第15話 亮太くんの色①
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退屈であればあるほど、頭の中は県大会のことで頭がいっぱいになる。
日本史の授業なんて特にだ。
山下先生がいつも通りつまらない話をしている。こんなつまらない日本史の話なんて誰が聞いてるのだろうか、と思ったが、周りを見てみれば意外と話を真剣に聞いている生徒がちらほらいる。人それぞれ興味のあるものってこんなにも違うんだなと思う。だとしたら、日本史を心から好きな人だけこの授業を受けてくれ。
まあそういうわけにはいかないのが現実だ。
あーあ、こういう時間こそ走る練習がしたい。県大会の不安が頭の中でグルグルするくらいなら、今すぐ練習したい。こんなつらい時間必要ない。
トントン
左肩に何かが触れた。左側を振り返る。もちろんいるのは亮太くん。彼はなぜか不思議そうに私の方を見つめていた。
「…ん?」
私も不思議に思って、彼に一文字のクエスチョンを投げかける。
「どうしたの?」
彼は周りに聞こえないほどの小さい声でそういった。どうしたのって、それはこっちのセリフだ。私は首を左に傾けて、「何を言ってるの?」という仕草を見せてやった。
「なんか元気ないよ。なんかあった?」
驚いた。七海と同じセリフを私に投げかけてきた。去年知り合ったばかりの彼でさえ、私がいつもと違うということに気づいた。そんなに私ってわかりやすい人間だったのか。
そして、彼に地区予選の報告をしてなかったことに気づく。
「あのね、この前の地区予選、3位だったんだ」
「そうなんだ。それって県大会は…?」
「県大会はいけるよ」
「え?よかったじゃん!おめでとう!」
彼は意外にも私の悔しさに同情することなく、むしろ私が県大会に行けたことに喜んだ。意外な反応にえ?と思ってしまった。たぶん私の顔にそれが表れていることだろう。
「まだ走れるってことだろ?残り少ない高校生活、できるだけ走ってたいだろ?」
笑顔でそうささやく彼はとても目をキラキラさせていた。もちろんそういう意味では嬉しいことだ。まだ走っていられる。それは嬉しいことだった。
「ありがとう」
ちょっと不愛想にお礼を言ってしまった気がした。それでも彼は笑顔で私に向かってガッツポーズを見せた。自然と私は笑顔になれた。
「亮太くんは?最近野球部どうなの?」
「来週地区大会なんだよね。今はそれに向けて調整って感じ」
「そうなんだ。優勝しなきゃね」
「いや、正直優勝しようとかそういう願望はないんだよね」
「え?、、、そうなの?」
「うん。もちろん優勝したいはしたいけど、最近野球ができているってことが嬉しくて仕方ないんだよね」
意外な答えが返ってきた。彼は優勝とか順位にこだわらず、今一緒にいる仲間たちと野球をすることを大切にしている。
亮太くんは本当に野球が大好きなのだろう。野球をしている姿を見てても、それは感じる。でも、私が思っている以上に野球が好きなのかもしれない。
そう考えてから見る亮太くんはいつもより輝いてみえた。彼はちゃんと彼らしい色を私たちに見せているなと感じた。
「じゃあ、石倉。この空欄には何が入る」
「・・・・え?」
突然山下先生に名前を呼ばれ、思わず声が出た。先生は黒板に書いてある文章中の空欄を指さしてこっちを見ている。
「あ、、、すいません、わかりません」
先生の顔の眉間が寄った。やば。
「石倉、お前話聞いてたか~?陸上の事で頭がいっぱいになってんじゃないのかー?」
え、図星なんですけど。
山下先生まで私の心を見透かしているのか。
「す、すいません」
謝ることしかできなかった。周りのみんながクスクス笑っている。
あーもうまた恥ずかしい思いをした。
チラッと亮太くんの方を見たら、両手を合わせてごめんと謝っていた。
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