第11話 なにやら誤解されている
「それじゃ、今日の授業はここまでにしましょう」
担任の佐藤先生が、授業のチャイムが鳴るよりも少し前にクラスメイトに声をかける。多くの先生は、授業ギリギリまで行うが、佐藤先生は、授業は、キリのいいところで終わり、
それにホームルーム前だと、早めに授業を終わらせてくれることもある。
『はーい』
ガヤガヤガヤガヤ。
クラスメイト達が一斉に帰宅の準備を始めだす。僕も合わせて、引き出しに残っていた教科書や筆記用具を鞄に入れる。
『よっしゃ、部活だ部活!!』
『早く帰ってゲームしよーぜ!!』
『今日、カフェ行こー』
僕たちはいつだって放課後を待ち望む。
授業が終わった後の、この開放感。
何度も何度も経験しているはずなのに、
この感覚は忘れられない。
放課後よ。そなたは、
どうしてこんなに素晴らしいんだろうか。
「さて、今日もやることないし、図書館行くか……」
「宮本くん、ちょっといいかしら」
ん? 今呼ばれた気が……
声がした方を振り向くと、
何故か、担任の佐藤先生がいた。
「全然良いですけど……どうしたんですか?」
「間違いだったら悪いんだけど、
最近、神崎花さんと宮本くんが仲良くしてるっていうのは本当なのかしら……」
「え!?」
まさかの質問に思わず、声が上ずる。
まさか……この前の喧嘩を見られたとかじゃないよな?
これはまずいぞ。
だが……変に嘘をついても怪しまれるだけだ。ここは正直に。
「は、はい……仲良くさせてもらってますけど…」
「そう。ちなみに悪いこととかはしてないわよね……?」
「も、もちろんです」
すると、安堵の表情を浮かべた
佐藤先生が答える。
「そう! なら良かったわ。神崎さんが誰かといるのをみたのは、初めてだったからちょっと気になってね。じゃあこれからも神崎さんと仲良くね」
「は、はい!」
あれ? どうやら、喧嘩を見られたわけじゃなかったみたいだ。単純な興味だろうか。
まぁ、とにかく、何もなかったようで良かった。
それにしても、佐藤先生の声って、
なんか安心するというか、
癒される優しい声なんだよなぁ……。
「昴、何してんだ?」
「花さん!? どうしてここに……」
「あー、うん。
昴が遅いから、様子を見に来たんだ」
「あら、噂をすれば、神崎さんじゃない。本当に二人は仲がいいのね」
「あー、どうも。あたしって本当、色々な人に知られてんだな……」
確かに。花さんを知らない人って……この学園に
果たしているのだろうか。新入生の僕が知っていたわけだし。
こんだけ生徒に知られているなら、
別に佐藤先生が知っているのも
何も不思議なことではない。
「まぁ……知ってもらえてるっていうのは、自己紹介いらないし、会話しやすくていいか」
「うふふ……そうね。貴方達はこれからどうするの? 遊びにでも行くのかしら?」
「あ、ええと……」
どう答えようか、僕が頭を悩ませているのを見て助け舟を出してくれたのか、代わりに
花さんが口を開いた。
「あー、夜は……昴に手取り足取り、あたしの知らない色んなことを教えてもらってる感じっすね」
「夜……? い、色んなこと……?」
ん……何やら雲行きが怪しいぞ。
なんか盛大に勘違いが始まるような。
「優しく、教えてくれるんっすよね、
あたし、初めてなんで……
大事なところは特に……優しく丁寧に」
「……!?」
さっきまで、安堵していた先生の顔が一瞬にして、焦りに変わる。
「あたし、こういうの初めてなんで……、初めてが昴で、助かってるっていうか……」
「!? 初めて……!? 貴方達、もうそんな仲になってたなんて……!!」
いや、これは、間違いなく誤解が生まれている。恐らくは、
「あたし、(勉強教えてもらうの)初めてなんで……初めて(勉強教えてもらうの)が昴で助かっているっていうか……」
みたいな意味で言ってると思うんだけど!
大事なところが抜けてるから、変な意味に聞こえますけど!?
「ちょ、ちょっと先生!? 何か盛大に勘違いしてません!?」
「……わかってるわ、宮本くん。見守るのも先生の役目。でも、きちんと将来の事はよく考えて行うこと!そして、もし、その時が来たら、責任をとって、彼女を大切にしてあげるのよ?」
優しい声で、すべてを知り、そして諭すかのように僕の肩に手を置き、語る。
「ちょっと!?」
「それじゃ、お幸せにね?」
タッタッタッ。
佐藤先生は何処かへ行ってしまった。
「幸せに……? どういうことだ? 変わった先生だなあの人」
「……」
花さんのせいなんですが……
まぁ、担任の先生だからいつでも会えるし、誤解は後で解こう……。
「何固まってるんだ、昴。あたしは行くぞ」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよー!」
本当に、花さんは自由な人だ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「やっと見つけた……ッス。 神崎花……」
謎の声の主が、ひっそりと僕らを見ていることなど、この時の僕たちは知らなかったのである。
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