第21話
目を覚ますと、そばについていてくれたらしいフィジがすぐに気がついて頭を撫でてくれた。
「今日はよく頑張ったけど、まだ一日は終わってない。あと少し、気張れる?」
「いま、どのくらいですか?」
まだぼうっとした頭で、ぱしぱしと瞬きをする。
「そろそろ、夕食の支度が整う頃かな。こちらの夕飯は早めだから。陽は落ちきってはいないけど、じきに日暮れ。寝る前に解熱薬を飲めたから下がってるとは思うけど、起きられそう?」
体が動けなくなる前よりはましだった。
「はい」
片肘を寝台について上半身を起こす。
すぐにシン・レがそばに来てくれて、水を飲ませてくれた。
彼もぼくも普通の服装になっていて、特別な時間は過ぎたんだったなと思い出す。
フィジも動きやすい服装になっていた。
リクは部屋の中にはいなかった。
見渡すと、前領主が就寝に使っていた部屋ではなく、新領主のために新たに主寝室とした部屋だと、ドイレ執事に案内されていたところだった。
「ごめんなさい、またご迷惑を」
早く丈夫にならないかな。これじゃ、周りの人みんなに面倒をかけてしまう。
「きみは、謝るんじゃなくて、きみのために動いてくれる人が、なぜそうしてくれるのか、感じたほうがいいね。あたしが言うのは筋違いとは思うけどね」
乱れていた髪を細い指先で整えてくれる美しい顔立ちのフィジが間近にあって、その造形美にほうっと見惚れながら、フィジの言葉をあまり飲め込めないままうなずく。
「お目覚めになったと、知らせてまいります」
にこりと男前にシン・レが笑顔で一礼し、退出する。
まだ頭がふらつくけど、なんとか寝台を下りて、近くの椅子に座りなおす。
フィジは、ぼくの手首をとって脈をみてくれたり、目を覗き込まれたり、お医者さんみたい。
ぼくの心の声が聞こえたように、フィジが笑って言う。
「癒しの樹精魔法を使う者はね、人間の体にも精通してないといけない。なにが原因でその人が苦しんでいて、どこをどうしたら癒せるのか、知ってないとできないでしょ? 医師の資格はないけど、知識は持ってるわけ。戦場じゃ筋肉やら筋やら血管やら、骨なんかも繋がないといけないこともある。もちろん、人の手による技術があってこそのものだけど、それだけではすぐに動くことはできないから、戦場では医療班に樹精魔法使いも多いよ」
そうなんだ。
「ん、これなら動いても大丈夫だね。食欲は?」
「お昼は遅かったし、あれだけ食べたらさすがにまだ」
「あはは、量はともかく、いろんなもの食べてたものね。あとでお腹が空いたら、滋養のあるものを食べること。フィジさんの命令」
「はい」
子供が好きなフィジ。近くに子供がいるときには、雰囲気が柔らかくなって、あったかい人になる。
近くの他の椅子にフィジも座る。
「それで。きみは、なにを抱えこんでる?」
いきなり斬り込んでこられて、思わずフィジの大きな瞳を凝視する。
物事を見据える瞳。
この人の前では、隠し事は無意味な気がする。
「内緒だけど、この部屋にちょっと結界を張った。一時的なものだけど、音を遮断してる。胸の奥に、なにか溜め込んでいるなら、吐き出してみない? 心の負荷もね、体調に表れるものなの」
「誰かに、報告する?」
フィジの目を見たまま訊いていた。
「いいえ。精霊たちに誓って、口外はしない」
フィジの薄青の瞳を信じて、目を閉じる。
体の力を抜いて、深く背もたれに背を預ける。
息を何度か深くついて、口を開く。
「ぼくは、リクに拾われたときからの記憶しか、持ってなかった。彼に出会ったのは、一月も経たない、ほんの少し前。ぼくらは、ムトンの荒野の山で、雨の日に出会った」
そのときの、激しい雨、しがみついた手の冷たさ、リクの瞳の色、その衝撃を思い出す。
「そのあとも、ぼくの以前の記憶は戻ってなくて、でも、あるとき、気づいた。ここは、ぼくの知っている世界じゃないって。変なことを言ってるとわかってるけど、そう、思ったんです。それ以来、夢を、見る。たぶん、ここじゃないところの風景、人。その場面の音は、わからない」
ズキリと、頭が鈍く痛んだ。でも、それは表面には出さない。
「それと、もう一つ。違う視点の夢も見てきた。それは確かに、ぼくなんだと思う。でも、ただの夢にしか思えないくらい、実感がない。いつも、思ってました。ぼくは、どうして、ここにいるんだろうって。答えなんて、誰もくれないことはわかっているのに。でも、答えはいらなかった。リクが、ぼくに居場所をくれたから。ここにいてもいい理由をくれたから。だから、ぼくがなんでここにいるのかなんて、本当は、もうどうでもいい。ぼくが不安になるのは、ぼくの行動で、なにかが変わってしまわないか。リクに、彼に、不利益にならないか。本当に、ぼくがカルトーリでいいのか。ちっぽけで、ただの子供で、マンダルバの領主なんて、ぼくに務まるわけがなくて、でも、やらなくちゃ。みんながぼくに期待をしてるなんて、そんな勘違いをしてるわけじゃないです。ぼくは、ぼくの願いのために、ここにいるから。だけど、まだ、怖いとも思ってて」
揺れ動きまくっている心は、話しながら、吐き出せている安堵と、誰にも言うつもりはなかったのにという自己嫌悪でゆらゆらとしていて。
「リクは、ぼくに、思い出したことは無理に話をしなくていいと、言ってくれた。ちゃんと思い出せもできてない。リクに話せることなんて、まだなんにもない。焦ってるわけじゃないけど、でも、早くスッキリとしたいって、そうも思ってる。ぼくって、中途半端だなって、ちょっと、自分がいやになります」
目を閉じたまま、勝手に顔が苦笑う。
「ぼくは、カルトーリじゃない。でも、カルトーリとして、ここにいる。みんながそれを望んでいるからだけじゃない。自分でそれを、決めたから」
目を開ける。
フィジの瞳を見つめる。
「それが自分の負荷になっているとは思いません。ただ、単純に、明日のことが怖いなって、そう思ってる」
フィジは片手を伸ばして、髪を撫でてくれた。
「きみの感覚は、あたしは結構信用してる。アーノルトが、怖いってこと?」
そうなのかな。それだけじゃない気もする。
「あの人自身が、怖いっていうよりも、なにが起こるのかわからないこと、ですかね。あの人がぼくを襲った黒幕なら、なんであんなに、悪びれなく過ごせてるんだろう。誰も気づいてないなんて、きっと思ってないはずだし。なんていうか、不気味っていうか、不快っていうか、わかんない、です」
すっと頰を撫でて、額を撫でて、フィジはぼくを慰めながら聞いてくれていた。
その手をぼくの片手に移して、軽く握ってくれる。
「警戒は、し過ぎても損じゃない。明日はあたしもそばにいるから。リーヴもね。安心しなさい」
二人がいて、不安に思うことはないけど。
「お二人には、甘えっぱなしです」
えへへと、笑う。
きゅうと手を強く握るフィジの顔がむずむずとしてる。
「もっとなでなでしたいけど、我慢しとく」
代わりにフィジの反対の手が、握ってるぼくの手の甲をすべすべしていた。
「きみにだけしゃべらせといて、公正じゃないから、あたしの秘密も言っておくね」
え、それはダメなんじゃ。
構わずにフィジは続ける。
「キースとは、タギヤで出会ってね。お互い一目惚れだったってわかったのは、タギヤが落ち着いてから。彼の変装が変とは思わなかったけど、いちいちやることが格好よくってね、さりげないけど的確だったり、どこか胡散臭いのに目が離せなくて」
これは惚気なんだろうか。
「キースは、あたしと一緒にいるって、言ってくれた。嬉しかったけど、至高の人を独占することには、その気になれなくて。だから、あたしの欠点を言えば、身を引いてくれるって思って、言ったの。あたしは、子供を産めない体だって」
フィジはぼくの手を握って笑ってる。
「術者ってね、公けにはされてないけど、子供を作れないの。五精霊すべてを使役することで、人間じゃなく、精霊に近い体質になるって、術者の仲間内では考えられてる。だから、術者は弟子を取り、自分の技術を次世代に伝えていく。あたしもいずれは後進を育てないといけない。それを、キースに伝えた。キースはね、嬉しそうに笑って言った。子供にきみを取られなくて済むから、俺の求愛を断る理由にはならないよって、真っ直ぐに」
うわあ、それは、あの美貌で言われたら、落ちます、女ならきっと誰でも。
「もう受け入れるしかないじゃない? 諦めたよ、彼を手放すことを。本当はキースも子供好きなの。子供は宝物。子供が不幸になるのは見過ごせない。きみはマンダルバ領主の前に、まだ子供。頼れる人には、甘えちゃっていいんだよ。それを見るだけでも、あたしたちは嬉しいから」
「ありがとう、ございます」
大事なことを、話してくれて。
ぼくを、信頼してくれて。
「もう少し、力を貸してください。この問題が解決するまで、マンダルバの未来が見えてこない。リクやみんなが、気にせずにムトンに戻れるようになるまで、お願いします」
目が熱いけど、雫は落とさない。
「いいよ」
フィジはふわりとほほえんだ。
クイン・グレッド管財官がやってきたのは、ぼくが起き出してしばらくしてからだった。
管財官も通常の服装に切り替わっていて、でもその表情は固かった。
談話室のような部屋の小さめの暖炉に火がつけられていた。海辺は風が吹いていて、今夜は冷えそうとの予想で早めに火で部屋の空気が温められていた。きっとまだ体調が万全じゃないぼくのため。
起きたばかりなのでまだ食欲は湧かないけど、お茶は用意してもらった。マンダルバのお茶は何種類かあるけど、薄茶色のお茶は香ばしいけど渋くなくて、とても美味しい。
部屋の中にはクイン・グレッド管財官と、ジョーイ・ハーラット管財官補佐。そしてぼくの希望でリクが暖炉近くの椅子に座っていた。
「本日はお疲れのところ、まだお話がありますゆえに、申し訳なく思います」
ぼくよりもずっと歳上の人たちに敬語を使われるのはまだ慣れないけど、慣れないといけないのかな。
「いえ、ぼくのほうこそ、あんまり健康じゃなくて、みなさんに迷惑がかかってばかりですみません。あの、ぼくはまだ、歳上の方に言葉をうまく使えなくて、このままでも、いいですか?」
クイン・グレッド管財官は、鋭い目を少し和らげて笑う。
「構いません。言葉が丁寧なことは、むしろ求められていること。あえて尊大に振る舞う必要もありません。言葉遣いが丁寧だから下々の者に対する行いが丁寧な者とは限りません。それならば、どのような態度でいても、民を思うお心をお持ちになればそれでよろしい」
「はい」
よかった。いまでさえ不相応な位置にいるのに、普段から違うことに神経を注いでいく自信がない。
「いずれ、このマンダルバの執政の仕組みを学んでいただかないといけませんが、押さえておいていただきたいのは、領主と、管財官が持つ権限のことです」
クイン・グレッド管財官は、表情がなくなると途端に鋭さの目立つ雰囲気に変わる。
「マンダルバの領主とは、一国の王と似て非なるもの。国主としての王政とは、国王の一言で法をも凌駕する権限を持っている場合がありますが、一部には身分としての王の立場がある国があります。主権は国民にあり、議会制と法で民は守られている。ミリアルグがそうです。非常事態が起これば全ての権限は国王に戻りますが、平穏であるなら法を管理するのは国民のほうに権限があります」
それは、なんとなく理解できた。
「マンダルバは、基本的に領土は領主のもの。これは、建前ではあります。一人の人物に権力を集中させることの危険性よりも、他国からの侵略を防ぐため、領内の平穏を守るのが領主であることを領民に周知させるためのもの。事あるときには、領民が一丸となってこの地を守るための命令系統を明確にしているわけです。民主制の国はいくつかありますが、国民一人一人の民度がより求められる。どの治め方がその地に適しているのかは、それぞれ違ってくるものです」
ミリアルグの高等な学校を好成績で終えた人の言葉らしい。細かく難しい話になってきた。
「マンダルバの民は、大らかな性格のものが多い。勉学に強くはなくとも、領主がいるから安心して自分のなすべきことをしていける。これはもう、民族性と言ってもいいものでしょう。もちろん、多種な性格の違いや、私のように異端な者も現れますが。ひと昔前ならば、様々な権力が領主の手の中にありましたが、あるとき管財官という役職を置いたことにより、さらに統治が細かく行き渡るようになりました」
マンダルバ領の、管財官。
聞いたときにはどんなことをする人なんだろうと思った。
「領民からの納税、年貢や献上品の管理、領外商売人との折衝と管理者の認定、警ら領兵の取りまとめ、およそこの領内におけるものすべてに精通しマンダルバの財を管理する者、それが管財官です。これは、領主の指名により認定されます。近年では、我が家から三代、続けて指名をいただいております。ただし、世襲制ではない。たまたま、頭脳に覚えのある人材が続いただけのこと。祖父の前は所縁のない方でしたし、私のあとも、おそらく別の血筋の者になるでしょう。領主からの指名を受け管財官につけば、任期は設定されておらず、長かった者は五十年は勤め上げたと記録に残されています」
一息ついて、クイン・グレッド管財官は少し表情を崩した。
「ここから先は、我が家の身の上話も混ざってまいります。祖父は、シスレイン様のお父上、ユグレイサス様にお仕えした管財官。ユグレイサス様の隠居後に、シスレイン様にもマンダルバについて教鞭をとり、管財官を父が受け継ぐまで女領主であられたシスレイン様をお支えしました。父が受け継いだあと、シスレイン様の身体に年齢の衰えが見え始め、やはり女性の身で領主の重圧を受けられるのは身体的に過酷であると、ザグゼスタ様の領主教育が急がれました。ザグゼスタ様にミリアルグへ留学いただき、短期間であらゆる勉学を学んでいただいたあと、お戻りになられてからもう数年のちに領主交代がなされました。その頃は祖父も亡くなり、父がザグゼスタ様と共に、マンダルバの執政に関わっておりました。私自身も、ミリアルグ留学後帰郷してから、父のそばで補佐役をしておりましたので、ザグゼスタ様の治世の半数には関わってまいりました。私がザグゼスタ様より管財官の任を与えられたのは、四年前のこと。父の突然の事故死で管財官の席が空いたことが理由です」
クイン・グレッド管財官の表情は固く、瞳に圧力が宿っていた。
「父は当時、ある紡績工場へ視察に行っておりました。マンダルバでは絹や綿織物を主に扱っており、良質のものは領外で国家単位で高値で直接取引をしております。本来ならば、管理者を置いているため管財官が直接視察に行くことはありません。赴いた理由は、利益操作の内部告発があったからです。マンダルバにおいて、商売の利益は管財官主導のもと、領主へと一旦上げられます。各管理者が報告した数字をもとに、領主または管財官が財を労働者に分配し、管理者へと報酬を与える。マンダルバ領とは、大きな商社のようなもの。各地方に官吏も配置され、帳簿監視も行なっており、よほどうまくやらない限りは不正はできない仕組み。その紡績工場において、誠に不正がなされていたか、いまでも明らかにはなってはいない。父と共に、工場もろともその証拠となるものも焼失してしまったからです」
痛ましい話に、管財官の表情の固さの理由がわかった。
「お気遣いありがとうございます」
ぼくの表情だけで、ぼくの心が読めたんだろう。クイン・グレッド管財官は一度表情を和らげ、また無表情に戻る。
「事故と事件、両面で捜査がなされました。私は管財官不在の間、ザグゼスタ様から正式な指名が出るまでも父の代わりに管財官の仕事をしていたため、捜査には直接関われずに、ザグゼスタ様の指揮で行われた捜査の情報を聞くことしかできませんでした。織物の火災で火の回りが早く、何名かその工場の主要な従業員も失われており、遺体の身元判明すら困難を極めました。ザグゼスタ様もこれは夢物語ではないかと願っていたとこぼしておられましたが、父が帰宅することはなく、その場で命をなくしたのは明白となった。不正の密告について、真偽を確認しようと火災捜査時にも徹底的に調べられましたが、失われたものは多かった。当時、マンダルバの紡績業においてはいくつかの系統があり、その紡績工場はアーノルト氏が管理する事業と競争関係にありました。父が抜き打ちで視察に行ったのも、紡績業はマンダルバの対外貿易において根幹となるものだからこそ。その火災後、管理をしていた家柄は急激に没落し、管理者としての資格を失いました。この件で、他の事業所の業績が上がり、利益を得たのが、管理の家柄にあったアーノルト氏なのです」
クイン・グレッド管財官は、鋭い眼のまま。
「アーノルト氏が関わった証拠は、いままでつかむことはできなかった。カルトーリ様捜索と同様に、この件もいままで地道に調査を続けてまいりました。最近になって、少しずつ証言が得られるようになりました。それらを信用しきっているわけではありませんが、領外の織物取引相手の情報も入手しておりますので、さすがにそこまでアーノルト氏の抑制力が働いているとは思えない。信憑性は高いと考えております」
「それが、アーノルト氏を退場させる理由なんですか」
アーノルト氏が本当にこの件に関わっているなら、大問題だ。
自分の利益のために、マンダルバの資産を失わせ、人材を奪い、管財官というマンダルバにおいて最も大切な人を殺める、それは、マンダルバにおける法においても、おそらくどの国家においても、大罪。
「カルトーリ様の襲撃は、いまのところ未遂。その行為だけでも重罪ですが、マンダルバ管財官の殺害は、極刑にしても足りないほどの大罪。命をもって償わせても、失われたものに比べれば程遠い。人の命に価値はつけられないと申しますが、能力と存在には価値がある。私は父の知識や才覚にはまだ到達しておらず、学ぶべきことは多く残されておりました」
クイン・グレッド管財官をも凌ぐ人だったのか。
それは、マンダルバの重大な損失だっただろう。
「マンダルバの利益の搾取、領外の盗賊たちとの癒着、それだけでもマンダルバでは重罪。アーノルト氏は、アラヴィ様との面談後、身柄を拘束し、罪を追求いたします」
「それは、正当性があることなんですね。領主の権力行使が、他の領民にも納得してもらえる範囲のものでないと、他の者に示しがつかないのではないですか?」
いくらぼくが領主だからといって、なんでも好きにしていいってことにはならない。きっと誰かに頭をすげ替えられるだけ。
クイン・グレッド管財官はかすかに笑っていた。
「カルトーリ様は、本当に聡明でいらっしゃる。いままでの私の小難しいはずの話も理解され、そのように問いかけもなさる。いったいどこでそのようなことを学んでこられたのです。過去をお尋ねしないと言っておきながら、お尋ねしたくなる」
ジョーイ・ハーラット管財官補佐も管財官の隣でニヤリと笑っていた。
「えっと、なんででしょう。周りの人の話を、聞いてただけなんですけど」
これは本当に。
リクのほうを見れば、椅子の肘掛に頬杖ついてに砕けて座っていた。眼はこちらにあったけど、さほど真剣でもない。
リクはずっと無言で、この話を聞いていた。
「カルトーリ様の勉学については、また改めて考えさせていただきます。一応どの程度まで知識をお持ちで、その知識を処理する能力をお持ちか、試験はさせていただきますが」
試験か。あまりいい響きじゃない。
「リーヴ殿も、あらゆる知識をお持ちとお見受けする。勉学に励んでおられるので?」
矛先がリクに行ってしまった。
「暇なときに本を読んでるだけだ。なにもしてないとさすがに馬鹿になる。生きていくうえで必要と思えるものを知識として蓄えている、それだけだ。学校など行ったことはない。偏りがないようには様々なものを読むようにはしてるが。基礎は」
リクはふっと笑みをこぼした。
「勉学の基礎は、母が先生だった。母は、そんなに頭のいいほうじゃないとは言ってはいたが、記憶力はよくてな、子供のころ、どこからか学校の教本を手に入れてからは母が色々と教えてはくれた」
「それはよいお母上でしたね。いまは?」
管財官の言葉に、リクは薄い笑みのまま目を閉じた。
「もう、だいぶ前に亡くなった」
リクは大きく表情を変えることはなかった。
ぼくはなにも言えなかった。
「失礼しました。お悔やみ申し上げる」
クイン・グレッド管財官が軽く頭を下げる。
リクは目を開け、ふっと笑う。
「いや。あんたの父親もな」
「ありがとう」
そのあとは、互いに身内の死を悼むような、静かなときが流れていた。
胸が熱くなって、目も痛い。
「なんでお前が泣きそうなんだ」
呆れたような声で言わないでリク。
その日は、本当に長い一日となった。
自分たちの荷物を宿から移していたリクやみんなは時間通りに夕食を食べ、ぼくはあとからいただいた。
お風呂ももらって、体を休めるためにリクと共に薄めのお茶をいただきながら、うつらうつらと、寝ぼけ出したころ、ドイレ執事が少し戸惑った様子で談話室に入室してきた。時刻は夜半よりも数刻手前、通常ならあとは寝るだけの時間。
「恐れ入ります、カルトーリ様。お客人がお見えです。密やかに、カルトーリ様にお取り次ぎ願いたいと」
え?
いったい、誰が。
「誰だ」
ぼくの心の声の代わりに強い眼のリクが言う。
「姿を外套で隠すようにおいでで、初めはどなたかわかりませんでした。あのお顔は、ユナム殿です。なにかを警戒するように、名乗られませんでしたが」
リクは眉を顰めた。
「管財官を呼べ。いますぐに。ナオ、管財官が来るまで待て」
「あ、はい。お願いしますドイレさん。あ、でも、内密に。ユナムはどこかで待ってもらって」
それでいい? リク。
リクはうなずいた。
「一応俺の連れたちに声をかけてくれ。きっとセリュフがなにか指示をするはずだ。誰かをユナムの監視につけさせろと伝えてくれ」
「承知しました」
ドイレ執事が一礼して退出する。
「なんで?」
思わず声に出る。
なんで、ユナムがここに?
「話を聞かなければわからんな」
リクは肩をすくめる。
なにも言わないけど、リクは辺りを警戒しているようだった。その顔が戦闘時と似たようなものだったから。
クイン・グレッド管財官は、本都に住居と執務のための館を持っている。ジョーイ・ハーラット管財官補佐も、そこで寝泊まりし、通常の仕事に従事しているそうだ。
急ぎの馬だったら、そう遅くはならないだろう。
リクはシン・レを呼んでユナムとの対面のための部屋の準備を整えさせ、待っている談話室の暖炉に薪を足し、ぼくの体が冷えすぎないようにしてくれた。
ひょっこりとフィジが扉を開けて顔を出し、
「あたしたちもいたほうがいい?」
と言ってくれた。
ぼくには判断がつかない。
リクを見ると、自分で判断しろと顔で言っていた。
「えーと、あんまり大人数で迎えるのも、向こうが構えてしまうかもしれませんし、別室で、待っててもらえますか?」
「了解。でも、キースを変装でもさせて密かに置いておく?」
いたずらっ子の瞳だ。
笑って首を振った。
「大丈夫です。リクがいるから」
フィジはあははと笑って顔を引っ込めた。
「あれは相変わらず緊張感に無縁だな」
リクが半ば感心したように言う。
「強い、人だよ」
本当に。
管財官が管財官補佐と共に現れ、どちらも顔が真剣だった。
誰も予期しない、突然のユナムの訪問。
午前に顔を合わせたのが、遠いことのように感じられた。
ヤトゥ商会の男たちは、会談に用意された部屋の扉近くに配置され、部屋の中にはぼくとリク、管財官と管財官補佐、シン・レはフィジたちと別室待機と決められた。いまユナムのところにはル・イースがいるとのことだった。
部屋を移動すると、いくつか扉がある部屋で、そのそれぞれの外にぼくの身近な人が立っている。なにがあっても、どこかには身を移せる体制だった。
ユナムはこちらの体制が万全に整えられてから連れてこられた。連れは一人。こちらとなにかと舌戦を繰り広げた、コーグ氏。
二人とも、入室してからぼくに気づくと頭を下げた。
「こんな時間に、申し訳ありません、カルトーリ様。面談の許可をいただき感謝申し上げます」
暖炉の近くに座らされたぼくは、厚めの上着を着せられた、こちらも重装備。
「堅苦しい挨拶は不要です。なにか、話があって、わざわざ来られたんでしょう?」
立ったままの二人に、椅子を用意するように管財官に依頼する。
二人はぼくから離れたところ、入り口近くにそのまま座らされた。
どちらの陣営も表情は固い。
ユナムは、いままで見た限りでは、どちらかといえば可愛らしい少年らしい風貌で、周りを不快にさせるような言動はなく、控えめな態度な人だった。
それはいまもあまり代わりないけど、表情のせいか、可愛らしさは少なくなり、どこか男らしさが増えていた。
これが本当のユナムかと思った。
でも、なかなか口を開かない。
それはそうだ。
管財官に管財官補佐、リクまで部屋の中にいて、誰もが戦闘時に近い雰囲気、話をしたくても切り出せるような空気じゃない。
ぼくはいまはみんなに守られている立場だから、この空気が不快ではないけど、ユナムにしてみれば居心地が悪いに決まっている。
「クイン・グレッド管財官、お茶を用意してもらってください。今夜は少し冷えました。ちょっと温まってもらってから話をしましょう」
自然に笑みを作れた。
クイン・グレッド管財官も、ぼくの意図をわかってくれたのか、少し雰囲気を和らげた。
「はい、カルトーリ様。ユナム殿、少しお寛ぎなさい」
ユナムは驚いたように目を大きくし、ぼくに頭を下げた。
それはもういいですって。
コーグ氏も恐縮した様子で、シン・レが持ってきたお茶がユナムにも行き渡り、二人には温かいお茶で気を落ち着かせてもらった。
「ちゃんと話をするのは、これが初めてですね。こんな出会いでなければ、他の話もできたんでしょうけど」
敵対していた二人だ、打ち解けなくても仕方がない。
「お気遣いありがとうございます、カルトーリ様。うかがったのは、私の後見人、アーノルトに関することです」
ユナムは茶器をシン・レに返すと彼にも目礼した。その丁寧なしぐさに、ユナムに対するぼくの警戒心は薄れていく。
「カルトーリ様が、あなたであることに、私はありがたく思っているのです。アーノルトを、あの男を、きっと捕らえてくださるだろうと思えたから」
あの男?
どういうことだろう。
リクはぼくの近くの椅子で、腕と足を組んでいた。
でもリクは言葉を出さない。
「私は、俺は、僕は」
ユナムは顔を歪めて、泣きそうな目をしていた。
「すみません、自分を偽りすぎて、どんなふうに話をしたらいいのか」
子供のように顔を歪ませ息をつくユナムに、近くで慰めてあげたい気分になる。
「自然のままに。素のまんまで、心に浮かんだもの、そのままで。ぼくは、ただの十四歳の子供です。領主になってまだ一日も経ってない。そんなのまだ領主になんてなりきれてません」
笑って言うと、ユナムも顔を歪ませて笑う。
「前に、記憶が曖昧だったなんて、嘘をつきました。俺には、ものごころついたときからの記憶がある。カルトーリ候補として、管財官に面談したときも、無害な少年を装いました。そのほうが選ばれやすいだろうからと指示をされて。俺は、アーノルトに用意された、カルトーリとしての偽りの駒。俺は、そのためだけに生まれ、カルトーリとなるために育てられた」
どういう、こと。
リクは固い顔のまま眉を顰め、管財官も表情をなくしていた。
「俺がそれを知ったのは、このコーグが俺の境遇に同情し、アーノルトの行動を報告してくれていたからです」
コーグ氏が血の気の引いた顔で管財官やぼくを見渡す。
「私は、アーノルト様より、ユナム様の成長を見守る使命を与えられました。初めは、まだ雑用のようなことをしておりましたが、あるときより、子供の世話をするようにと命じられ、領外のムトン地域、場所で言えばハレイナディの国境近くに行かされました。当時はアーノルト様に心酔し、絶対の忠誠を誓っていた私ですから、どんな仕事もこなすつもりでした。子供は、ユナム様はまだ甘えたい盛りのほんの子供で、私は事情もわからないまま、お世話をすることになりました。その村では、いえ、村と言っても、無頼の者がいたり、流れ者が多いようなところで、子供もほとんどおらず、そんなところで暮らしておられたユナム様にはご友人が一人、歳の近いクラフがいただけで、他にはいないくらいで。私はユナム様と共に、クラフの成長も見守りました。アーノルト様から、ユナム様が前ご領主の落とし胤であると聞かされたのは、一年を過ぎたころ。ユナム様はまだ六歳でいらっしゃいました」
管財官も眉を寄せる。
前領主が捜索人を使ってカルトーリの母の遺体を見つけるまで、徹底的な情報制限をしていたはず。
そのころにはまだ、カルトーリの母は生きていたはずだし、きっとまだ子供を手放してはいない。
「どういう、こと」
コーグ氏は顔を歪めて、少し項垂れた。
「私が色々と真相を知ったのはあとのことで、当時はそれが本当のことだと思っておりました。可愛い盛りであったユナム様が、いつかマンダルバの領主になられればと、夢を見てもおりました。アーノルト様のもと、正しくない事柄も自ら進んで加担し、アーノルト様の信頼をある程度得ていた私は、あるときアーノルト様の命を受けました。ユナム様を、正式に次期ご領主とするための教育をと。それは、いまから思えば、カルトーリ様のご母堂の事故死のすぐ後のことだったと記憶しております」
いくらなんでも、それは早すぎる。
「ユナム様はそのころは素直なお子で、クラフを兄のように、私を義理の父のように接してくださり、どうやってこのことをお話ししたものかと悩みました。同時に、アーノルト様に、私は不信感を持ち始め、なぜユナム様が前ご領主の落とし胤と知ったのか、なぜこの時期に次期領主としての教育をと言い出されたのか、疑問に思うようになりました。アーノルト様への信頼よりも、ユナム様への愛情のほうが、私の中で勝ってしまったのです」
項垂れながら話すコーグ氏に、ユナムは表情を固くしたままだった。
「私は、ユナム様に本当のことを話す決心をいたしました。私がユナム様をお育てしているのはアーノルト様の指示であったこと、その後にどういったことを命じられたのか、いまマンダルバでどのようなことが起きているのか、すべてを詳らかに」
言葉を失ったコーグ氏の続きを、ユナムは繋いでいく。
「俺は、いままで慕っていた人が、誰かの命でしていたことを知り、衝撃を受けました。コーグさんにはよくしてもらいました。俺の、父とも言える人です。そんな彼が、苦しそうに告白する様を見て、俺になにが起きてるんだろうと、よく考えるようになりました。勉学にも励むようになりました。学ばなければ、生きていけない、そう感じたから。そして、アーノルトからの新たな指示があれば、すべて言ってほしいと、コーグさんに言いました。それから、独自に、アーノルトのことを調べられないかと」
コーグ氏は、持っていた小さな鞄を管財官補佐に差し出した。
「私が調べたすべてのものです。それから、アーノルト様の指示の詳細もそこに。どうか、ご確認ください」
ジョーイ・ハーラット管財官補佐はその鞄を受け取り、卓上に中身を出してクイン・グレッド管財官に差し出した。
管財官はしばらくそれらを時間をかけて確認し、一つの資料を見終えると管財官補佐に手渡し、管財官補佐もその内容に目を通した。
管財官は無表情を通り越して、この人に表情なんてあるのかと思うような仮面の人になっていて、逆に管財官補佐は顔をしかめっぱなしで、なにか見つけるたびに舌打ちしていた。
なにが、書かれているのか。
知るのが怖かった。
「管財官」
あまりに長い沈黙に、リクが低く発言を促す。
「カルトーリ様」
管財官の無表情の目が、ぼくを真っ直ぐに見つめる。
「この内容は、まだカルトーリ様にはお聞かせできないほどのもの。どうなさいますか」
管財官がぼくに確認するくらいの、そんなものなのか。
きっと、ぼくは聞かないといけない。
でも。
リク。
ぼくに、その勇気があるのかな。
ぼくを見るリクは固い表情だったけど、
「よければ、見せてくれ」
管財官にそう言った。
クイン・グレッド管財官は、一度ためらったが、管財官補佐から書類を受け取り、リクに手渡した。
リクは、急がず、一文字も漏らさぬようにそれらに目を通していた。
管財官と同じように、表情がない。
ユナムは辛そうに目を閉じていて、コーグ氏は顔面蒼白だった。
ときどき暖炉の薪が割れる音と、リクがめくる書類の音だけが部屋の中に流れていた。
時間が過ぎるのが遅いと感じた。
リクが顔を上げた。
ぼくを真っ直ぐに見つめる。
「管財官の確認は正しい。お前には、本当は聞かせたくない話だ。だが、お前がマンダルバの領主であるからには、聞かなければならないことでもある。どうする」
リクも、ぼくに判断を委ねた。
かえって、怖さが増す。
「ぼくが、それを聞いて、耐えられないと思う?」
リクはしばらく口を開かなかった。
「わからない」
リクがわからないって、どれだけのもの。
ぼくには怖いものがいくつかある。
でも、一番怖いのは、きみに見放されること。
だから。
「聞くよ」
管財官に目を向ける。
軽く息をついて、管財官は口を開く。
「スーザでの面談のおり、アーノルト氏はこう言っていました。カルトーリ様のお母上、ルマ様の捜索を、ザグゼスタ様が密かに行なっているようだと。それは本当のことでしょう。おそらく、ルマ様が身籠もられていたことも、予測していたのでしょう。しかし、男児であるのか女児であるのか、姿はどのようなものであるのか、さすがにわかってはいなかった。それでも、いまユナム殿がカルトーリ候補として立候補したように、いつかそういうときがやってくる、そのときのために、さまざまな子供を用意した。ザグゼスタ様とルマ様は、共にマンダルバ人の特徴をお持ちで、そのお二人に生まれてくる子は特徴的にはマンダルバ人そのものであろうと、予測はできた。アーノルト氏も典型的なマンダルバの者。当時は若い男で、男盛り。そんな男が、次期領主たる子供を用意しようと思えば、一番簡単な方法はなにか」
管財官はあえて言葉にしなかったけど、想像できてしまった。
ユナムを見る。
ユナムは顔を歪めたまま。
「ある時点で、その子は男の子だと判明する。アーノルト氏はああ見えて慎重な男。女児が産まれていた際は、その子はどうなるのか。その母親も。いえ、ユナム殿の母でさえも」
「申し訳、ありません!」
コーグ氏は椅子から下り、ユナムに対して地に伏し頭を床にこすりつけた。
床に伏してくぐもった声で、コーグ氏が懺悔をする。
「私は、その女らは罪人であり、その子らも生きているだけで不幸になると、そう言われて、仲間や盗賊崩れの者たちと共に、その罪人を成敗して回りました! 当時は知らなかったことながら、許されることではありません! そのことを楯に、アーノルト様から最近になって、ユナム様をカルトーリ様として立候補させよと命令がありました。私も、ユナム様も、アーノルト様の命に逆らえば、いままでの者たちのように捨てられます。従順に、カルトーリ候補として行動するしか、ユナム様の道は他にはなかったのです!」
ぼくは、なにも言えなかった。
ユナムはぼくの目を見る。
なにかに諦めたような眼。
「カルトーリ様のもとに来ること自体が、俺たちにとっては危険なこと。知られるわけにはいかないのです。それでも」
それでも、生きたいと願う光が、その瞳の中にある。
「あなたは、言った。俺の思う通りに、判断し、行動せよと。俺は、あなたに、期待をした。あの男を、管財官と共に、きっと捕らえてくれると。俺は、俺のきょうだいたちと、母たちに、託された命。俺自身はどうなっても自業自得。あの男の血を引いているだけで、それだけでも罪人。カルトーリ様にとって邪魔な命ならば、この場で喉を掻き切ってみせる」
強い人だ。
ぼくは話を聞いただけで、胸が痛くて苦しくて、ほら、熱い雫がこぼれてしまった。
ユナムはぼくの歪む視界の中、戸惑った顔をしていた。
リクといい、ユナムといい、どれだけ苛酷な星の下にいるのか。
体に力が入ってしまって、リクのほうを向くまで時間がかかってしまった。
「リ、ク」
リクの姿が見えただけで、ぶわっと涙が盛り上がり滴り落ちていく。
リクは立ち上がって近づいて、ぼくの頭を抱きかかえてくれた。
「泣き虫め」
だって。
こんなにひどいことが、あるなんて、思わなかった。
しゃくりあげるのはさすがに我慢をして、滴るものはそのままに、しばらくリクの胸を借りていた。
リクの服にしがみついて、リクと、ユナムの境遇に泣く。
ぼくが落ち着くのをみんな待ってくれて、管財官補佐に布地をもらって涙を拭く。
あらためてユナムに向き直り、彼の眼を見る。
ユナムも、泣いていた。コーグ氏は床にひざまづいたままで号泣している。
ユナムはふらりと立ち上がり、ぼくの座る足元までやってくる。
ぼくの室内靴に手を置くようにひざまづき、涙に濡れた目で見上げてくる。
「俺の命を、カルトーリ様にお預けします。俺のために泣いてくださったあなたに、俺のすべてを委ねます。あなたのために生き、あなたのために死にましょう。そのために、どうか、あの男を、俺の仇を、討たせてください」
また涙がやってきて、お互いに頬を濡らしながら見つめ合った。
「必ず」
ぼくの言葉に、ユナムはまた涙を零しながら笑った。
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