一章ノ弐『人狼の里』2
翌日から俺たちの日常は少しだけ変化した。
朝早く役目に出て、帰るとリナがムロと一緒に待っている。
楽しそうに遊びながら待っていたが、俺が顔を出すとリナは俺に駆け寄ってきて、ムロは少し悲しそうな目でこちらを見ている。
「あのねあのね、今度焼き芋持ってきてあげる!私が焼いたやつだよ!」
「……そうか、それはムロが喜ぶな、あいつ好きだからな焼き芋」
「違うよ!ロウに食べて欲しいの!」
少し離れたところにいるムロは、俺とリナが話しを終えるのを待っているが、その姿は一度も見たことがない。この時の俺は別に気に留めることもなく、ただリナをあしらうことだけを考えていた。
「分かった、ムロにも作ってやってくれるなら受け取るとしよう」
「本当に!分かった!任せて!」
リナの好意は俺たちが守杜だからだと考えていた俺は、少しだけ線引きしようとしていたのかもしれない。守杜は役目を担うため、人狼内でも一目置かれる立場だったから。
ムロはその後、リナと楽しそうに話していて、俺はいつものように木の上からその様子を眺めていた。数十分後、父が慌てて帰ってきて家へ入って行くのが見えて俺は木から降りる。
どうして慌てていると思ったのかというと、いつもは人の姿で帰ってくる父が狼の姿で帰って来たからだ。
俺も慌てて家へと入ると、父が母に事情を話している最中だった。
「里の商人が国の兵士に捕まって処刑されたようだ――」
父は母が持ってきた上着を着ながら言う。
「これから里の長と一緒に人間の王と話をしに行く」
「止めておいた方がいい」
「ロウ……どうしてだ?」
「人間の王……この国、マトの王は亜人嫌いで有名だ、街中には亜人は入れないし、昔はいた森の民も全員国外へ追放されたんだ」
「どうしてお前がそこまで知っている?」
そんなものは商人との話で誰でも手に入れられる。里へと来てくれていた商人も人間ではなく人狼で、人里隠れて人として暮らしていた、でもそれがバレてしまったのだろう。
「商人のベトとは友人だった……この前会った時、今回が最後かもしれないと言っていた」
「そ……そうか、彼の家族がどうなったかも聞いたか?」
「ベトの家族は日の国へ移り住んでいるよ、俺がそうした方がいいと言っておいたからな、本当はベトにも逃げる様に言っておいたんだけど、あいつなりにこの里を守ろうとしてくれたんだ……、父さん、今回の交渉は俺が行くよ、母さんのこともあるし」
母さんは巫子を孕んでいる、だから父さんが今危険を冒すことはして欲しくない。
「ロウ、そうか知っていたのなら話しておくとしよう。我ら守杜の家系には時折巫子を孕む女が生まれる、お前の母さんがそれだ。……メイロウの御霊を宿す子は、以前の巫子からもう数十年は産まれていないがようやく現れた、これでメイロウの加護も増し、不老の巫子によって我らが役目も重要性を増すだろう」
「メイロウの宿る巫子は不老であっても不死ではなく、知恵者になるのは間違いないって聞くけど、もし母さんが殺されでもしてお腹の巫子が死んだ場合はどうなるか父さんは知ってるのか?」
父は俺の目をまっすぐ見ながら、知っていると答えた。
「仮に産まれた巫子が死ねばそれを生んだ親が不老不死になると聞く、次の巫子を孕むまでの時間を稼ぐためにメイロウの加護がそうさせるらしい。だが、親諸共巫子が死ねば、その加護は〝定められし者に委ねられ、再び巫子が生まれるまでその者に託される〟と言い伝えられている」
父はそう言うと、結果的にどうなるかは分からないと言った。
「定められし者……確かに誰になるかは検討もつかない」
「だが、交渉に行くのは私が適任だ、ロウは母さんを守って巫子を守れ、それがお前の役目であり、私の望みでもあるのだ」
「父さん……」
父に託された言葉はそれが最後だった。
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