一章ノ壱『人狼のロウ』3


 その日は俺と父の役目の日で、ムロが初めて一緒にそれに参加する日でもあった。


 森の奥に定期的に湧いて現れる魔の物、それを退治するのは長年俺の先祖が担う役目である。


 元々は平地でそれを担っていたが、キリンが森を去ったせいで俺の先祖が役目を受けた。そして、俺の先祖が森の魔の物を退治し続けた結果、平地には魔の物が現れなくなり、森の一部へとそれらが湧く地点を発見し、その周期も長年の役目で分かるようになった。


「私たちの一族はメイロウの加護を受けていて、それを持って魔の物を退治できる。集中すれば手に自分の加護が見えるはずだ」


 父がそう言うと、ムロは父と同じように自身の手を見つめて集中する。


「……どうかな、できてるのかな」


 ムロがそう聞くが、俺の眼にはムロの手には何も見えない。父の手に光る加護と自身の手に光る加護は見えるが、ムロの手にはそれが一切見えない。


「やはり、ムロには加護が無いのかもしれないな」


「父さん、決めつけるにはまだ早いだろ」


 だが俺は、初めて父の役目について行く日にはちゃんと加護が出せた、それも父よりも輝く加護をだ。加護はどうやるのか、そう聞かれても説明ができないほど、簡単に出せてしまえた。


「理屈では説明できない以上、今できなければこれから先できる様になる可能性は低いだろう。加護が無い以上役目はムロを危険にさらすだけだ」


 父の言葉は俺も納得のいくものだ、だが、ムロの悲しげな表情を見た俺は、もう少しだけ時間をあげて見てもいい、そう父に言ってしまう。


 だが、結局ムロは加護を使えないまま、俺と父で役目は行うことになり、悲しい表情のムロを残し森の奥へと足を進める。


 魔の物は、見た目は蜘蛛の姿をしていて、数体が群れて出てくる。


 影の蜘蛛の状態の奴らは簡単に退治できるが、奴らはある条件で強くなる傾向にある。


「ロウ、鹿の死骸だ――」


 奴らは動物を襲い、その顔を奪って鳴き声を出すようになる。そうなると、体が硬くなり爪が鋭くなるため注意が必要になる。


「はぁぁあ!」


 蹴り飛ばした魔の物は、鹿の鳴き声を上げながら霧散していく。


「やはりロウはメイロウの加護が強いな、私の加護では鹿頭には何度も苦労させられた」


 笑みを浮かべる父が言う通り、鹿を喰らった魔の物に、父が苦戦しているところを何度か見た覚えがある。


「でも、父さんは人の顔の魔の物を退治したことがあるんだろ?俺はまだ会ったことがないけど」


 魔の物は、知能の高い動物になると途端にその体の強化が異常に上がる。


「私も死ぬかもと思った、どうにか朝日の入る場所へ誘導し弱らせて退治したが、この頬の傷はその時の物で、加護持ちの治癒力を持ってしても治りきらない傷だ、お前も気をつけろ」


「あぁ分かっているよ」


 この時にはもう魔の物との戦いは、俺は死ぬまでの役目であると考えていた。一生をそうして生きることに不満はないが、ただ、人間の顔色を窺って配慮してというのには不満があった。

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