君と過ごす最後の日
せきから
*
僕達が、見上げた星空は綺麗でまだ死んではいなかった。
「僕達は、もうそろそろ死ぬけど後悔があるか探してみようか」
「なんで、そんなことをするの?そんなことをしたら死ぬのが嫌になるよ」
僕は、死ぬのが嫌かどうか確かめようとした。
「後悔がないから、敢えて後悔をさがしているんだよ。皆んな死ぬときは、『死にたくない』って思うだろ?だから『死にたくない』って理由を探して皆んなと同じように死のうと思って」
そんな事を僕が真面目に話すと君は抱腹して笑い始めた。君の座っているお尻を支えている、丸いガラスの水が付いた芝生が勢いよく沈んだ。その付いていた透明で小さな雫は、僕達の頭の上まで飛び上がって星々の光を集めた。それを覗くと万華鏡のようで、どんな宝石よりも魅力的で尊いように思えた。恐らくそう思えたのは、ほんの一瞬だけ宝石になった後に弾けて消えてしまったからだろう。
「やっぱり君は、最後まで君だね。少し人とずれているところが。皆んなと同じように死を迎えるために後悔を探すとはね。だけどその後悔は、絶望でしかないんじゃないのかな?その後悔で死ぬ間際に放つ言葉は、心が崩壊する断末魔だろうに。そんな最上級の絶望を君はなぜ味わいたいの? 」
流れ星が空から堕ちてきて、僕達を囲んで限りなく続く白いひまわりの花畑の上で粉々になった後、白い花弁の上に乗り、青く辺り一面をほのかに照らした。
「僕はね。死ぬときは、ちょっぴりの希望とちょっぴりの絶望を持って死にたいんだ。もちろんどっちかだけに偏ってはいけない。希望だけを抱いてしまうと、楽天的で陳腐なものになってしまう。どうも力強さがたりなくなってしまう。最後の最後に激しく灯火を燃やせない。ゆらゆらとただ燃えて終わってしまう。絶望だけを抱いてしまうと、死ぬ前にもはや死んでしまっているのと同じになってしまう。前から死ぬという事がずっと続いていて、ただ肉体が死んでしまったという事だけになってしまう。これだと、蝋燭に火が灯っているというより、溶け落ちた蝋に火が灯っているようなものだよ。人は絶望を乗り越えようと希望を持つから輝くんだ。だから、絶望しているけど希望を持っている『力強さ』を抱いて死にたいんだ。」
僕達は、結局お酒を飲めなかったから酔うという事がわからないけどこれが酔うという事だと思った。僕達の顔は、少し桜色になっているのが、水溜りの鏡を見てわかった。
「そうは言っても、僕達は後悔がないように、一年を過ごしたよ。春には、桜の下で花見をしたり、菜の花の中を駆け抜けて鼻からめっいっぱい花の匂いを吸い込んだりして。だけどその時、2人とも真っ白のTシャツだったから真っ黄色になっちゃって揃ってお母さんに怒られたね。
夏には、朝にちょっと暗い森の中で、カブトムシを捕まえてどっちが強いか勝負して、昼になれば海で真っ黒焦げにまるまで遊んで、夜にお互い浴衣を着て花火をみた。
そうそう、秋には本をたくさん読んだね。僕は、銀河鉄道の夜が好きだよ。僕達はジョバンニとカンパネルラのようじゃないかな?もし銀河鉄道があるなら2人で乗ってどこまでも行こう。
冬は、雪遊びをしたね。そしたら、2人で手が悴んで動かなくったのをお互い手を重ねて温めたのを思い出したよ。今思うと手袋つければよかった。
ほら、振り返ってみてもやっぱり後悔なんかないよ」
僕達は、手を握った。僕の手も君の手も水分がなくてサラサラしていた。
僕は言った。
「いや、今後悔ができた」
「後悔ができたの?どんな後悔?」
「それは、君とこの一年しか居られなかったって事だよ。僕と君は、ちょうど一年前にあったけどもっと早く会っていればよかった。それでもっと一緒に遊べばよかった。ご飯の時も寝る時も一緒に居たかった」
僕は、りんごみたいに顔が赤くなった。りんごをガラスの水が伝う。そうすると君がちょっと強めに手を握った。
少し痛かった。けどその後緩んで、痛くなくなった。
「じゃあ、希望を持とうよ。一年間の思い出も希望だけども、少し絶望の方が強くなってしまったから 」
「じゃあ、どんな希望を持てばいいんだい?」
「それは、来世、『兄弟に生まれかわる』っていう希望だよ!もし兄弟に生まれかわったら、喧嘩をして殴り合って、だけど仲直りして泥まみれになりながら遊ぼう。色んなところに行って走り回ってお腹が空いてご飯を食べて、クタクタになってぐっすり眠ろう。世界で一番仲がいい兄弟に生まれ変わろう」
「それは、いいね」
僕達は、笑顔で目を閉じた。僕達は、最初で最後に寝る前が楽しかった。
君と過ごす最後の日 せきから @sekikara
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