第19話 アイドルの色

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ヂリヂリヂリ!!!!!!!!!!!


目が覚めるときはいつも左隣の台の上に置いてある緑色の目覚まし時計が鳴いている。いつから鳴いているのだろうと気にはなるが、時計を見ると、設定した時間を針がさしているので、ホッとする。

 

 サッと布団をめくって起き上がり、両手を上に高く上げて体を伸ばす。これだけで身長が高くなったような気がする。こうした動作と感情がいつの間にか私のルーティンとなっている。起きてからも私の暗黙のルーティンは続く。


 トイレに行き、洗面所で顔を洗い、うがいをしてから、水を一杯飲む。そしてキッチンへ向かうと、既に母さんが朝ご飯を準備してくれている。

「おはよー」

「おはよ。朝ご飯準備できてるよ」

この会話はもう朝の常套句だ。

テーブルにはご飯と卵焼きとソーセージと味噌汁が私の分だけポツンと置いてある。父さんは既に会社に向かい、弟はまだ寝ている。こうして私は毎朝一人で至福のひと時を堪能するのだ。


 先に家を出た父さんが付けっぱなしにしたであろうテレビが今朝入ったニュースを映し出している。まだ寝ぼけているのか、流れているニュースが頭に入ってこない。映っているのが誰かはわかる。この前バラエティ番組の「息止め対決」で活躍していたアイドル……え??


 その時、右上のテロップの文字の意味を理解し、目が一気に覚めた。そしてなぜか心臓の鼓動が早くなった。テレビの方向に仁王立ちしたまま体がピクリとも動かなくなった。母さんはキッチンで洗い物をしているから気づいてないが、明らかに私は不自然な状態だ。私はテロップをもう一度読み返した。


「国民的アイドル卒業宣言 熱愛発覚…」


卒業、、熱愛発覚、、

なぜかこの2つの言葉が私の心に響いた。

あれだけバラエティ番組を全力でやっていた子が。あれだけ輝いていて、人気があって、アイドル大好きなのが伝わるくらいキラキラしていたあの子が。

 テレビの中の彼女は涙を流しながら、「卒業します」とハッキリ宣言している。


「多くの方々が応援してくれているのにも関わらず、皆さんのことを裏切るような行動をとってしまいました。本当に申し訳ございません。私は今回の騒動を受け、色々考え、卒業する決断に至りました。」


応援、裏切る行動、申し訳ございません、騒動、卒業、、、

彼女の喋っている言葉の一単語一単語が耳に深く入り込んでいく。


アナウンサーによると、彼女は一般男性と原宿で手をつないで歩いているところを撮られ、週刊誌に載ってしまったらしい。彼女は恋愛をしていたということだ。


「この子、かわいいし、性格もよさそうだったのにね」

いつの間にか私の背後に母さんが立っていた。母さんの声はどこか優しさであふれているような気がした。

「たかが、男の子とデートしてたからって、芸能人やめなくてもいいのにね~」

口から軽やかに出た母のその言葉はなぜか私の心にズシンとのしかかってきた。なかなかの重さだった。


 そう。恋愛をしたことで、今までの仕事が。大好きなアイドルとしての仕事を失うなんてことが本当に許されていいのだろうかと感じた。もちろん彼女が恋愛禁止というルールを前提にこの世界で仕事をしているのかもしれない。にしてもだ。恋愛というのは誰もが自然とするものなのに。


 この一つのニュースを見たことで、私の考えや感情といった固形物が混在し、頭の中を巡り巡っている。それを感じれば感じるほど、頭がくらくらしてくる。


 私はこのニュースに押し倒されないよう、すぐに席に着き、目の前にある味噌汁の入ったお椀を持ち、味噌汁を体の中に流し込んだ。このまま、頭の中の固形物をも消し去ってしまいたかった。それでも頭の中のモヤモヤは消えない。それでも学校には行かなくちゃいけない。

 スクールバッグとは比べ物にならない重い荷物を胸に抱え、私は家を出た。

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