差した。


中を見ろってことか?

そう察した俺はもう一度紙袋を開き、中を確認した。

中にはクッキーと・・・厚紙が一枚。


彼女が言っているのは厚紙の方だろう。

何やら書いてあるのが見える。

俺はその厚紙を取り出して黙読を始めた。



今日が10回目の告白です。

その記念として私は先輩と付き合うことにします!




短い文だったがその内容は俺にとって不快なものだった。



「おい、何だこれ」


「いやその・・・10回記念なのでそろそろ付き合えるかと」


「んなわけないだろ!」


「えっ!そうなんですか?」


「当然だ」




何が10回記念だ。勝手に告白してきて勝手に記念日なんて作るな!!




「でも先輩」


「なんだよ」


「10って切りが良いじゃないですか?」


「だから?」


「だからその、付き合いませんか?」




だめだ、この子はやっぱりどこかおかしい。切りが良いから付き合って欲しいなんて奴いるのか!?なんで俺が振っているのか全く分かっていない。



「あの綾瀬さん?」


「はい綾瀬です」


「なんで俺が君を振ってるのか分かる?」


「はい、先輩には好きな人がいるからと前に聞きました」




分かってたー!!なのになんで告白してくるんだこいつは!



「えっと、ならなんで?」


「なぜってそれは・・・先輩のことが好きだからです」




もう本当にこの子が考えてることが分からない。もう関わりたくない、もう帰りたい!めんどくさい!と負の感情が夢斗の心を支配し始める。



「あのさ、俺は君とは付き合えないんだよ。だからもう告白するのやめてもらっていいかな?」


「嫌です」


「え?」


「嫌です!」




俺の提案に対し彼女は不機嫌な顔を見せた。


もうどうすればいいのか分からないな。だれか助けてくれー!

と心で助けを求めた時、その思いが届いたのか誰かが教室のドアを開けた。



「あっごめんなさい。お取り込み中だったね」




そう言いながら閉めようとしたドアを夢斗は必死に抑え、全力で助けを求めた。



「え、えっと・・・工藤くん?私お邪魔じゃないかな?」


「そんなわけないじゃないですか!」


「え、でも・・・」




今、夢斗が助けを求めた彼女の名前は小鳥遊 翔子。

夢斗とは小学生から一緒だが幼馴染というほど仲が良い訳でもない。

それでも夢斗にとって彼女は・・・特別な人である。つまりは夢斗の現在進行形で片思いの相手である。



「小鳥遊さん、ちょっと助けてください」


「助けるって・・・」




まさか小鳥遊が来るとは思ってもいなかったが、これは逆にチャンスだ。

綾瀬さんをさっさと追い出して2人の空間を・・・


しばらく放置していたせいか、綾瀬さんからの視線が痛い。


恐る恐る振り返るとすごい剣幕でこちらを・・・いや小鳥遊さんを睨みつけている。



「えっと私・・・」




その剣幕に圧倒され小鳥遊さんは一歩後ろに下がった。


「あの工藤くん」


「はい」


「なんで私、睨まれてるの?」


「そ、それは・・・」


「それはですね!」




いつの間にこんな近くにいたのだろうか、一瞬目を離しただけなのに綾瀬さんの姿は目の前にあった。




「先輩は私の彼氏だからです!泥棒猫は引っ込んでて下さい!」




なるほど泥棒猫を追い払う猫の威嚇って訳か・・・ってそうじゃなくて!こいつ何口走ってんた!!



「えっ!?工藤くんって彼女いたの?」


「いない、いないから!」


「何言ってるんですか、私は先輩の彼女ですよ!」


「お前はちょっと黙れ!」




あーもうどうしよう。せっかく小鳥遊さんと話せる機会が来たのに、なんでこんな状況になっちゃうんだよ

もうまじで死にたい・・・。





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